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セカンドハウス魔王城 ~悩めるアラフォーおっさんの快適週末異世界暮らし~  作者: 雉子鳥幸太郎


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南の池

ひとまず立ち話を終え、俺たちはドランに乗り南の池を目指していた。

御者台の隣には、ラニスさんが座っている。

ルートは、俺とラニスさんの間に、無理やり陣取っていた。


「ルート、狭くないの?」

「ワゥウ……」


心なしか、ムスッとしているようにも見える。

もしかして、ラニスさんに焼きもちを焼いているのかも知れないな。


「すみません、何かお邪魔したみたいで……」

ラニスさんが眉を下げながら、ルートの顔色を窺っている。


「いえいえ、とんでもない。一緒に来てくださって、本当に心強いです。な? ルート」

「……ゥ」


くぐもった声を少しだけ発し、だんまりを決め込むルート。


「ま、まあ、ちょっと気難しいんで、お気になさらず……」と、俺はラニスさんに苦笑して見せた。


「ごめんねぇ……あっ! そうだ! これをお渡ししようと思って持ってきたんです」


ラニスさんは荷物の中から何かをくるんだ布を取り出した。

そして、布を外すと、革の鞘に入った短剣が見えた。


「これ、私から先日のお礼として、クラキさんにお贈りさせてもらおうと思いまして」

「えっ……⁉ わ、私に⁉」


「はい、一応、貸し借りなしという話でしたが、やはり何かしないと私の気が済まなくて……」

「ラニスさん……」


「実は、選んでいる最中に、とても高名な冒険者の方にお会いしまして、その方に選んでいただいたんですよ。その方は短剣をメインに扱ってらっしゃるので、私よりも見立ては確かです」

「しかし、武器なんて高価なんじゃ……」


「いえ、これは私の気持ちですから」


ここまで言わせておいて、貰わないってのは失礼だよな……。

うーん、何か申し訳ないけど、ありがたく頂戴しておくか。


「わかりました、では……遠慮なく使わせていただきます」


俺は短剣を受け取る。

想像よりも、重みを感じた。


だが、軽すぎず、重すぎず、丁度よい重量感だ。


「かなり丈夫で使いやすいと思います。それに、何といっても、あの狂狼のバルトさんの見立てですからね」

「えっ……⁉」


バルトさん……って、あのバルトさんだよな?

あれ以来、顔を合わせてないが……。


「どうかしましたか?」

「いえいえ、黒い刀身って珍しいなあと思いまして」


「そうなんですよ、カッコいいですよね!」

「はい、気に入りました。大切にしますね」


俺は早速、腰に短剣を下げてみた。

おぉ~、本格的に冒険者になった気がする。


「似合ってますよ」

「本当ですか? ありがとうございます、へへへ……どうだルート、格好いいだろ?」

「ワゥワゥ!」


ルートも気に入ったみたいだ。


『ギギィ』


ドランの声に前を見ると、大きな池が見えてきた。


「あれが南の池ですか」

「そうです、でも、何か様子がおかしいですね……」

ラニスさんが身を乗り出して言う。


ドランが止まり、竜車を降りると辺りの異変に気付いた。


「これは……」

「先日の嵐の影響ですね……これは酷いな。薬草が殆ど流されてしまっている」


池の周囲には泥が広がっていて、植物のようなものは見えない。

少し離れた場所に、他の冒険者たちがいた。


「ちょっと聞いてみましょうか」

「あ、そうですね」


ラニスさんが、冒険者たちに手を上げながら声を掛けた。


「すみません、あなた方も薬草採取ですか?」


冒険者のひとりが俺達を見て、

「ああ、だがこりゃ駄目だな……しばらくは採れないだろう」と頭を振った。


「……」


折角の初依頼が……。

どうにかならないものか。


「ま、あんたたちも諦めるんだな、じゃあ俺たちは行くよ」

「ええ、ありがとうございました」


軽く手を上げると、冒険者たちは走竜に跨り、走り去って行った。


「どうしたものですかねぇ……」


ラニスさんと泥を眺めながら途方に暮れていると、ルートが近くの泥を掘り返し始めた。


「あー、ルート、汚れちゃうから……」


ルートを止めようとした時、掘り返した泥の中から緑色の草が顔を出しているのが見えた。


「ラ、ラニスさん、これ!」

「これは……そうか! 流されたんじゃなくて、泥に埋まっているのか!」


「てことは……掘り返せば薬草が手に入るってことですかね?」

「ええ、ですが、ちょっと傷んでますから使えるものがどれだけ残っているか……」


茎の折れた薬草を手に取り、ラニスさんが眉をひそめた。


すると、突然ルートが池の周囲を走り始めた。


「ワゥ!」

「ルート⁉」


凄い速さで走っていく。

そして、急に止まり、「ワウッ!」と大きな声で吠えた。


「呼んでますね」

「行ってみましょう!」


俺とラニスさんはルートが待つ場所へ向かった。


「あっ!」


近づくと、少しだが泥から顔を出している薬草が見える。


「なるほど……ここだけ泥が浅いですね。これならいけますよ!」

「やった! あ、でも、どうします? たしか、魔魚がいるんですよね?」


「ええ、水面を覗くと襲ってきます。ですから、私とルートが別の場所で魔魚の注意を引いている間に、クラキさんは薬草を採取する、という作戦でどうですか?」

「わ、わかりました!」

「ワウワウッ!」


ルートも理解したようだ。


「では、クラキさんの合図で始めましょう」

そう言って、ラニスさんとルートがそれぞれ別方向に離れて行った。


責任重大だなぁ……。

でも、薬草を採るだけだし、急げば大丈夫か。


二人がかなり離れた場所に行ったのを見計らい、俺は大きく手を振った。


ラニスさんが水面を叩く。

ルートは浅瀬を走り始めた。


――始まった!


池の水面に波が立ったかと思うと、おびただしい数の魔魚が飛び跳ねだした。

ラニスさんに向かって魔魚が飛んでいく。

うまく剣で払いつつ、ラニスさんは魔魚を引き付けてくれている。

ルートもその素早い身のこなしで、魔魚を躱しながら浅瀬を走り回っていた。


よし、いまのうちだ!


俺は池の間際に生える薬草を手早く抜いて、篭に入れていく。

かなり量はすくないが、無いよりはマシだろう……。


その時、水面に自分の影が映る。


「あ、やば――」


瞬間、数匹の魔魚が飛び出してきた。


「うわぁっ⁉」


魔魚は宙を飛び、俺を襲ってくる。

慌てて篭を持って逃げようとした時、勢いよく魔魚が篭に喰らいつく。

そして、そのまま篭を奪われてしまった。


「あぁっ⁉ か、篭が……」


泡を立てながら、篭が池に沈んでいく。


「お、俺の初依頼が……」


その場に座り込み、俺は静かになった水面を呆然と眺めていた。

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