いざタイレルへ
ドラ爺さんを見送り、俺は竜車に乗ってみることにした。
「ドラン、乗ってみていいかな?」
『ギィ』
嫌がる感じはない。
俺は少し緊張しながら御者台へ上った。
「ワゥ!」
ルートが隣に飛び乗ってくる。
手綱を握る手が少し汗ばむ。
まずは魔王城の周りを回ってみるか……。
「よし、ドラン、魔王城の周りをぐるっと一周しよう」
手綱を軽く引いて合図を送る。
『……ギッ』
ドランは静かに前に進み始めた。
「おぉ~! すごい……!」
「ワゥワゥ~」
ルートも嬉しそうに周りを見ている。
軽トラとは違った感動があるな。
乗り心地も、思ったほど揺れず、安定している。
恐らく、竜車の車輪部分に、サスペンションのような機構が組み込まれているせいだろう。
ウェザーランドの文明は一見古く見えるが、地球と比べて極端に遅れているようなところがない。
魔晶端末だってそうだ。ほぼ、スマホの機能を満たしているし、飛竜便だってネット通販そのものだ。
逆に、タイタンのリュックに使われている魔導拡張なんて、地球の技術じゃ再現できないわけだし……。
魔王城を一周したドランが止まり、俺の方をチラッと振り返った。
「ドラン、ありがとう」
なるほど、特に運転技術は必要なさそうだ。
ドランに伝えておけば、勝手に動いてくれる。これなら、俺でも運転できるな。
よし、このまま薬草採取に行くか――。
「ルート、城から俺のリュックを取ってきてくれない?」
「ワウ!」
ルートが城へ走って行った。
その間に、ドランに水をやろう。
竜車を降りて、畑横の蛇口からバケツに水を汲む。
「ドラン、今日はこれからタイレルに行って、ラニスさんっていう依頼を手伝ってくれる人を乗せた後、南の池まで行くからね」
『ギギッ』
ドランはバケツに顔を突っ込んで水を飲んだ。
ルートがリュックを咥えて戻ってくる。
「おぉ、ありがとう!」
「ワウッ!」
ルートの頭を撫で、御者台へ上る。
「さぁて、いよいよ初めての依頼だ、みんな準備は良い?」
俺は二人にアイコンタクトを送る。
ルートもドランもやる気満々だ。
「コホン、ではタイレルへ向け――出発!」
『ギィッ』「ワゥ!」
ゆっくりと竜車が進み始めた。
くぅ~、わくわくするなぁ、頑張るぞ!
* * *
竜車の乗り心地はとても良かった。
なんといっても、ドランの安定感が半端ない。
道が悪い個所では、揺れないようにスピードを落としたり、変に蛇行しているなと思いきや、穴に車輪が嵌らないように調整しながら走ってくれていた。
さすが長年走ってきたベテラン竜なだけはある。
あ、そうだ、従魔契約を交わしたわけだし……ルートみたいに鑑定ができるかも。
俺はドランの背を見つめながら、心の中で――鑑定、と呟いた。
――――――――――――――――
名前:ドラン(従魔)
LV:121
知力:A+
体力:B
魔力:C
種族:地竜
毒や魔法に強い耐性があり、地理記憶に秀でた竜種
サンジャの実を食べて育ったため、他竜と比べ知力が高い
――――――――――――――――
おぉ……やっぱり出た。
ふぅん、知力がやけに高い、魔力が低めなのは……耐性に関係がありそうだな。
ってことは、知力も地理記憶の影響なのかも。
この、サンジャの実ってなんだろう?
前の主人が与えていたのかな……うーん、スーパーフード的なもの?
ウェザーマートのアプリを開き、『サンジャの実』で検索をする。
「あった……!」
やっぱり何でもあるな、ウェザーマートは……。
サンジャの実は、想像通り、健康食のカテゴリだった。
「えーっと、滋養強壮に効果、血液を綺麗にしてくれる……へぇ、民間薬として愛される、か。なんか漢方薬みたいだな」
説明を読み進めると、土さえ合えば割と簡単に育つと書かれていた。
いいね、だから民間薬になって……ん?
