プロローグ
空は世界の何処へでも繋がっていると、いつだか聞いたことがある。
けれど、その日その時に見た空は、世界の何処とも繋がってはいなかった。
それが物語の終わりで、それは物語の始まりだった。
* * * * * * * * * *
広い広い草原で、空を見上げて寝転んでいた。
視界には一面の青色が広がり、時折視界の隅を黒い煙が掠めていく。
頬を優しく撫でる風は、同時に焦げた臭いを鼻に運んで来る。
聞こえてくるのは草木が風でざわめく音と、轟く爆発音。
そんな中、声が聞こえた気がした。
「……です」
気のせいだろうか?
この辺りにもう人はいないはずだが。
「お願いです」
しかし今度はハッキリ聞こえた。
女の声だ。それなりに若い。
起き上がって辺りを見回しても誰もいなかった。
広い草原と、遠くに瓦礫と黒煙が見えるだけだった。
「何だ? 誰だ?」
問いかけるが答えはない。
空耳か?
そう思って再び寝転んで空を見上げる。
すると、それを見計らったかのように、再び声が聞こえてきた。
「助けて下さい」
すぐ傍から声がする。
いや、直接耳に聞こえてきているようですらある。
「お願いします、助けて下さい」
また聞こえた。
やはり何処からというわけではなく、直接。
「ついに俺もイカれたか?」
自嘲気味に笑いを漏らす。
まぁそれならそれでいいか、とその声に返事をする。
「俺でよければ手を貸そう。何、どうせすぐ尽きる命だ。気にすることはない」
その答えに満足したのか、声は止んだ。
やはり幻聴だったのか、それにしてはハッキリ聞こえたが。
それともそれ程までに俺の頭がポンコツだという事か。
まぁどうせ死ぬのだから今更気にすることでもないか。
そうして少し強めに吹いた風に目を閉じた瞬間。
「ありがとう」
声が聞こえて、俺の身体は浮遊感に襲われた。
「な――」
そうして俺がまた身体を起したときにはもう、世界の姿はその有り様を変えていた。