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6話+ギスギス+

「……って今思ったけど、どこに寝てもらえばいいかな?」


夕飯のメニューであるハンバーグのタネをこねている

シストラさんが、隣でカレーの具材を切っているイヴさんに聞いた。


「あぁ確かに、その事を忘れてた。ユリス、今晩あの子を

 どこに寝かせてあげたらいい?」


「3つある洋室のどれかか応接室か俺の部屋」


ユリスさんは日記帳とにらめっこしながら答えた。

できれば最後の場所以外でお願いします。


「でも洋室も応接室も全然使ってないから、物凄く汚いと思うよ?」


「そうだね……今から掃除したら遅くなりそうだ。

 ノーチェはどこがいいと思う?」


「納屋や物置部屋かクローゼットか押入れか家畜小屋」


ノーチェさんはソファーに寝そべりながら、答える。

うぇぇ……私は相当この人に嫌われているようだ。

全人類に好かれる人間なんていないから、別に嫌われてもいいんだけど、

こうもあからさまに態度に出されると傷つくなぁ……。


「じゃあ俺の部屋で一緒に寝ようよ!!俺、何もしないから大丈夫だよ!!」


シストラさんは、ダイニングテーブルでサラダを作る私に、

可愛らしい笑顔で提案をしてくる。

そんな顔で聞かれたら……断りづらい……。


「オオカミの癖に何言ってんだかな……」


ノーチェさんのつぶやきに、シストラさんの耳がピクピクと反応する。


「なにさ、ノーチェだって鬼の癖に!!」


「そうさ、俺は鬼で能力者(ベルトヘイト)の化物だ。

 だから化物に相応しい態度で、そこの図々しいクソ女に対応してるんだ。

 お前だってもうガキじゃないんだし、そろそろ自分が化物なことを自覚して

 それに相応しい態度を取った方が身の為たぞ」


「俺はノーチェと違うもん。ノーチェはそんな冷たいから、

 街に馴染めないんだよ」


「じゃあお前は街に馴染めてるワケ?俺にはそう見えないね。

 この前だって石投げられてたし、冷たくされてただろ。

 それに、森にいる動物たちにすら避けられ逃げられてるんだから、

 お前なんて一生かかったって、無理に決まってんだろ」


ノーチェさんは読んでいた雑誌を閉じ、ソファーから起き上がり

憫笑しながら言った。


そして、さらに喧嘩はヒートアップする。


「わからないよ、無理じゃないかもしれないじゃん。

 彼女みたいに、異民のヴィラン種を怖がらない人間だっているんだし。

 それなのにノーチェはやりもしないで、最初から否定ばっか。

 もしかして、怖いの?勇気と意気地がない臆病者なの?」


「はぁ?そんなワケねぇだろ。ただ俺は別に仲良くなりたいと思ってないし、

 そもそも人間自体が嫌いで、街に馴染もうだなんてこれっぽっちも

 考えていやしねぇんだよ。自分の価値観を無理やり押し付けるな」


「自分の価値観を無理やり押し付けてるのはノーチェだよ!!

 俺は皆と打ち解けて仲良くなって、いっぱい友達を作って

 一緒に楽しく遊びたいだけだよ!!」


「だからその博愛主義な考えやめろって言ってんだよ。

 いつまでもガキみてぇにくだらねぇ実現しない夢見てんじゃねぇよ!!

 現実見てみろよ、お前は一般世間から見たら化物なんだよッ!!」


ノーチェさんの最後の言葉にカチンッと来たシストラさんは

グルルルッと低い唸り声をあげ、獲物を仕留めるような鋭い目で

ノーチェさんを睨む。


「ノーチェ、シスをいじめるのやめにしないか。シスも気にするなよ」


見かねたイヴさんは、カレーを煮込む鍋から目を離さずに

言葉だけで止めに入った。


「なんで?俺は本当の事言っただけ、先に喧嘩売ったのはシスだろ」


「違うよ!!ノーチェの方が先に俺に喧嘩売ったんだよ!!」


「はぁ?ふざけんなよ、獰猛な化物オオカミッ!!」


「なにさ、王家の忌み子のベルトへイトの人食い吸血鬼ッ!!」


シストラさんは、ライオンやトラのように大きく力強い咆哮と共に、

目にも止まらぬ速さで、リビングのソファーに居たノーチェさんに

飛びかかった。


「触んじゃねぇよッ!!汚ねぇみなしご風情の分際でッ!!」


ノーチェさんはまるで魔法のように、自分の手から鋭い氷を作り出すと、

それを容赦なく襲いかかってくるシストラさんの左腕めがけて

思いっきり突き刺した。

鋭い氷が突き刺さるとシストラさんは、まるで銃で打たれた

ライオンのように大きく吠えた。


「いっイヴさん、止めたほうがいいんじゃないんですか!?

