4話+異民の皆さん+
青年のお言葉に甘えて、中にお邪魔することにした私は、
暖かい日差しのさすリビングダイニングへ通された。
「ちょっとここに大人しく座ってて」
青年は椅子を引いてそう言うと、近くにある2階へと続く階段を上がって、
どこかに行ってしまった。
私は席に着いたまま、改めて部屋の中をじっくりと見回す。
明るいライトブラウンのテーブルと椅子、緑色のギンガムチェックの
テーブルクロスが爽やかさを引き出している。
リビングにある淡いシャーベットカラーの水色のコーナーソファーは
ふわふわしていて、とても座り心地が良さそうだ。
食器棚に入っている食器から、チェストの上に置いてある何気ない小物まで、
すべてがこの部屋をナチュラルでガーリーに仕上げている。
まるでドールハウスの中にいるような感じだ。
しばらく私が部屋の中に見とれていると、2階の方から扉の開く音がして、
青年が恐らく2階にいた誰かを連れてこようとしているようだった。
「えーなになにー?これって、俺が嬉しくて喜ぶこと?」
「うん。きっとシスは嬉しくて笑顔になるよ。
ここから階段だから、足下慎重に気をつけな」
先程の赤髪の青年は、目隠しをされてゆっくり慎重に歩く
水色の髪の青年の手をとり引きながら、水色の髪の青年を私の前に連れてくる。
「……?なんかいつもと違ったいい匂いがするね!!
優しくて甘くて……お菓子の匂い?なんの匂いだろう?でもとーっても匂い~」
水色の髪の青年はフフッと楽しそうに笑い、早く目隠しを外して
欲しいようで、そわそわと動く。
「じゃあ目隠しを取るよ、でもいいよって言うまでは目を開けちゃいけないよ」
赤髪の青年が目隠しを外すと、水色の髪の青年は待ちきれずに
目を開けてしまいそうなのか、自分の両手で顔を覆った。
「ねぇねぇまだ?早く見たいよー!!もういいかい?」
「うん、いいよ。さぁ目を開けてみて?」
水色の髪の青年は、赤髪の青年が言い終える前に
顔を覆っていた手を開けて、青年の前に立っていた私と目があった。
吸い込まれそうな鮮やかなピンク色の瞳で、水色の髪の青年は、
私のことをジッと見つめる。
「おっ……女の子だぁぁぁぁぁあッ!!!!!!」
水色の髪の青年は、パッチリとした綺麗な大きな目をさらに大きくして
大好きなぬいぐるみに抱きつくように、私を力強く抱きしめる。
私は、いきなりの事で身動きができず、ただ呆然として、
見知らぬ男性に抱きつかれていた。
「うわぁぁあ!!すっごいねぇ!!女の子だ!!本物の女の子だよ!!
ちっちゃいし、柔らかいし、いい匂いするし、とっても可愛いねぇえ!!」
水色の髪の青年は、まるで自分の初孫や子供を可愛がるように、
私の頭を撫でたり、頬をくっつけてきたり、頬ずりしたりと
初対面の相手なのに、過剰なスキンシップをしてくる。
何だか少しだけ恥ずかしくて照れくさいが、何故だか拒むことができない。
「シス、イヴ、騒がしいな。一体何でそんなに賑やかなんだ?」
今度は裏口から新鮮な野菜の入ったカゴを持った、
爽やかな黄緑色の髪の青年が顔をのぞかせた。
彼の暖かいオレンジ色の瞳と、目が合う。
「あれっ?女の子がいる……。珍しいね、人間なんか絶対に近寄らないし、
しかも女の子なんて。街に行かない限り滅多におめにかかれないのに」
黄緑色の髪の青年は、野菜の入ったカゴを赤髪の青年に渡し、
私に近づいて、ジッと私の目を見つめる。
綺麗な青年に急に近寄られ、私は恥ずかしくなって咄嗟に顔を逸らすと
「ちょっと動かないで」と言われ、顔を戻されてジッと見つめられる。
はっ恥ずかしいから早くしてください。本当に勘弁してください。
「……アンタ、厄介な魔法がかかってるね」
黄緑色の髪の青年は私を見て呟くと、私の頭を撫でて近くの席に座った。
「折角可愛いお客さんが来てくれたんだし、仲良くなるために
『自己紹介』でもしようじゃないか。自分の本性を紹介するんだ。
イヴ、お客様にお茶を淹れて差し上げて」
水色の髪の青年が「どうぞ座って!!」と言うので、
私も先ほどの席に着くと、水色の髪の青年は私の向かいに座った。
そして赤髪の青年も、私たちに紅茶を淹れ終えると、私の隣に座った。
「順番はシス、イヴ、俺、お客さんの順番で行こうか。
じゃあ一番最初のトップバッター、お願いね」
黄緑色の髪の青年が、水色の髪の青年の肩を叩くと
水色の髪の青年は照れくさそうに笑って、自己紹介を始めた。
「えへへっ俺はシストラです。フローズンウルフって種類のオオカミ男です!!
