12話+コーヒーミルク+
エヴァンさんに案内してもらったおかげで、おつかいは難なく終了した。
専門店のおかげでいい品を買えたし、エヴァンさんが近くにいると
おまけや値引きをしてくれたので、ある意味とても助かった。
買い物を終えて街を歩いていると、一角に人だかりが出来ていた。
この周辺の国では、路上での演奏会や曲芸や人形劇などが
日常茶飯事行われているので、特に変わったことではない。
私は何がやっているのか気になって、人と人の間から
覗こうとするが、何せあまり背の高い人間じゃないので
後ろの方で見ている男性たちの間からでは、何も見えない。
はぁ……せめて160cmくらいあればいいのに……。
「ルシェちゃん、こっちおいで。こっちからならよく見えるよ」
少し離れたところにいたエヴァンさんが手招きをする。
私は人と人の合間を器用に縫って、エヴァンさんの元にいく。
「ほらっよく見えるでしょ?」
エヴァンさんの元に来ると、この人だかりの正体がわかった。
その正体は、音楽に合わせて華麗に踊る一人の男性ダンサーだった。
赤紫色のリボンをした少しクセの艶のある黒い髪に、
私の目より青く鮮やかなサファイアのような青い瞳。
彼が色っぽく踊るたびに白い胸元の開いた服からは、
細身ながら鍛えられた胸筋が、セクシーにチラチラと見え隠れする。
「うわぁ……すごい、綺麗な人ですねー」
「そうだね、彼はとっても美しくて、人を魔法みたいに魅了するんだ」
エヴァンさんの言うとおり、彼は人を惑わす魔女のような
色っぽいセクシーな雰囲気のする男性だ。
ここにいるお客さんも老若男女問わないし、皆彼のダンスに見入っている。
私とエヴァンさんも、その中の一人になっていた。
彼のダンスが終了すると、割れんばかりの拍手や指笛が鳴り響き、
置かれていた帽子の中に、溢れんばかりの金貨や紙幣が投げ込まれる。
私もポケットからお金を出して投げ入れ、エヴァンさんも紙幣に銀貨を
包んで、帽子の中に投げ入れた。
すると彼と目が合い、彼はお礼の意味を込めてエヴァンさんに
ウィンクをして、私には投げキッスを飛ばしてくれた。
嬉しいような恥ずかしいような……なんかくすぐったい感じがした。
「ちょっと疲れたし、近くにいい喫茶店があるんだ。
何かご馳走させてあげるから、寄っていかないか?」
私の返事を聞く前に、エヴァンさんは再び私の腕を掴んで、
彼のおすすめの喫茶店へと案内を始める。
もう少し私の話を聞いてくださいよ……。
エヴァンさんのおすすめの喫茶店は、私好みのお店だった。
古風でアンティークな雰囲気が特徴的なお店で、
マスターが豆から挽いたコーヒーが、とても美味しい。
「どう、気に入った?このお店は俺のお気いに入りなんだ」
「ハイ、ここはとっても素敵な所ですね!!私もこのお店が大好きです」
温かいコーヒーを一口飲み、あまりの美味しさに思わず笑顔になってしまう。
それを見たエヴァンさんも、幸せそうに笑い返してくれた。
「やっと笑ってくれた。嬉しいなぁ君の笑顔が見れるなんて。
俺は今、この国一の幸せ者だよ」
「またまた……エヴァンさんはお上手な人ですね」
「嘘じゃないよ、俺は思ったことしか言わないから」
エヴァンさんは微笑んで、私に言った。
この人、いい人なのは分かるけど、どこか影のある感じがする。
「いい天気だ。この国も、この天気みたいに平和で
のどかなところになればいいのにね」
「……?この国はのどかで平和じゃないんですか?」
私が不思議そうに聞くと、エヴァンさんはコーヒーを一口飲む。
「いいや、こんな平和は見かけだけさ。もっと他国を見習わなきゃ、
こんな国、すぐに戦で潰されてしまうよ」
エヴァンさんはコーヒーにミルクを注ぎ足し、スプーンで混ぜる。
「異民差別のある国なんて、もう片手で数えられるくらいにしか
残っていないというのに、この国の人たちは頭の固い人が
結構多いから、差別をなくならないんだ」
「……でも、エヴァンさんも異民の方、嫌いですよね?」
「俺……やっぱりそういう風に見える?」
エヴァンさんの問いかけに、私はが素直に頷いて答えると、
彼はとても悲しそうな顔をした。なぜ、そんな顔をするのか。
だって最初に彼と出会ったとき、シストラさん達が住んでいた洋館のことを
彼は『化物屋敷』と呼んでいたではないか。
「だって、あの洋館の事を『化物屋敷』って」
「あぁ……あの時の事はゴメン、俺も悪気はなかったんだ」
「本当ですか?」
「本当だよ。それに、俺には異民の親友がいるんだ。
彼を見る限り、異民が悪い奴だなんて思わないさ」
エヴァンさんは私の手を握り、「お願いだ、信じて欲しい」と
まっすぐとした真剣な眼差しで、私の目を見つめる。
彼の目を見る限り、嘘ではなさそうだ。
「……じゃあ分かりました、私は貴方を信じますね。
だから裏切らないでくださいよ、悲しくなりますから」
「勿論!!君のような可愛い天使を裏切るわけないだろ。
信じてくれて嬉しいよ、ありがとう。ハハッ幸せだなぁ……」
本当に嬉しそうに笑ってくれるエヴァンさんを見ていると、
何故だか自然と、こっちの顔までほころんでくる。
エヴァンさんと目が合うと、お互いに可笑しくなって
クスクスと声を出さぬように笑いあった。
「なんでだろうね、君と話をしていると心が軽いよ」
エヴァンさんは、コーヒーの中にミルクを注ぎ足す。
エヴァンさんのコーヒーは、ミルクで真っ白になっており、
コーヒーというより、ただのミルクになってしまっていた。
私とエヴァンさんはそれを見て、また可笑しくなってきて
二人で仲良くクスクスと笑いあった。
最初は苦手な人だと思ったけど、付き合ってみると
案外にいい人だということもあるんだなぁ……。