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『金色』嫌いな俺の青春  作者: えみお


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1-5

 俺は『金色』が嫌いだ。




 いや・・・嫌いと言う言い方では語弊がある。

 正しくは、『金色』に対して激しい拒絶反応がある・・・とでも言おうか。

 自らの身体が、そんな状態になっていることを知ったのは、ジムに通い始めて暫く絶ってからだった・・・。

 






 小学生の時分、定期的に行われる授業参観に、俺の両親が来られないのは日常茶飯事であり、家庭が崩壊して、祖父母の家にご厄介になるために転校することになる前までは、そのことに特に何も感じなかった。

 当時から父が仕事で忙しいことも、母が俺に何の興味も抱いていないことも理解していたし、自分以外にも両親が来れないクラスメイトが、ちらほらいたこともあったからだ。

 



 しかし、環境が変わるということは、常識が変わるということであるのを、俺は転校後初めて行われた授業参観で知ることになる。

 



 教科は図工・・・内容は『両親と互いの似顔絵を描く』ことだった。

 参観日1週間前に、連絡内容を記したプリントに記載してあったこの記述を見て、幼かった当時の俺でさえ、「お父さんやお母さんが来れないクラスメイトに対しての配慮が足りないんじゃないか?」と思った。

 自身のような境遇は流石に稀だろうが、そんな例外を差し引いても、実の父母が離婚しており、片親が懸命に稼がなければいけないが故に、参観日に出席出来ない場合などは十分にあり得る。

 授業内容がどうやって決まっているのかは、一生徒だった自分が知る由の無いことなのだが、仮に内容変更が無理だったとしても、せめて配布するお知らせの表記は『保護者』と書き方を工夫することは出来た筈・・・。

 美的センスを養う為に絵を描く必要があったとして、それが肉親で無ければいけない理由は皆無だろう・・・相手が血縁であるかどうかが、絵の完成度に影響するとは思えない。

 なんとなくプリントに目を通し、それを把握した瞬間、俺の中のクラス担任に対する評価が著しく下がったのを覚えている。

 何ならその時は、「こんな単純な気配りすら出来ない人から、教わることなんて何も無い!」とまで思ったくらいだった。 




 ・・・しかし、後にクラス担任の『生徒』に対する配慮は、割としっかり行き届いていたという事実を知ることになる。

 そしてその中で配慮されていなかったのは、『生徒』ではなく『自分』だけだったのだということも・・・。

 



 さて、参観日当日・・・親子同士が揃って着席する様子をざっと眺め回した自分は驚いた。

 



 なんと、俺以外の全てのクラスメイトが親を伴っていたのだ。

 



 40人ほどが在籍する教室だったはずだが、傍らの席が空いていたのは自分を除き、只の1人もいない・・・。

 その殆どが母親であり、まだ幼かった当時の俺から見ても、非常に気合いを入れた身綺麗な格好をしている者ばかり・・・。

 



 変な話だが、俺はこの時、初めて自分が『転校』したのだということを自覚した。

 



 もともと、他者とは空気を読んだ付き合いをしてきた人間だったので、場所が変わろうとも、やることは同じだと割り切っていた節があった俺・・・。

 だが、たった1人・・・自分だけが仲間はずれのような気分を味わった俺は、ようやくここが、以前自分がいた場所とは違う常識で動いていることを知ったのだった。

 



 ・・・だがおそらく、その後にあんな出来事が無ければ、今日のこともきっと過去の嫌な思い出の1つくらいで済んでいたのだろう。




 自身の隣に1つ分の空席だけを残し、その他準備万端整った教室・・・そこにようやく担任が姿を現す。




「はい、では今から授業を始めます。皆さんのお父さん、お母さんはちゃんと隣にいますかぁ?いない人、手を挙げてぇー?」




 ・・・もし、格闘技に精通した今の俺がそこにいたら、その発言の直後に、明日以降のことが頭から吹っ飛んで、その女教師の顔面に1発カマしていたかもしれない。

 何の因果か、最前列に座っていた俺。

 その隣に両親の姿がないこと・・・そして、それ以外の席がきちんと埋まっていることは一目瞭然。

 ・・・にも係わらず、『いない』人間を挙手させるのは、『いない』ことを罰しているのと何が違うというのだろう・・・?


「・・・はい」


 だが、そんな1生徒の意見にどれだけ筋が通っていようと、それで何かを変えられるわけもない。

 小さな声で返事をした俺は、そろりと右手を挙げる。


「あれ、愛川君?親御さんは?」


「今日は来ません」


 ・・・嘘である。

 今後一切来ることは無い。

 自身に残っていた僅かな意地・・・それが『今日は』を付け足させた。


「愛川ぁ、親いねえのぉ?」


 ふざけ半分からかい半分の言葉。

 それが自身の後部・・・概算、席3つ程開いた場所から飛ぶ。

 クラスのムードメーカー飛田の発言。

 それを皮切りに、教室内にあまりに幼い嘲笑の輪が出来る。

 

「そーなの?いないの?」


「何で?離婚?」


 意味のある言葉を話すヤツも、意味の無い笑みを浮かべながら声を出して笑うヤツも・・・何より、それを止めようとしない大人も・・・皆、碌な者ではない。

 そんな中、依然として黙り続ける俺を見かねてか、それとも授業の進行を優先したのか・・・

 

「はい!おふざけはここまで!じゃあ今日はお伝えしたとおり、親子でお互いの似顔絵を描いてもらいます。最初は皆さんがモデル、親御さんから絵を描いて頂きます。何か質問がある方はいらっしゃいますか?」


 授業の進行を再開した担任に・・・


「せんせぇー、愛川君はどうするんですかぁ?」


 と余計なひと言を加えるのは・・・またしてもムードメーカー飛田だ。

 特別な場で、人一倍自身の存在をアピールしたい気持ちは、多かれ少なかれ誰にでもある。

 だが・・・もし、これ以上言うようなら、俺は金輪際許さない。

 俺はそう心に誓う。


「愛川君には、この時間に先生を描いてもらいます。いいですね」


「はい」


「では、皆さん向かい合って・・・」




 バンッ!!!




 始めて下さい・・・とでも言おうとしたその時・・・教室後方の扉勢いよく開く。

 授業中の教師の話をぶった切るかのように響くドアの音。

 その突然の出来事には、流石の俺も、そして勿論他の者達も、音の発生源の方に目を向ける。

 そして、現れたのは・・・




「優ちゃん!」「優!」




「じ、祖父ちゃん!祖母ちゃん!」


 なんと・・・俺の祖父母だった!



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