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13話+口喧嘩+

エヴァンさんと別れて、私は洋館へと戻る。

あまりにも楽しかったので、時間を忘れてしまいそうなくらいだった。


「すみません、ちょっと遅くなりました」


本当は2時くらいには戻ってくるつもりだったが、

腕時計の針は3時をさしている。今からここを出ても、

街で宿を探すには余裕で時間がある。


「やぁおかえり、街の方はどうだった?」


「すっごく楽しかったですよ!!綺麗な踊り子さんを見ましたし、

 美味しいコーヒー飲んできました!!」


「えーいいなぁ、俺も街に行きたかったー。

 なんでルシェちゃん俺を誘ってくれなかったのー?」


シュンと耳と尻尾を垂らし、シストラさんは拗ねたように言う。

うわぁぁぁ可愛い、頬ずりしてモフモフしたい。


「人間様はお気楽ですこと。俺達異民が街に出ようものなら、

 すぐさま冷ややかな視線を向けられるのにな」


ソファーに寝転びながら本を読んでいたノーチェさんは、

嫌味っぽく私に言う。


「ノーチェ、その態度止めにしてくれないか?彼女は何も悪く無いだろ?」


「さぁどうかな?このクソビッチはさっき、騎士団団長様を誘惑したんだ。

 いつかは俺達の敵になるだろう」


ノーチェさんは読んでいた本を閉じて言った。

……ちょっと待って、なんか誤解はあるけど、

なんで私がエヴァンさんといた事知っているの?


「ちょっと待ってください。確かに私は、さっきまでエヴァンさんと

 一緒にいました。でも誘惑なんてしてないですし、

 それよりなんでノーチェさんが知っているんですか?」


ノーチェさんに問い詰めると、彼はテーブルの上に置いてあった

バラの装飾が施されたアンティークなデザインの鏡を手に取る。


「それ、ユリスの鏡だろ?なんでノーチェが持ってるんだ?」


「アイツが俺に寄越してくれたんだよ」


あの鏡が何なのか分からないまま、ノーチェさんとイヴさんは話を続けていく。


「ねぇノーチェ、その鏡って何なの?」


シストラさんも私と同じで、その鏡がなんなのか理解しておらず、

私の代わりにノーチェさんに聞いた。


「ユリスが作った魔法道具の一つ、魔女の鏡。

 どんな問いかけにも真実を答えるし、どんなものも映し出す鏡だ。

 これで街の様子を伺っていたら、そこの女が団長をたぶらかしている

 決定的瞬間が写りこんでいただけ」


ノーチェさんが鏡をこちらに向けると、私とエヴァンさんが

仲良く何かお喋りしながら、歩いているところが映しだされた。


「エヴァンさんは悪い人じゃないですよ。

 彼は異民差別をしない人ですし、友達に異民の方がいるって」


「お前って本当に能のない女だな。気がある女に、わざわざ

 嫌われるような事言う奴なんているわけねぇだろ?

 適当に嘘八百を並べて、お前に自分の事を信用させようとしているだけ」


「そんな事ありません。エヴァンさんは嘘をつきません」


「嘘をつかない人間なんている訳ねぇだろ、能無し低脳うすら馬鹿の盆暗女」


ノーチェさんの最後の一言に、カチンとくる。

私も人のことは言えないが、この人は口が悪すぎる。


「なんで友達と仲良くしていただけなのに、大して深く関わりもない

 貴方に、そこまで貶されなくちゃならないんですか」


「だったら貶されないような、美しく従順、上品で淑やかな聡明な女に

 なることだな。お前なんて下品で下劣なウスラトンカチ女だ。

 家畜小屋で餌を食い散らかしている汚い豚みたいな醜い偽善者め」


散々な言われように、私のメンタルはズタボロになりかけて、

微かな息でさえ吹きかけられたら、崩れてしまいそうなくらいだった。

ダメだ、耐えろ。今ここで泣いたら負けだ。絶対に泣くものか。


私は拳を強く握り締め、奥歯を噛み締める。


「大体お前、何の役にも立たない使えない存在の癖に

 なんでまだ居るんだよ?世の中使えないゴミが存在してていいと思ってんの?

 オイ、何睨んでんだよ。そんなに俺のことが嫌ならさっさと出てけよ。

 お前は可愛い可愛い人間様だから、街で男に少し媚びれば

 すぐに誰かが助けてくれるだろ?違うか?お得意だろ、そういうの?」


あっ……ダメだ。瞼が熱くなってきて視界がぼやけてくる。

ダメ、今泣いたら絶対この人に馬鹿にされるに決まってる。

絶対に泣くもんかッ!!絶対に……絶対にッ…………。


「とにかく俺、お前の事生理的に受け付けないくらい嫌いなんだよ。

 だからさ、さっさと消えてくれない?お前、いつまでここに居座る気?

