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セカンドハウス魔王城 ~悩めるアラフォーおっさんの快適週末異世界暮らし~  作者: 雉子鳥幸太郎


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9/10

肉正宗

チュン……チュンチュン……。


「ん、んん……」


カーテンの隙間から入る朝日に目を細めた。


「もう朝か……風呂でもはいるかな……」


そう思った瞬間、ハッと目が覚めた。


見慣れた自分の家。

10畳のリビングが、とても狭く感じられた。


「はあ……家かよ」


ため息をつきながらトーストを焼き、牛乳で無理矢理流し込む。

適当に髪を整え、歯を磨いた後、着古したジャケットを羽織った。


「さてと……」


時計を見て、俺は急ぎ駅に向かった。


ぎゅうぎゅうの満員電車の中、じっと耐え忍ぶ。

うぅっ……つ、潰れる……。


頑張れ……頑張るんだ……また来週までの我慢だっ!

魔王城に思いを馳せながら、背中に食い込むバッグの痛みに耐え続けた。




    *




時差ボケならぬ異世界ボケだろうか。


やけにオフィスが狭く感じる。

それに、会社の人たちと話していても、アナさんと喋っていたせいか、何でこんなに丁寧なんだと思ってしまう。


昼休みになり、深山くんが俺の席に顔を出した。


「倉城さん、メシ行きません?」

「ああ、いいね、何食べよっか?」


そう答えると、深山くんは少し不思議そうに俺を見た。


「倉城さん、やっぱり宝くじでも当たりました?」

「ちょ、どういう意味⁉」


「あはは、冗談です。でも、以前なら誘っても一瞬、躊躇う感じで、タイミング悪かったかなぁって思うときもあったんで」

「えっ⁉ ご、ごめん! そんなつもりは……」


「わかってます、まあ、派遣だとみんなそうですよ。一人が好きっていうか。僕も似たようなもんですし……あはは」


確かに、挨拶すらしない人が殆どだもんな……。

最初は俺も戸惑ったっけ。


「じゃあ、定番ですけど肉正宗行きますか?」

「ああ、いいね! 行こう行こう」


肉正宗といえば、近所の鉄板焼きのお店。

ランチ限定で、上質なハラミ定食を激安で提供してくれる、子ども食堂ならぬ大人食堂みたいな店だ。

良く採算取れてるなぁと、会社の人たちの間でも時折話題になる。


二人で外に出て、近くの雑居ビルに入った。

日本刀と兜を被った牛のイラストに筆字で『肉正宗』と書かれている。


扉を開けると、「いらっしゃいまさむねー」と声が掛かる。

店内は7割くらい埋まっているが、いつもに比べるとこれでも空いている方だ。


「二名様、奥どうぞー」


「はーい、ありがとうございまーす」

俺たちは奥のボックス席に座った。


「A定二つね」

「かしこまりましたー、A定ツーでーす!」


店員さんが水を置いて離れる。


ここはA定以外の選択肢がない。

なぜなら、A定以外は最大の売りである『肉』が付いていないからだ。

長年通っているが、A定以外を頼んでいる人はまだ見たことがない。


「さっきの話ですけど……」

「ん?」


深山くんが身を乗り出してくる。


「倉城さん、絶対何かいいことありましたよね?」

「そ、そう? 特に何もないんだけどなぁ……」


「何か日焼けしてる気がしますし……明るくなったというか、前はもっと一線を引いてた感じが……」

「ちょ、ちょっと、確かに俺は人見知りだけど、深山くんには普通にしてたつもりだよ?」


「なるほど、あれが普通……」

「えっ⁉」


「あははは! 冗談ですよ、冗談! すみません」


人懐っこい笑みを浮かべる深山くん。

こういうところが、みんなから好かれる理由なんだろうか。

裏表がないっていうか、話してて気持ちがいいんだよなぁ……。


「そういえば、セキュコンの方はどう?」

「ああ、一応、一社は契約取れて、再来月からスタートですね」


「すげぇ……ほんとさすがだね、あ、ウチも今月で終わりだよね?」

「はい、ついに僕も卒業っす」


「A定おまたせしましたー」


「おっ! ありがとうございまーす、きたきたぁ!」

「ん~、良い匂いっすね!」


「「いただきまーす」」


肉汁の滴るハラミを口に入れる。

じゅわっと旨味が広がり、あっという間に肉がほどけていく。

ほんのりと炭火の香ばしさが……最高だ!


「やっぱここのハラミ最高っすね……」

「うん! めちゃくちゃ旨いよ!」


いやぁ、黒猪も美味しかったけど、やっぱりハラミも負けてないな。

あ、そういや赤竜肉の弁当……かぁ~食い損ねた!

勿体ないけど仕方ないか……。


「フリーランスかぁ、憧れるよなぁ」

「え、意外っすね、倉城さんってそういうの苦手だと思ってました」


「そう? まあ、今みたいな働き方が楽だとは思うんだけどさ、やっぱり、俺も少しは考えたりするよ」

「考えるだけじゃだめっすよ、とにかく副業でも何でも手を動かしてみた方がいいですね」

「やっぱそうだよね……」

「はい、結局、みんな考えて終わるんで」


強い! さすが深山くんだ……。

本質を突いている。そうだよな、行動しないと!


「とりあえず、筋トレでも始めてみるかな、なんて、ははは……」

「それ正解っすよ」

「えっ⁉」


「筋肉って、めっちゃ大事なんすよ。やっぱデスクワークだと筋肉落ちちゃうんで。僕もジム行きだしてからメンタル安定しましたから」

「え、そうなんだ⁉」


「はい、やっぱ起業してる知り合い見ても、みんな鍛えてますよ」

「なるほど……」


これは鍛えるしかないかな。

この先、魔王城でも力仕事が増えるだろうし、体力も必要だ。

こっちにいる間も、何かできることはやっておきたいもんな。


「ウォーキングから始めてみるよ。なんせ運動なんて数十年ぶりだからね」

「す、数十年ってマジっすか⁉ いや、すみません、応援してます」


それから、他愛もない話を続けながら、深山くんとのランチを終えた。

人見知りの俺が、唯一気兼ねなく話せる相手が彼であったのは運が良かったと思う。

深山くんと話していると、自然と俺も頑張らなければと思わせてくれるのだ。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

世界観など気に入ってくれた方は、ぜひブクマや評価など応援よろしくお願いしまさむね!

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