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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

式神召喚シリーズ

やさしい死神  戦国時代編

作者: ソルト

 

 時代物風になります、史実とは関係ありません。

言葉使いも当時のものではありません、ご了承お願いします。

魔法で式神召還したら魔法少女がやってきた のスピンオフ作品です。

三章 閑話13 死神と呼ばれて・・・(後編) に関連あります。


 俗に言う{戦国時代}の頃の話である。

当時室町幕府の権威は地に落ちていて、地方は実力者たちが覇を競っていた時代、

朝廷は辛うじて権威を持って存続していた。

大陸やその周辺国では王朝の交代がしばしば起り、

その都度前王朝の粛清が行われているのに、この国でそれが起こらないのは不思議であった。

おそらくは権威はあれど直接力を持って統治しなかったためであろう。

権力者にとって{箔}をつけてくれる存在はありがたく、その需要で生きながらえているのでは?

そう思われることであろう。

だが、彼らとてただ其の日の流れに身を任せているのではなく、

隠している爪もあれば目も持ち合わせている。


その一つが「八瀬」である。

この地に住む者どもは、先祖代々朝廷に仕えており、

主に天皇の駕籠を担ぐ仕事に付いている。

それは大事なことではあるが、彼らの本質を逸らすための欺瞞と見る向きもある。

それは「天皇の隠密」とまことしやかにささやかれている風説である。

過去にこの風説に踊らされ探りを入れたものが多々居たが結局尻尾すらつかめないままであった。

そのため、この時代それを信じている者は居ない。

ごく一部の者を除いて。


天正十年四月


影山兼秀は{いそぎ、こられよ}との知らせを受け宮中へ行った。

兼秀の身分は無位無官の地下であり、本来ならば参内などできない。

八瀬の出であるので雑役をする者と同じに庭先に密かに参上したのだ。

「きたか。」

「はっ。」

本来ならば直答することなど許されないやんごとなき方とも話すことが許されているのだ。

「前右府が左大臣推任を断ったのが九年のことであった、今年は三職を示したが受けなんだ。」

其の声には痛恨の思いがあると兼秀は内心思ったが口にはしなかった。

ちなみに三職とは太政大臣・関白・征夷大将軍 のことである。

「宮中は彼者を畏れる声が多い、{尊氏なし}と畏れられた足利尊氏以来じゃな。」

「・・・ ・・・」

「此度はそれすらぬるいと言う声もある、唐の国の覇者のごとく朝廷を廃するのではとな。」

「それは・・・」

「いや、前右府は権威などを認めぬ徒であるとは彼のバテレンと言ったか、

フロイスなる者すら語っていると聞く、堺なども本願寺辺りも同じ見解じゃ。」

「いかがいたしましょうや?」

「関白たちも危機感を募らせておる、策をめぐらせておるが、そちに命じておいた件は?」

「すでに手を打っております、御下命あればいつでも。」

「うむ、其のときは迫っておる、頼むぞ。」

「ははっ!」




天正十年六月二日 


 本能寺は寺というよりも一種の城郭といっても良い作りをしている、

ここが前右府織田信長の京における宿泊地でもあり鉄砲の火薬などの集積地にもなっているからだ。

其の一室では先ほどまで男女の一戦を行っていた。

「あここ、三条西家の事だが心配は要らぬ、甥子の公盛 をわしが後見してやろう。」

あここと呼ばれた娘はまだ十八にもなっておらぬが其の豊満な肢体にぞっこんなようだ。

「うれしゅうございます、亡きおもうさまも草葉の陰で喜んでおりましょう。」

そう言ってはにかむあここを信長は愛しく思っていた、彼は自分を慕う女子供には優しいのだ。

そこに廊下を急ぎ足で近づく音がして、襖の前で止まった。

「火急の事あり、ご無礼仕ります。」

「蘭丸か、許す、述べよ。」

「この本能寺を囲む軍勢がおります。」

「なに?」

耳を澄ますと馬の嘶きや大勢の人のうごめく音が聞こえてきた。

「どこの手の者か?」

「旗印は水色桔梗、明智殿かと思われます。」

「うむ、明智は堺のはず・・・もしや!」

