8話+更新+
先にお風呂に入らせてもらい、濡れた髪をタオルで乾かしながら
シストラさんのベッドに腰掛ける。
私はマヌケな女で、元々この国に一日宿泊する予定で来ていたのに、
着替えの服や下着などの必要なものを、家に置いてきてしまっていた。
なので、手間をかけて申し訳なかったが、私がお風呂に入っている間、
イヴさんに、とりあえず下着だけ洗濯して乾燥機にかけてもらい、
寝巻きは、あの中で一番背の低いシストラさんに貸してもらった。
(低いと言っても、彼は170cmあるので、普通に大きいほうだ)
ぶかぶかな寝巻きを纏い、ゴロリッとベッドに寝転ぶ。
ふかふかと丁度いい柔らかさのマットレスに、肌触りのいい布団、
程よい硬さのキャンディー枕に頭を乗せて、近くにあった大きな
茶色の可愛いうさぎのぬいぐるみを抱きしめる。
「なーんか疲れたなぁ……これからどうしよう……」
ボソッと独り言をつぶやき、うさぎのぬいぐるみを
さらにギュッと抱きしめて、広いベッドをゴロゴロと転がってみるが
2~3回やった所で気持ち悪くなったので、やめる。
寝転んだまま部屋を見つめると、テーブルの上に置かれた
私の水色と白色のストライプ柄のカバンが目に入る。
私は起き上がってカバンの元へ向かい、中から日記帳を取り出した。
そしてその日記帳を持って、再びベッドに寝転んで、
適当にページをパラパラとめくっていく。
「コレ、魔法がかかってるのか……。それじゃあ、もしかしたら私も何かの
種族の異民だったりするのかな……?」
ページを一通りめくり終え、もう一度最初からページをめくり
日記を一から読んでいく。
特に変哲もない、ただ平凡な一日のことが書かれている日記だ。
「……アレ?こんなページあったっけ……?」
最初から読んでいくと、いつの間にか途中の
数ページに、新しい記録が書かれていた。
朝から何回も読み返しているので、これは絶対に新しい記録だという
確信があった。私は、何か手がかりになるかと思い、ゆっくりと読む。
7,316年6月7日、雨
今日は図書館に、海外文化の勉強をしに出かけた。
外は生憎の雨だったが、新品の傘を使うことができて嬉しかった。
いろんな国のことを勉強している内に、体がうずうずしてきて、
早速旅に出たくなってきた。今のレーヌ国も嫌いじゃないが、
やっぱり一番はコンディトラィ国だ、あの国にはいつか移住して
永住権を手に入れて暮らしてみたい。
そうと決まれば、早速旅の準備をしよう。
今度は少し長めの旅にしようかな。
「うーん……更新されたのは嬉しいけど、やっぱり普通の日記だ」
他にも更新されたところはないかと、1ページ1ページ丁寧に
めくって見ていくが、残念ながら更新されたのは、このページだけだった。
「でも、なんで更新されたんだろう。ユリスさんは魔法がかかってるって……。
考えられるとすれば、私や彼らが起こしたアクションの中に
この魔法を解くヒントか出来事があったのか、それとも一日1ページ
自動的に更新されていくのか……」
私は目をつむって、今日あった出来事を順を追って思い出す。
まず、この国に来る→森で迷って出直す→人に道を聞くが誰も答えない
→エヴァンさんに出会う→森で感動する→洋館で感動する→イヴさんと出会う
→部屋の中で感動→シストラさんに熱烈な歓迎を受ける→ユリスさん登場
→自己紹介をする→ノーチェさんの猛毒をくらう→自分の自己紹介
→お泊り決定→夕飯作りのお手伝い→壮絶な喧嘩争い目撃→晩ご飯
→シストラさんのお部屋に感動→お風呂→日記帳更新で驚き
→原因を考える(今ここ)
……何が原因なんだろう。なんか、今日一日の内容が濃すぎて
何が原因なのか、さっぱり分からない。
特にシストラさんとノーチェさんの、壮絶争いが凄すぎて
一日の半分の出来事を忘れそうになるくらいだった。
シストラさん……温厚そうなのに、怒ると凄いんだなぁ……。
ってイカンイカン、なんか話がどんどん逸れていく。
えーっと何について考えていたんだっけ?そうだ、日記更新の原因だ。
しかし、考えても考えても全く検討がつかない……。
難しいことを考えると、頭が痛くなってきた……。
もし、仮にノーチェさんが私に対して毒を吐くことで
日記が更新されるとかそんなシステムだったら
記憶を取り戻す前に心が病んで、てるてる坊主になってます。
まぁ今日はもう遅いし、ゆっくりと眠ってから明日考えよう。
ユリスさんに報告すれば、何か分かるかもしれないし。
うん、そうだそうだ、そうしよう。
私は自分の頭の中で、適当にまとめると部屋の電気を消して、
枕元にあるステンドグラスランプをつけて、布団に入った。
そして、今日はいろいろあった疲れもあってか、
目を閉じるとすぐに、夢の世界へ旅に出かけてしまった。