でもっ俺はオオカミだけど、人間や家畜は襲わないし、みんなと仲良くして
いっぱい沢山友達欲しいし、みんなで遊びたいって思ってるんだ。
だからね、あのね、えっとね、怖がらないで欲しいなぁ~なーんて……」
そう言ったシストラさんの頭には、いつの間にか狼耳が生えており、
お尻の近くからは髪の毛と同じ水色の、ふわふわとしたしっぽが生えていた。
私はいきなり何が起こったのか分からず、その現実とはかけ離れた
出来事に、戸惑ってしまい、どんな反応をしていいか分からなかった。
しかし、今の私の心の中は、どちらかと言うと「怖い・恐怖」という
感情よりも「すごい・なにこれ・おとぎ話みたい!!」という
好奇心の方が圧倒的に強かった。
「ちょっと失礼しますね……。嫌だったらぶん殴ってくれて構いませんよ」
私は席を立ち上がり、シストラさんに近づいて、ピクピクと動く
可愛らしい耳を触る。毛がサラサラとしていて、とても触り心地がいい。
右耳だけ切れ込みが入っており、そこの手触りがまた気持ちいい。
そして、私がふわふわとして左右に揺れている尻尾を掴み、
興味本位で少し引っ張ると、シストラさんは声をあげた。
「尻尾は引っ張られると、ちょっと痛いからやめてほしいな……」
「すっすみません……興味本位でちょっと……」
私はシストラさんの耳と尻尾を触るだけ触って、
そそくさと急いで席に戻る。先ほど私に過剰なスキンシップをしてきたので、
これくらいお返しとして触っても大丈夫だろう。
「気が済んだ?次は俺、ユリス。魔法使いと玉兎のハーフだよ。
玉兎っていうのは、月に住んでいるうさぎのこと。
よく街や別の国に薬売りに行ったり、趣味で魔法道具作ったりしてる」
ユリスさんは優しく笑って「よろしく」と手を差し出したので、
私も右手を出して握手をする。
爽やかな黄緑色の髪と暖かいオレンジ色の瞳に、長いまつげと
綺麗な白い肌、爽やかな笑顔がとてもよく似合う。
まさに王子様という言葉がピッタリな整った顔を持っている人だ。
うさぎって事は……この人もシストラさんみたいに、耳や尻尾を
出すことができるのかな?もし出せたら、絶対に触りたい。
「……あっ今、シスみたいに耳と尻尾出せって顔してるね。
そうだなぁ……アンタが十回くらい俺に股開いてくれたら、
耳と尻尾を出してあげてもいいよ」
ユリスさんは変わらぬ穏やかな笑みで、とんでもないぶっぱ発言をした。
あれか、これが残念なイケメンって奴なんですね。
残念っていうか、勿体無いイケメンだと私は思った。
「いえ……あの、遠慮しておきます……」
「だと思った。アンタにそんな勇気なさそうだし」
ハハッと爽やかな笑みで毒を吐くユリスさん。
私には煽りや毒舌にあまり耐性がないので、お手柔らかに頼みます。
「次はイヴの番だよ!!最高にかっこよくてcoolな自己紹介をお願い!!」
シストラさんに言われ、赤髪の青年は咳払いをして口を開く。
「元海賊をやってたイヴです。セイレーンで
あとアルメルデルっていう、動物の気持ちや言葉が分かったり、
意思疎通ができる能力を持っています」
イヴさんは私を見て、「僕もユリスと同じで正体は見せないよ」と言った。
セイレーンということなので、少し期待していたのに残念だ。
「実は俺達の他にも、もう一人いるんだ!!
……あのね、いるんだけどね……?」
「眠れる森の美女は、ほっといた方がいいんじゃないか?
あれは未だにに感情が高ぶると、大変だから」
「でもアレだって好きであんな能力持ったんじゃないよ。
俺だってたまに失敗するから、魔法系の能力者の気持ちはなんとなく分かる」
三人が誰かについて話し合っていると、突然、2階の廊下から
ここに繋がっている扉が勢いよく開いた。
「噂をすればほら、眠り姫がおいでなすった」