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2話+探し物+

「地図だとこの辺なんだけどなぁ……」


木々が生い茂る森の中、私は日記帳を片手に辺りを見回す。

その姿はまるで、登山に来ていたがコースを間違えしまい、

元の道を探している登山者のようだ。


「参ったな……これは下手に動くと、迷子に成りかねない。

 一旦街に戻って、人に尋ねるのがベストかな」


周りをもう一度見てみるが、先ほどと景色は変わらず、

明るい緑の葉がそよ風に吹かれてさわさわと揺れているだけであった。

洋館どころか建物すら見つかる気配がしない。

このままでは遭難してしまいそうだと思った私は、踵を返し、

元来た道を戻ることにした。


いやぁ……それにしても、朝早くに出発して良かった。

朝7時に出発して、この国に着いたのは7時半。

それから、この森に着いたのが9時。

そして今現在は、ちょうどお昼の真っ盛りである12時半だ。

どうりでお腹が空くと思った。



森を抜け、街に戻ってくると、賑やかな音楽が聞こえてくる。

ここハルモニア国は音楽の国と呼ばれている。

美しい海や静かな森、澄んだ空などの恵まれた環境が、

多くの有名音楽家の感性を磨いたと言われている。

それにこの国には良質な楽器を作る材料などが豊富にあることから、

腕のいい楽器職人たちが好んで住んでいるため、

そう呼ばれるようになったそうだ。

なのでこの国は、音楽用品や楽器、CD・レコードを取り扱う店が多い。


話は逸れるけど、記憶がなくなる前の私は旅行が趣味……というか、

バックパッカーのようなことをしていたようだった。

日記を見つけた後、他にも何か無いかと本棚を物色したところ

「海外旅行記」と書かれた大学ノートが3~4冊出てきた。

これは日記とは別に、私が過去に行った国について詳細が詳しく書いてあり

有名な観光スポットから隠れた名店、おすすめのホテルなどが

写真と地図付きで丁寧に記されていた。

さっきのハルモニア国の情報もこのノートのおかげだ。


私はノートに書いてある喫茶店で空腹を満たし、食後の紅茶を飲みながら

海外旅行記Ⅰのノートを読む。このノートのおかげで、安くて美味しい

オムレツやサラダなどの料理を食べることができたので、

このノートは読んでおいて損はないはずだ。

下手な観光マップなどよりも、こちらの方が役に立つ。ナイスだ過去の私。


喫茶店をあとにして、私は洋館への道を尋ねることにした。

誰に尋ねればいいか分からないので、とりあえず道行く人々に声をかけ、

立ち止まって話を聞いてくれる人々に尋ねるが、誰に聞いても

「さぁ……知らないね……」や「ごめんなさい、よく覚えてないの」と

はぐらかされたり、尋ねた私に冷ややかな視線を向けたりする。

どの人たちも、話しかけたとき優しく接してくれたのに、

目的地を尋ねると、どこかよそよそしい態度に変わる。


私の勝手な憶測だが、きっとゼペットさんは街の人達から、

あまりいい印象を持たれていないようだ。


「あぁ……えっと……ごめんなさいね、よく分からないの」


「そうですか。すみません、ありがとうございました」


私はお辞儀をしたあと、急ぎ足で離れていく子連れの女性の

後ろ姿を見つめて、ため息をついた。

ダメだな……きっとこれは、自力で探さないと見つからないと思う。

 

ショルダーバッグに日記をしまい、帽子をかぶり直して、

再びあの道へ向かおうと歩きだした時だった。


「何か探し物かな?可愛い迷子の駒鳥のちゃん?」


不意に後ろから声をかけられ、振り返ると、

そこには一人の若い男性が優しげな笑みをこちらに向けて立っていた。


サラサラとした艶のある栗色の髪に、蜂蜜みたいな黄色い瞳。

女性が放っておかないような爽やかで甘い顔立ち。

どこか見覚えのある、カッコイイ洒落た赤い軍服のようなものを着ていた。

生憎だけど、私は今、ナンパをされているほど暇ではない。

彼には申し訳ないが、先を急ぐことにした。


急ぐことにしたのだが、彼の何かが頭に引っかかる。


……軍服?そうだッ!!この服は、さっきの旅行記のノートで見たことがある!!

たしか騎士団の制服で、国によって色と多少デザインが違うと書いてあった。

しかも、左胸には騎士団団長の証であるバッヂが輝いている。

きっと騎士団団長さんなら何かを知っているはずだ。

そう思い、私は半ば諦めかけていたが、彼に道を尋ねることにした。


「あのっ!この森に住んでいるゼペットさんという人に

 会いに来たんですが、道がわからないんです。教えてください!」


私はバッグから日記を取り出しページを開いて彼に見せる。

すると、彼も整った顔を少し歪め、苦笑いをしながら答えた。


「嘘だろ?なんで君、あんな『化物屋敷』に行きたがるんだ?」


「ばっ『化物屋敷』?化物屋敷ってどういうことですか?」


きっと今まで尋ねた人たちも、みんなきっと彼と同じことを

思ったのだろう。だけど、何も分からない私にとって

それはなんのことなのか、さっぱり分からないのであった。


「駒鳥ちゃん、もしかして別の国から来た子?

 あそこには異民(イミン)の危険種であるヴィランが住んでいるから

 命が惜しけりゃ下手に近づかないほうがいいよ?」


「異民……ヴィラン……?」


あまり聞きなれない言葉に、私は思考を巡らせる。

異民(イミン)は聞いたことがある。

たしか、人間とは別の民族で、人魚や鬼や狼男、エルフなど

数え切れないほど様々な民族を引っ括めた俗称のはずだ。


しかし、もう一つのヴィランという言葉は聞いたことがない。

一体どう言う意味なのか、検討もつかない。


「あんな化物屋敷に行くんじゃなくてさ、今から俺とお茶しない?

 俺、美味しいクッキーの店知ってるんだよね。ほらっこっち!」


私がヴィランのことについて考えていると、軍服の青年は

私の腕を掴み、強引にどこかへ連れて行こうとする。

気持ちは嬉しいのだが、私はそんなにのんびりとしている暇はないのだ。


「ごめんなさい、私どうしてもゼペットさんに会わなきゃいけないんです!!

 お願いします、この道を教えてください!!」


私の思いが彼に伝わったのか、彼はため息を着くと

「本当に行くの?やめといた方がいいと思うけど」とだけ言うと

親切丁寧に分かりやすく、道を教えてくれた。


「こんな仕事してるから、こう言うことしか言えないけどね。

 そうだ、俺はエヴァン。君の名前は?」


「私はルシェです。エヴァンさん、ご親切にありがとうございました。

 では、私は先を急いでますので失礼します」


私はエヴァンさんに深くお辞儀をして、教えてもらった道へと向かって

少し足早に歩き始める。後ろでエヴァンさんが何かを言っていたけど、

ぶっちゃけ何を言っているのか、私の耳にはよく届かなかった。


思わぬ事態で時間を食ってしまった。先を急がなくちゃッ!!

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