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時の魔女  作者: 千咲
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3話 魔女と魔法と伝説の人

ユリアは一人、学校の図書室にて奮闘していた。埃とカビの匂いにはもうとっくに慣れた。


彼女がいるのは図書室内でも一番人気のない場所。日本の神話コーナーだ。北欧神話やギリシャ神話は好きという生徒が多いが、日本の神話コーナー付近はガランとしていて人一人いない。そんな場所にユリアが通いつめているのには勿論理由があった。



"時の魔女"



それが、ユリアの探し求めている唯一のキーワードだった。


ユリアには両親がいない。両親が現在生きているかすらわからない。ユリアが物心ついた時には、孤児院にいたのだ。ユリアが孤児院の先生に両親の事を聞いても、皆、首を横に振るばかり。誰も、ユリアの両親の存在を知る者は一人もいなかった。


今から17年前、孤児院の入り口に一つのゆりかごが置かれていた。その中には一人の赤ん坊と一通の手紙が入っていた。手紙の中には"ユリア"と"時の魔女"とだけ記されていた。赤ん坊はまぎれも無くユリアであり、その時の魔女というキーワードだけが、ユリアにとって両親の唯一の手掛かりなのだ。


幼い頃からどこか大人びていたユリアは魔女の存在を否定していた。魔女だなんて、所詮空想に過ぎないであろうと思っていたのだ。


しかし、ある日からその考えが変わった。



ユリアが魔女であったからだ。



ユリアたちの存在する世界には普通の人間と、もう一つ、魔法族という種族が存在した。魔法族は普通の人間たちに見つからぬようにひっそりと生きてきた。大昔に人間に見つかった魔法族の者が次々と殺される事件があったからだ。それがあったため、魔法族たちは人間たちに見つからぬように魔法族たちだけの住処を作った。その、魔法族たちが拠点にしているのがフランス。フランスは、魔法族が生まれた場所だ。そのフランスに、魔法使い、魔女見習いたちが通う学校がある。ユリアはその学校から入学許可証が届いた。それで、ユリアは自分が魔女だということを知ったのだ。


自分が魔女だと知り、ユリアは時の魔女は実際にいる人物ではないかと思った。孤児院を離れるのは寂しく思ったが、ユリアはどうしても知りたかった。その目で確認したかった。自分の両親を。


ユリアは必死に語学を学んだ。なにせ、ユリアは生まれてからずっと日本暮らし。学校ではフランス語ではなく英語が主だったのが唯一の救いだった。


金銭面が不安だったが、校長と話し合いをして奨学金を借りて通うことに決めた。長期休みには学校の雑用のバイトをして学費を稼いだ。


魔法族の学校に在学中はひたすら勉強と雑用と時の魔女の調査に明け暮れる日々だった。


魔法族の学校なのだから、時の魔女に関しての資料が絶対あると思って意気込んでいたユリアだったが、時の魔女の資料が全くと言っていい程見つからなかった。時の魔女は伝説の人だったのだ。


校内にある大きな図書館だけではなく、街中にひっそりと人間たちの目には見えないようにカモフラージュの魔法をかけた書店や古本屋も探してみた。時の魔女の名前が出てくる本はどれもこれも「時の魔女は不老不死だ。」とか「時の魔女は世界を作った。」とか「時の魔女は誰彼構わず人間を殺す。」など確証のない話ばかりが綴られている。そして、時の魔女だけに視点を置いた資料自体無かったのだ。


ユリアが時の魔女の調査を諦めかけたある日のことだ。その日は、学校の近くにある少し妖しい隠れカフェにユリアは赴いていた。そのカフェを利用する者は皆、魔法族ばかり。ユリアは隅っこで今まで探してきた時の魔女の情報を纏めていた。すると、隣の席にいた日本人女性がユリアに話かけてきた。



「随分熱心ね。」


「はい。」


「時の魔女?」



穏やかな口調だった。ユリアは目を丸くする。学校の先生ですら、時の魔女のことを知ってる人などほとんどいなかったのに、彼女の口から飛び出してきた言葉はごく自然だったからだ。



「ご存知ですか?」


「ええ。知ってるわよ。」


「時の魔女のこと、知ってる方なかなかいないのでビックリです…。」


「そうね。伝説の人だものね。…時の魔女のゆかりの地があることは知ってるかしら?」


「え!?」



思わずユリアは席を立ち上がった。店内にガタンと大きな音が響き、ユリアは恥ずかしくなる。すごすごとユリアはまた座った。



「どういうことですか?」


「そのままの意味よ。日本の神奈川県にあるんだけど、そこに時の魔女のゆかりの地があるって噂を聞いたことがあるの。」


「日本の…神奈川……。」



ユリアは呆然とした。時の魔女というぐらいなのだからユリアは絶対魔法族のたくさんいるフランスに情報があるのだと思い込んでいたのだ。しかし、彼女の話によれば日本の神奈川がゆかりの地と言う。まさか自分の故郷にそんな場所があるなんて思いもしなかったのだ。



そんなわけでユリアは魔法学校を卒業後、日本の神奈川にある今の高校に転入した。ユリアの通う高校はちょうどユリアに時の魔女のゆかりの地がある地域にある場所だった。


ユリアは孤児院には戻らず、高校の近くにあるボロアパートを借り、古本屋でバイトをしながら形勢を立てている。言わずもがお金なんてない。学費も払える状態ではないので、帰国子女特典を活かして特待生として転入した。ユリアの通う高校は古い学校なのでたくさん資料があると考え、あまり金銭面のことは考えないことにしたのだ。



無事、ユリアは高校に転入してきたのだがフランス以上に時の魔女の資料がない。あるのはなぜか人魚の資料ばかりだ。神奈川は人魚のゆかりの地でもあったのだ。ユリアの通う高校の図書館は広いので、どこかに資料はあると思うのだが、いかんせんどこを探しても人魚人魚人魚人魚。


ユリアは大きく溜息を吐きながら髪の毛をかきむしった。



「(どうして、ないの…?)」



あの女性が言っていた情報はガセだったのだろうか?そんなことを考えてしまう。フランスでさえ時の魔女の資料がなかったのだからそりゃあ情報がガセだというのは有り得る話だ。


ユリアは嫌な想像を振り払うように頭を振った。


そして、目の前にある人魚の資料をぱらりと1ページ捲った。

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