 ゼペット爺さんはもういないわけだし、ここにいる理由ないだろ?

 もしかして、俺たちに何とかしてもらおうと思ってるのか?

 お前、図々しいにも程があるだろ。俺たちには関係ない事だし、

 自分の事くらい、自分で何とかしろよ。目障りなんだよ。

 あぁ、お出口はあちらだよ。媚びることしか能のない盆暗女」


ノーチェさんの罵倒暴言の嵐が終わるや否や、

今まで耐えて堪えてきたモノが、目からこぼれおちて頬を伝う。

悔しくなって止めようとするが、これは厄介なことに

一度出てきてしまうと、自分の意思とは反対にどんどんと溢れ出てきてしまう。

私の頬はそれで濡れて、何回も何回も服で拭うのだが

一向に乾くことはなかった。


「あーッ!!いけないんだー!!ノーチェがルシェちゃん泣かしたッ!!」


「……えっ?うわっ本当だ、オイお前なんで泣いてるんだよ?」


「ノーチェ、君が酷いことを言い過ぎて、彼女を傷つけたんだ」


驚くことに、今のノーチェさんの発言からすると

彼は無自覚に人を傷つけていたようだった。

何十発かぶん殴ってやりたい衝動に駆られたが、手を出したほうが負けだと

頭の隅に残っていたので、その衝動をグッとこらえた。


「なんだよ、俺はただ思ったことを言っただけなのに、俺が悪いわけ?

 てか、一人が叩かれたら関係ないお前らまで庇うとか、

 お前らは危険なハチかよ」


私は涙を拭い、ダイニングの椅子の上に置いてあった

私のカバンを肩に下げて、中身が全部入っていることを確認すると、

部屋の扉のドアノブに手をかける。


「……ノーチェさんの言うとおりです。

 自分のことなのに、誰かに頼ろうとしていた私が馬鹿で愚かでした。

 国に戻って、自分の力で何とかしようと思います。

 ひと晩の宿を恵んでくださってありがとうございました、失礼します」


扉を開けて私が出ていこうとすると、後ろからシストラさんに

物凄い力で抱きしめられて、動くに動けない状態になる。


「えっ!?ルシェちゃん出て行っちゃうの!?だ……ダメダメダメぇぇぇッ!!!

 やだ、ダメ、絶対にやめてッ!!ノーチェの言葉なんて聞いちゃダメッ!!」


「離してくださいシストラさん。ノーチェさんの言葉だけじゃなくて、

 私自身もそう思っていましたから。

 もうこの国に用はないですし、もしかしたら自分の国や旅行記に

 書いてある国に何か手がかりになることがあるかもしれません。

 私はこれから、それらを探しに行こうと思っているんです」


「でもっ俺は嫌ッ!!折角友達ができて一緒にいられると思ったのに、

 離れて会えなくなっちゃうなんて絶対に嫌ぁぁぁッ!!!!」


何とかシストラさんを引き剥がそうとするが、

私が頑張れば頑張るほど、シストラさんは力を強めていく。

止めてくれるのは嬉しいけど、私は行かなきゃいけないんです。


「オイ、さっきから何をギャーギャー騒いでるの?

 騒ぐほど暇だったら、さっさと上来て手伝えよ」


階段から身を乗り出してユリスさんは私たちに言った。

アレ……ユリスさん、もう帰ってきていたんだ……。


「ユリスーッ!!ノーチェがルシェちゃん泣かせて、ルシェちゃんが

 この家を出ていこうとするんだよ!!」


「はぁ?ちょっと待て、勝手な事するなよ」


ユリスさんがパチンッと指を鳴らすと、私が開けて出ていこうと

していた扉が閉じてしまい、もう一度開けようとドアノブに手をかけ

ひねってみるが、扉は開かなかった。


「せっかくアンタの部屋を作ったんだから、無駄にするような事

 するのは勘弁してくれ」


「私の……部屋、ですか?」


急な事で理解が追いつかないが、どういうこと……?

もしかして私、このままここに住むことになるの……?


「何馬鹿みたいに口開けて立ってんだ?早く上に上がってきな」


シストラさんに背中を押されて階段を上り、ユリスさんの元へ来る。

待って、ねぇ待って、私今物凄くまずい状況なんだけど。


「ほらっこっちおいで、アンタの部屋に案内してあげる」


ユリスさんに手を掴まれ、廊下の奥へと連れて行かれ

逃げるに逃げれない状況になってしまった。


うわぁぁぁぁッこの国に私の拒否権は、どこにあるんですか?  

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