 シストラさん怪我しちゃってますよ!!」


「でも今、カレー煮てるから……。今手を離したら、きっと焦げ付くだろし」


「友人の殴り合いの喧嘩止めるより、カレーの方優先なんですか……」


イヴさんは「うん。それとまだハンバーグ焼いてないから」と言って

空いているもう片方のガスコンロにフライパンを置いた。

なんてマイペースな人なんだろうか。でもこういう人嫌いじゃないし、

荒んだ今の世の中には必要だと思うよ。


ユリスさんに至っては、先程まで日記帳を読んでいたのに、

今度は私の海外旅行記を読み始めていた。

人のプライバシーを勝手に漁るのはやめていただきたい。

……まぁ別に見られても、特にいけないものはないからいいけど。


なんて、まごまごとしてる間にも、二人の喧嘩はどんどん過熱していく。


ノーチェさんの手は青白い光を帯びており、そこからは冷たい氷が

手加減なしに、シストラさん目がけて飛び出してくる。

シストラさんの方は、それを器用に避けながら、ノーチェさん目がけて

襲いかかる。いつの間にか、シストラさんには獲物を仕留めるための

鋭く尖った爪と牙が生えており、完璧に野生に戻っている感じだった。


あれから数分が経つが、二人は未だに喧嘩をやめない。

イヴさんは、ハンバーグを焼き終えてソースを作り始めたし、

ユリスさんは海外旅行記Ⅳを読み終えようとしていた。


シストラさんがノーチェさんの攻撃を避けるたび、

ノーチェさんの青白い光が当たった所はどんどん凍りついていく。

リビングの方なんて、ほぼ青白い美しい氷で包まれてしまったし、

時折こちらの方にも飛んできて、壁と照明を凍らせてしまった。


「このックソオオカミめッ!!!!」


ノーチェさんは怒りを込めて、シストラさんに光を飛ばす。

しかし、シストラさんは素早くそれを避け、

その光は、こちらのダイニングまで飛んできて、ユリスさんの

ティーカップに当たる。ティーカップはみるみるうちに凍りついていき、

気が付かずにカップに手を伸ばしたユリスさんは、「うわっ冷たッ」と

条件反射で手を引っ込め、無言でそのカップを見つめた。


「……なぁ喧嘩しているアンタらに、俺からふたつクイズです。

 このカップは、俺が愛用して何年経つでしょうか?

 そして、なんで俺がこのカップを愛用しているでしょうか?」


ユリスさんはカップを見つめたまま、二人にクイズを出す。

けれど、その声は二人には届いていないようで、二人はまだ

取っ組み合いの喧嘩を続けていた。


「答えを教えてやるよ……。まず最初の答えは3年だ。

 そして次の答えは、俺がこの柄を気に入っているからだよッ!!

 喧嘩すんのもいい加減にしろッ!!!このっ糞ガキどもッ!!!!」


ユリスさんが思いっきりドンッと力強く床を右足で踏むと、

パッと一瞬で電気が消え、部屋が薄暗くなった。

そして黒く実体のない無数の黒紫色をした手の影のようなものが

床から現れて、ノーチェさんとシストラさんを抑えつけた。


ユリスさんは床に抑えつけられている二人の元へ、

ゆっくりと歩み近寄っていく。


「俺は、あんまり喧嘩や戦争とか好きじゃないんだよ。

 何でか分かるか?……それはな、大抵俺に利益がねぇからだよッ!!!!」


ユリスさんが怒鳴り壁を力強く叩くと、黄緑色の怪しい炎が

瞬く間にリビングの部屋中へと広がっていく。

私は目の前の悍ましい光景に恐怖を感じ、思わずソースを作るイヴさんに、

子供のようにしがみついた。


「……ユリス、取り込み中悪いが、暗いから早く電気つけてくれないか?

 よく見えないから、ソースが焦げてしまいそうなんだ」


「えっ?あぁそうだったな、悪かった」


ユリスさんは前髪を掻き上げて、ふぅっと息を着くと、

パチパチッと電気が付き明るくなり、部屋を包んでいた黄緑色の炎も、

二人を拘束していた影のようなものも、消えてなくなっていた。


「ッ痛ぁぁい!!腕痛いよ~ユリス~!!」


「ふぇぇぇ」っと声を出して、先ほどの出来事が何もなかったかのように、

血液が滴る左腕を抑えて、ユリスさんの元へと駆け寄る。


「ほら見ろ、お前らが喧嘩する度に怪我して、その怪我を治すのに

 俺の魔力と折角作った売り物の薬を消費し消耗することになる。

 ノーチェもボケっとしてないで、さっさとこっちに来い」


ノーチェさんはシストラさん程、目立った大きな外傷はないが、

所々シストラさんに引っかかれたであろう、かすり傷を負っていた。


「よしっカレーもハンバーグもできたし、その手当が終わったら

 ご飯食べれるから、そこら辺片付けてくれよ」


イヴさんに言われ、私は机の上に置いてあった、

大事な日記帳と海外旅行記をカバンにしまった。



ふぅ……なんか凄い光景を目の当たりにしたけど……。

これはこれで、意外と面白いかも知れない!!

そう思う私は、きっと頭が可笑しい変な女なのだろう。

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