3話+森の洋館+
どうやら私は先ほど、一本別の道を歩いていたようで、
騎士団団長さんのエヴァンさんに教えてもらった道に来ると、
丁寧に舗装された一本道が、森の奥へと続いていた。
だが鬱蒼と生い茂る木々が、来るものを拒んでいるように見え、
一歩足を踏み入れたら、もう二度と出てこれなくなりそうな
そんな雰囲気を醸し出している。
「この先にゼペットさんが住んでいるのかな……。
よしっ行くぞッ!!行くと決めたんだ、途中で何が出ても行くんだぞッ!!」
少し怖気ついてしまった私は、自分の両頬をパチパチと叩いて喝を入れ、
勇気を振り絞って、舗装された奥へと続く一本道を歩きだした。
鬱蒼としていたのは森の入口だけで、中に踏み入ってしまえば
あの不気味さが嘘のように思える程、暖かい日差しが明るく優しく
森を包んでおり、童話などに出てきそうな穏やかな森だ。
右側には静かな泉や色とりどりの花が咲き誇る綺麗な花畑があったり、
左側には樹齢○○千年とかそれくらいありそうな大樹や、林檎などの
果物がなっている木が何本も生えている。
「すごいなぁ……とっても素敵だ!!まるで絵本に出てきそうな程綺麗な森。
こんな所に住めてるゼペットさんは、きっと幸せなんだろうなぁ……」
どこを見ても素晴らしい景色に、私はあちこちキョロキョロと目移り
してしまう。カメラを持ってこなかった自分が憎いくらいだ。
風景を楽しみながら歩いていると、一軒の洋館が見えてきた。
白い外壁に煙突のついた青い屋根、レンガでできてる塀には
蔦が絡まっており、蔦からは鮮やかな桃色の花が咲いていた。
「ふぉぉぉッ!!な、なんだここは……最高の天国みたいだ!!
いいなぁいいなぁぁッ!!私もいつかお金貯めて、こんなところで暮らしたい!!」
私は興奮した心を深呼吸をして落ち着ける。
いけないいけない、私は遊びに来たんじゃないんだから落ち着かなくては。
深く吸い込んだ息をゆっくりと吐いて、アンティークなデザインの
門扉を開けて敷地内に踏み入る。
扉の前に立ち、もう一度ゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
そして、扉の近くにあるインターホンを一回押す。
しかし、どうやらインターホンの電池が切れているようで
何回か連続して押してみるが、カチカチッと枯れた音しかしない。
「あれ?インターホンの電池切れてるのかな?
それじゃあこれは、扉を叩いてノックしろってことかな?」
扉を見ると、私の頭くらいの高さのところに、
銀色のライオンのドアノックがついていたので、それを使って
コンコンコンッと3回ノックをした。
「はーい、今出るから少し待ってくれ」
扉の向こうからそう呼びかける声が聞こえると、
ガチャッと鍵の開けた音がすると、扉の半分くらい開いて
中から赤い髪の背の高い男性が、顔をのぞかせた。
あああ落ち着け落ち着け、絶対にトチ狂うなよ、私。
「こんにちは、どなたですか?」
「えっとあのっ!!私、とある事情でこちらに住んでいるゼペットさんと
いう方に用事があって訪れたのですが……ゼペットさんは……?」
バカ丁寧な気持ち悪い喋り方になってしまったが、
なんとか用件を伝えることができた。早くゼペットさんに会って、
何か記憶回復の手がかりになることが、分かるといいのだが。
「あぁ、ゼペット爺さんなら一週間前に死んだよ」
青年の口から出てきたとんでもない言葉に、私は耳を疑った。
いやいやいや……いくらなんでも、そういう冗談は良くないよ。
それかきっと私の聞き間違いだ。おかしいな、バナナは耳に入ってないぞ?
「…………はっ?ごめんなさい、よく聞こえませんでした。
もう一度お願いします、ゼペットさんが……どうしたって?」
「だから、ゼペット爺さんは一週間前に死んだって」
どうやら私の耳は正常だったようだ。
しかも彼の表情から、それが嘘ではなく真のことだと読み取れる。
私はあまりの強いショックを受け、止む終えずその場にしゃがみこんで
頭を抱えてしまう。
えっ?じゃあ私、これからどうすればいいの?
最後の最後の頼み綱が、ぶち切られてるんだけど。
うぇぇぇぇええッ!!!ほ、本当にどうすればいいの私!?
ゼペットさんに会えないって事は、私の記憶はもう二度と戻らないの?
そ、それは絶対に、ウルトラスーパーデラックス困りまくるよッ!!!!
だって私、記憶が戻ったらやりたいことを、いろいろ沢山考えていたのに!!
てか、本当にどうしたらいいわけ?うぇぇぇッ!!気が狂いそうだッ!!!
「顔色悪いけど大丈夫?よく分からないけど、具合が悪いんだったら
中に入って休んでいきなよ」
しゃがみこんで頭を抱える私を見て、青年は心配そうに声をかけてくれた。
お邪魔になるので断ろうと思ったが、この気持ちのまま街に出たくないので、
迷惑になるだろうけど、私は家の中に上がって、しばらく休ませてもらうことにした。
うわぁぁぁぁッ!!!!ど、どうしよう。まさかこんなハプニングがあるなんて、
誰も私も思いもしないよッ!!どうなってるのさ、神さまぁぁぁッ!!!!