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セカンドハウス魔王城 ~悩めるアラフォーおっさんの快適週末異世界暮らし~  作者: 雉子鳥幸太郎


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選択の行方

やってしまった……。

魔魚の注意を引いてくれていた二人に申し訳が立たない。


「クラキさん! 大丈夫ですか⁉」

「ワウッ!」


遠くからラニスさんとルートが駆け寄ってくる。


「すみません……私の不注意で、篭を魔魚に奪われてしまいました」

「えっ、篭を……?」


ラニスさんが水面と俺を交互に見た。


もう魔魚の姿は見えない。

恐らく深場へ潜ってしまったのだろう。


どうする……諦めて帰るか?

いや、まだ手はあるはずだ。


俺はふと、アイレム様からもらった教本を思い出した。


闇の泥(タール)……。

そうだ! あの魔法は、ただの泥じゃない!


触れたものを絡めとるような、重く、粘り気のある泥を作り出す魔法だ。

もし、あの泥を水中に放ち、篭にくっつけることができれば……。


どうせこのまま終わるのなら、やってみても損はない!


「ラニスさん、ちょっと試してみたいことがあります。少し離れていてもらえますか?」

「は、はい……?」


俺は池の淵に立ち、水面に映らないよう気を付けながら呼吸を整えた。

……以前、城で使った時よりもスムーズに魔法が使えそうな気がする。


「――闇の泥(タール)!」


俺が掌を突き出すと、空中に黒いもやのような塊が出現し、ボタボタと音を立てて水面に落下した。

泥は拡散することなく、塊のまま沈んでいく。


広がれ……イメージは投げ網だ!

指先から伸びる見えない糸を通じて、泥の感触が伝わってくるような気がした。


「むむむ……ん⁉」


何か硬いものに触れた感触――。

そして、何かが暴れるような振動。


「……今だ!」


俺は両手を引き上げるように振り上げた。

ぐぐっ……重いっ!


まるで岩を持ち上げているような重量感だ。

全身に力を込め、魔力を注ぎ込む。


――バッシャアァッ!


「で、出た……!」


水面が盛り上がり、黒い泥の塊が姿を現した。

その中心には、奪われた篭がしっかりと抱き込まれている。

そして、それだけではない。

泥の表面には、篭を奪った犯人であろう魔魚たちが、何匹もへばりついていたのだ。


「と、取ったぞぉーーーっ!!」


ドサッという重い音と共に、黒い塊を地面に転がす。


「ぜぇ……ぜぇ……」


やばい……魔力をごっそり持っていかれた感覚だ。クラクラする。

だが、成功した……!


「す、すごいですクラキさんっ! 魔法で回収するなんて!」

「ワウワウッ!」


ラニスさんが打ちあがった篭を回収する。

だが次の瞬間、ラニスさんの顔が曇った。


「あぁ……これは……」


篭の中を見ると、肝心の薬草は泥と魔魚に揉みくちゃにされ、見るも無惨なペースト状になってしまっていた。これでは商品にならない……。


「薬草は全滅ですね……」

「そう、ですか……」


俺はその場に座り込んだ。

初依頼で失敗か……。


「……仕方ないですよ、こういう時もありますから」

「でも、もう薬草が……」


見渡す限り、もう薬草らしき草は見当たらない。

泥と雑草が少しあるだけだ。


「ワゥ……」

ルートも耳がぺたぁっとなっている。


「ほ、ほら、クラキさん、魔魚はおみやげになりそうですよ」

ラニスさんが篭に入れた魔魚を見せる。


そうか、たしかあのカルパッチョはこいつだったよな……。

まあ、手ぶらで帰るよりはマシか。


「何もないよりはいいですよね」

「そうですよ、またチャンスはありますから」


ラニスさんが元気づけてくれる。

何て良い人なんだ……。


「と、とりあえず、一息入れましょうよ!」

「……そうですね、そうしましょう」


俺たちはドランのところへ戻った。


「ドラン、駄目だったよ……悪いな、せっかく連れてきてもらったのにさ」

愚痴をこぼすようにドランに声を掛ける。


『ギィ……』


俺たちは竜車の側に腰を下ろした。


「はぁ……どうしよう。当分、生えないよね?」

「そうですねぇ……まぁ、その、むずかしいかと……」


俺を気遣ってくれているのだろう。

ラニスさんはやんわり生えないぞと答えてくれる。


「ですよねぇ……」

「ワゥ……」


がっくりと肩を落とした瞬間、俺はふわっと浮かび上がった。


「えっ⁉」


見ると、ドランが俺の襟首を噛んで持ち上げていた。


「ド、ドラン⁉」

「クラキさん⁉」


「ワウワウ!」

ルートがぐるぐる回っている。


いったい、何が……!