「一個、さ……3000wz⁉」
高けぇ! とんでもない値段だ……。
そうか、簡単に育つとはいえ、合う土がなかなか無いから希少ってことか……。
とりあえず今度一個買ってみて、うちの畑で育つか試してみようかな。
そんなことをしているうちに、ドランの引く竜車はタイレルに到着した。
門をくぐり、竜車置き場に入る。
「よぉ、あんた、たしか変な竜車に乗ってた人だよな?」
あの時の門兵さんが声を掛けてきた。
「どうも、あの時はお世話になりました」
「今日はまた、ずいぶんと立派な地竜だな? あんた、もしかして、大店の人?」
ドランを見上げ、門兵さんが俺に尋ねた。
「いえいえ! ただの冒険者兼魔石採掘屋です」
「へぇ、魔石も掘ってんのか……なら、ボストンだな、行ったことあるか?」
「噂には聞いているんですが、何せまだ始めたばかりでして……」
「かなり良い魔石が出るらしいぜ。その分、同業者も多いだろうけどな、まあ、頑張れよ、竜はちゃんと見とくから安心しな」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
「ワゥ!」
門兵さんに頭を下げ、待ち合わせ場所のギルドへ向かう。
「いつ来ても賑やかだなぁ……ルート、はぐれちゃ駄目だよ」
「ワウ」
ギルド前に着くと、すでにラニスさんが待っていた。
「あっ、クラキさーん!」
笑みを浮かべたラニスさんが大きく手を振る。
「すみません、お待たせしました」
「いえいえ、私もいま来たばかりです」
握手を交わし、
「じゃあ、早速向かいますか?」とラニスさん。
「はい、実は……今日は竜車で来ていますので、それで行きましょう」
「ええっ⁉」
竜車置き場に戻り、ドランを見たラニスさんが目を大きく見開いた。
「これは……素晴らしい竜ですね……よく、このような竜を……」
ラニスさんは、ドランの周りをせわしなく動きながら観察する。
ドランは完全にラニスさんを無視をしていた。
「よう、ラニス」
門兵さんが声を掛ける。
「あぁ、ハーミットさん、どうも」
「良い地竜だよなぁ」
「ええ、かなり経験積んでますよねぇ、羨ましい……」
「見てわかるものなんですか?」
「わかりますよ、他の地竜を見てください」
そう言われて、俺は竜車置き場にいる地竜たちを見回した。
うーん、これといって違いはない気がする。
考えていると、ラニスさんがおもむろに柏手を打った。
――パンッ!
一斉に地竜たちが振り向く。
そして、ほとんどの地竜は落ち着かず、辺りを見回している。
中には動じず、そのままじっとしている地竜もいた。
「何頭か、じっとしていますよね? あれが経験を積んだ地竜です」
「へぇ……」
「経験の浅い地竜は、口元がずっと動いていたり、やたらと周りを気にしたりしてるんですよ。その点、クラキさんの地竜を見てください! この岩のような安定感……私が近くで動いているのに反応すら見せませんでした、これは相当に経験を積んでいる証拠なんですよ!」
やや興奮気味にラニスさんが言う。
なるほど、何事にも動じないのが経験の証、か……。
たしかに、ドランは厩舎の中でも岩みたいにじっとしてたもんな。
「そうなんですね、知りませんでした……」
「いやぁ、しかし、よく手に入れられましたねぇ。魔導車といい、この地竜といい、本当にクラキさんの人脈は凄いです」
「い、いや、本当にたまたまなんですよ……ははは」
「ラニスも早く竜車を買えよ」と、ハーミットさん。
「そんな簡単に言わないでくださいよ……いくらすると思ってるんですか」
ラニスさんがため息をつく。
たしかに、俺は円の換金チートがあるから買えたが、こっちの稼ぎだけで買うとなると高いよなぁ……。
「そりゃそうか、はっはっは」
「ちなみに……ラニスさん、もうファームを決めてあるんですか?」
「いやぁ、これがなかなか……有名どころは殆どが紹介制ですから。ギルドに紹介してもらうにも、実績がまだ足りませんし……」
そうか、いろいろ大変なんだな……。
せっかくだからドラ爺さんのところを紹介してみようかな。
お客さんが増えればドラ爺さんも喜んでくれそうだし。
「もし、良かったら私がお世話になったファームを紹介しますよ」
「えっ⁉ いいんですか⁉」
ラニスさんは目を丸くしている。
そんなに驚くことなんだろうか……。
「一応、確認してみますけど、たぶん大丈夫だと思いますよ。とても気さくな方でしたし……」
「えっ……もしかして、こ、個人ファームなんですかっ⁉」
「個人? どうなんでしょう……。もしかすると、従業員の方がいらっしゃるのかも知れませんが……私が見た限りではお爺さんが一人でやられているようでした」
ラニスさんとハーミットさんが顔を見合わせた。
「あの、クラキさん、まさかとは思うのですが……それって、ドラ・オブライエンのファームじゃないですよね?」
「すみません、オブライエンという名前かどうかはわからないんですが……紹介してくださった方がドラ爺さんとお呼びしていたので、私もドラ爺さんと……」
「この国の個人ファームで『ドラ』の名がつくファームは一つだけですが……」
「ああ、じゃあきっとそうです、そのファームですね」
ラニスさんが額に手を当て、ハーミットさんはなぜか笑いだした。
「え、ど、どうかしましたか?」
「……クラキさん、ドラ・オブライエンは、地竜育成師の頂点と言われるお方です」
「えぇっ⁉」
ドラ爺さんって、凄い人だったんだ……。




