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11話+木陰で読書+

森を抜けると、街は昨日と変わらず賑やかな人や音楽で溢れていた。


私は先に買い物を済ませてからゆっくりするか、

先にゆっくりしてから買い物をするか考えながら、街を見物して歩く。


しまった、海外旅行記を持ってくるのを忘れてきた……。

なんてドジな女なんだろう、私ってやつは……。

でも、旅行記に頼りっぱなしっていうのも良くないから、

今日くらいは自分の気の向くままに行動してみよう。




街を散策していると、公園のような所に来てしまった。

噴水の水を掛け合ったり、砂場で何かを作って遊ぶ子供達や、

その近くで世間話に花を咲かせている奥様方、

ベンチに仲むつまじく並んで座ってお喋りをしている老夫婦、

もう一方で公衆の面前だというのにいちゃいちゃベダベダと

くっつくカップルなどがいる。


そんな人たちを遠目に見ながら、少し離れたところにあるベンチに

腰掛けた。近くにはブナの木が生えており、

丁度このベンチは木陰に入っている。

私はバスケットを隣に置いて、本を取り出して読書を始める。


私は記憶をなくす前も本が大好きなようで、

私の家にあった本棚には、沢山の童話やいろんなジャンルの小説や漫画が、

びっしりと収納されていたし、クローゼットの奥の方には、

本棚に入りきらなかった沢山の本が、段ボール箱に詰められてしまわれていた。


その中でも私のお気に入りは、この青い表紙の童話集だ。

きっと記憶を無くす前の私も、この本がお気に入りだったようで、

ページのめくり跡がついている。


そんな大事で大好きなこの本を読んでいるときは、

集中して物語の中に入り込んでしまい、周りの事を忘れてしまうことが多々ある。

この国に来るとき、私は電車に乗って来たのだが、

危うく乗り過ごしそうになった。全くけしからん。



下を向いて本を読んでいると、突然、誰かが横から私の髪に触れてきた。

私は驚き、顔を上げて横を見る。


そこには見覚えのある男性がいた。

チョコレートのような甘い色をした髪に、明るい黄色の瞳、

女性が放っておくはずのない整った顔立ち、

赤い軍服のようなデザインの騎士団の制服、

そして左胸に輝く騎士団団長の証であるバッヂ。

 

そう、この人は迷っていた私に、親切に道を教えてくれた、

騎士団団長のエヴァンさんだ。

エヴァンさんは、優しげに微笑みながら私の顔を見つめていた。


「やぁ、また会えるなんて光栄だねルシェちゃん」


彼はそういうと、私の髪を耳にかけて、挨拶代わりなのか何なのか

分からないが、私の頬にそっとキスをする。

私はいきなりのことで動揺し、頬に手を当て、

無意識にエヴァンさんと距離をとる。


「どうも……こんにちは、エヴァンさん」


「わぁ嬉しいね、名前を覚えていてくれたんだね」


距離をとる私と反対に、エヴァンさんは私がとった距離よりも

私と距離を積めてきて、私の頬に当てていた手をとり、両手で握った。


「こうして君に会えたのは、運命かもしれない。

 良ければお茶でもしない?お付き合い願いますが」


「あー……ごめんなさいエヴァンさん。

 私、これから用事がありますので……」


「それじゃあ、お供してあげよう。

 可愛い天使が一人でいるなんて、あまりにも危険すぎるよ」

 

エヴァンさんは私の持ってきたカゴを持ち、歩いて行ってしまう。

私にお供するとかいいながら、先に行かないでくださいよ。

私はエヴァンさんの後について行った。






「それで?一体どこに用事があるの?」


「用事っていうか、ただのおつかいなんですけどね……」


エヴァンさんと一緒に街の中心部へ訪れる。

いろんなお店が立ち並ぶこの通りは、とても賑やかだ。


私はポケットからメモを取り出して見る。

パスタ、パン、角砂糖、紅茶、板チョコレートと書かれていた。


「全部スーパーに行けば買えますね、この辺にスーパーてありますか?」


「えっ!?スーパーで済ませちゃうの?折角ここに来たんだから、

 全部専門店で買い揃えようよ。俺が荷物持つからさ」


「でも、エヴァンさんに迷惑と負担がかかりますし……」


「いいって大丈夫だって、力にはかなり自信があるから」


近くにスーパーを見つけたので入ろうとしたが、

エヴァンさんは私の腕を掴んで、専門店の並ぶ通りへと連れて行く。

うぇぇぇ……本当は私が面倒くさいから、さっさとスーパーで

買い物を終わらせて、ゆっくり読書をしたかったのに……。

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