と、思ったら、そのまま、ひょいっと御者台に乗せられた。


「え?」


そして、ドランがゆっくりと動き始める。


「あーっ! ちょ、ラニスさん! ルート! 早く乗って!」


「ワウッ!」

「は、はい!」


慌てて二人が竜車に飛び乗った。


二人が乗ったのを見計らったのか、ドランは速度を上げ、どこかへ向かって走り出した。


「どこに向かっているんでしょう……?」

「わ、わかりません……トイレ、ではないですよね、あはは……」



    *  *  *



あれから、黙々とドランは走り続け、気づくと深い山の中を走っていた。


「ちょっと心配になってきました……」

ラニスさんがしきりに周囲を見渡している。


「そ、そうですね……声かけても止まってくれないし……」


何か怒らせるような事をしたわけでもない。

水もちゃんと飲んだし……。


と、その時、竜車の速度が下がった。

俺とラニスさんは顔を見合わせる。


固唾をのんで成り行きを見守っていると、ついにドランがその足を止めた。


『ギギ』


まるで「着いたぞ」というように俺の顔を振り返って鳴く。


「ここは……」


思いっきり山の中だ。

とりあえず、俺たちは竜車から降りてみた。


「一応、警戒しておきましょう。魔獣が出るかも知れません」

ラニスさんは、そう言って剣の柄に手を置いた。


「……わかりました」

俺も短剣に手を置き、咄嗟に抜けるか試しておく。


周囲からは猿のような鳴き声や野鳥の声が聞こえてくる。

しきりに辺りを見回していると、ルートが何かを見つけた。


「ワウワウワウ!」

俺たちを呼ぶように茂みの向こうでぴょんぴょんと跳ねている。


俺とラニスさんはアイコンタクトを交わし、俺、ラニスさんの順で茂みの奥へ入った。

硬い木枝を折りながら茂みを抜けると、急に視界が広がる。


「こ……ここは!」

「すごいっ! クラキさん、これ、ボステソウの群生地ですよ!」


後ろから来たラニスさんが驚きの声を上げた。


「や……やったぁ!」

「やりましたねぇ!」


ラニスさんとハイタッチしながら喜ぶ。


「ワウッ!」

ルートも一緒にジャンプしていた。


「これだけあれば依頼も余裕で……」


ん? もしかして、ドランは依頼のことをわかってて、ここに連れてきてくれたのか……。

てことは、少なくとも一度来たことがある場所のはず。

前の主人と依頼とかで来たことがあったのかな……。


「ドランはきっと、クラキさんを助けたかったんじゃないでしょうか」

「ええ、そうだと嬉しいですね……とりあえず、薬草を集めてしまいます」

「はい、では私も」


俺たちは篭に採った薬草を投げていく。

ルートも傷まないように器用に咥えて、手伝ってくれる。


お陰で、そう時間もかからず、目標の量を採取できた。


「おぉ~! これで依頼達成です、ラニスさん、ありがとうございます!」

「ワウワウ~!」

「いえいえ、これはドランのお手柄ですよ」


薬草をリュックに入れ、俺たちはドランの元へ戻った。


「ドラン! ありがとうな、お陰で依頼達成だ!」


ドランにハグをして、ポンポンと首筋を叩いた。


『ギギィ』

少しドヤっているのがわかる。


「あとは、これをマクセンさんに届けるだけです」

俺はリュックに親指を向けた。


「じゃあ、タイレルへ戻りますか?」

「そうですね、戻ったら……どうです、一杯?」

「えっ、いいんですか? お忙しいんじゃ……」


「そんなことないですよ、それに……手伝っていただいたお礼もしたいですし、コイツのお礼もまだですから」

俺は短剣の鞘を叩いた。


「じゃあ、お言葉に甘えて」と、ラニスさんが頷く。


そういえば……俺が自分から飲みに誘うなんて、初めてじゃないだろうか。

いつも、嫌がられるかなとか、めんどくさいって思われないかなって気にしてたけど……。いまは不思議とそういう気持ちにならない。

本当に、ただ純粋に、ラニスさんにお礼がしたいと思っていた。


俺は竜車へ乗り込み、手綱を引いて合図を送った。


「タイレルへ戻ろうか、ドラン」

「ワゥッ!」

『ギィ』


ゆっくりとドランが走り始める。


これからもこの異世界で、いろいろな経験を積んでいくのだろう。

俺もドランのように経験を活かせるようになるのかな?


やりたいことは山積みだ……。

魔石の採掘はもちろん、畑でサンジャの実も育ててみたい。


冒険者として色々な依頼に挑戦したい。

まだまだ体も鍛えたいし、魔法の練習も続けたい。


深山くんともまた飯に行きたいし、バルトさんとも、また楽しく話をしたい。


まあ、のんびりやっていけばいいか。

時間はまだ十分にあるんだから……。


ルートの頭を撫でる。


「ワゥ?」


あんなにも空虚だった俺はもうどこにもいない。

すべては、あの魔王城を買った決断――。


あれが俺の人生を変えたのだ。


ここまでお付き合いいただきありがとうございました!

キリのいいところまで書ききることができたので、第一部完としました。


もう少しテンポよく話を進めた方がよかったのか、もっと魔法とかチート感を出した方がよかったのか……はたまた、ハーレムにした方がよかったのか……。

いろいろと反省点がありそうです。


新作や更新をお待ちいただける方は、作者をお気に入り登録していただけると嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします!


ありがとうございました~!

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