「直ちに脱出を! 抜け穴の用意はできております。」

信長という男はこのような事態になっても逃げれるように常に気を配っていた。

何かあればためらわず逃げる、朝倉攻めのときと同じように。

安土に行って体勢を整えるのだろう。

「あここ、支度せい!」

「あい、できております。」

振り返ると、あここはすでに衣服を身に着けていた。

だが其の服は先ほど一戦する前の纏っていたものではない、

巫女が着るようなデザインの衣服だが色が黒を基調としたもので異様さがにじみ出ている。

「あここ、そなた・・・」

「前右府様、あこことは仮初の名、三条西にはそのような娘はおりませぬぅ。」

「なんと!」

「今宵はぁ、約束の日、お命をいただく日でございますぅ。」

辛うじて刀を手にした信長がつぶやく。

「どこの刺客じゃ?」

「知る必要の無いことでございますぅ。」

其の言葉と同時にあここと呼ばれた少女の雰囲気が一変する、

黒を基調とした服が黒一色に染まっていく、

そして足元の影より漆黒の武器がせり上がりそれをつかんだ彼女は言った。

「お覚悟めされませぇ。」

そこに襖を開けて入ってきた森成利(蘭丸)が叫ぶ。

「そなたは冥土の使者か!」

「そうよぉ。」

「ならば、是非に及ばず。」

そう言って信長は目を閉じるのであった。






外では明智軍と数少ない信長の供回りとの小競り合いが起きていた、

だが、多勢に無勢、すぐにここに迫ってくるだろう。

あここと呼ばれた少女は血に染まった回廊に沿って油を撒いていた。

そして先ほどの部屋に戻る、そこには物言わぬ骸となった信長主従がいた。

残る油を部屋に撒き、灯火を蹴倒す、火は寝具に移り大きくなっていく。

「信長様、あここは寵愛を受けて幸せでございました、御礼申し上げます、

そしてお別れです、あここは今日より居なくなります、もうお会いすることはありますまい、

たとえ{極楽浄土や地獄}でも。」

そうして、一抱えもある桶を大事そうに抱えて消えていくのであった。









「無事勤めを果たしたか、ようやったつくよ。」

兼秀は無事に帰った娘を見て頬を緩めた。

「おもうさま、これが信長の{首}ですぅ。」

手に持っていた桶を床にそっと置いた。

月と呼ばれているのは昨日まであここと呼ばれていた少女である。

これが彼女の本当の姿なのだ。

父親は桶を開けて確認し頷いた。

「間違いない、お上にもお知らせしよう。」

「その御首はどうなるのぉ?」

「祟られぬように供養してから懇ろに埋葬するであろう、大方高野山に送られるであろう。」

父の言葉通り首は密かに供養の後高野山に送られた、後に信長の墓が立てられたとき、

埋葬されたと思われる。

本能寺の焼け跡から明智の手のものが血眼になって探しても見つからないわけである。

「そなたには、つらい思いをさせてしまったな、意に沿わぬ男に身を任せるようなことになった。」

「{あここ}はねぇ、前右府様をお慕いしていたからねぇ、其の心配はないよぉ。」

勤めのために{三条西家のあここ}になりきっていたのでつらくは無かったと言いたい様だ。

「それとねぇ、子ができていても其の子は影山の子として育てて欲しいんだぁ。」

何かの予感があるのか彼女はそう言った。

「よかろう。」

事実、それから十月もせぬうちに月は男の子を産み落とした、

兼秀はそれを自分の末子として育て、長ずるに影山家を継がせた。

このたびの影の働きに影山家は最下位ながら階位を得て地下人となった。

影山家ではつくを称え「中興の祖」としてあがめた。

彼女はその後務めを続けながら、ついに独身で通した。

後に娘の事を聞かれた兼秀はこう言ったという。

「娘には、もう手の届かないところに思い人がおるんじゃ。」

つくは長命を保ち生涯名乗りを上げなかった子や孫を助けたと言う。



ここまで読んでいただいて有難うございます。


誤字・脱字などありましたらお知らせください。


自分はこちらのジャンルのほうが向いているのかなと思います。



感想や評価などあれば今後の励みになります


よろしくお願いします。


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