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セカンドハウス魔王城 ~悩めるアラフォーおっさんの快適週末異世界暮らし~  作者: 雉子鳥幸太郎


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5/9

まずは風呂から

まだ慣れない運転だったが、袋小路さんがゆっくり走ってくれたこともあり、特に問題なく例のトンネルへ着いた。


「ここを抜ければ……」


ハンドルを握る手に力が入る。

少し先に、またあの白い光が見えてきた。

俺はこの日のために100円ショップで買っておいたサングラスをかける。


「いざ!」


白い光をくぐり抜けると、そこは一面、緑の海。

豊かな大自然が広がっていた。


「うわぁ……すごいなぁ!」


この景色は圧巻だな……。

RPGゲームが現実だったら、こんな感じなんだろうか……。


ゆっくりと道なりに進み、魔王城の前に着く。

袋小路さんの車の隣に軽トラを停めた。


外に出ると、強い日差しと熱気が押し寄せてくる。

やたら暑いだけの都会と違い、草と土の匂いが心地よく、自然の中にいるんだという気持ちになった。


「登録は中で行います」


俺は頷き、袋小路さんの後に続く。

中に入ると、しっかり空調が効いていた。

ふぅっと、息を吐く。

袋小路さんがコンソールパネルを操作している。


「では、登録をしましょう、ここに手を押し当ててもらえますか?」

「あ、はい」


俺は言われた通りに、コンソールの画面に手の平を押し当てた。


『――所有者権限承認:倉城 渉(くらき あゆむ)

手を当てた画面に、回路のような模様が浮かび上がって消えた。


おぉ……何かすごいな。


「はい、これでお手続きは完了しました、お疲れ様です」

「ありがとうございます、この城が自分の物だなんて、何だか不思議な感じですね……。まだ、実感が湧かないというか……」と、俺は周囲を見回した。


「ふふっ、そうですね。でも、これから忙しくなりますよ?」

「ええ、まずは城内を見て、家具なんか揃えたいんですが……。たしか、定期便があると仰ってましたよね? それって利用できますか?」

「ウェザーマートですよね、あ、スマホをお持ちですか?」

「え? あ、はい……」


俺はポケットからスマホを取り出した。


「きさらぎ不動産のアプリを入れていただいてもいいですか?」

「ええ、わかりました」


インストールを済ませると、袋小路さんが自分のタブレットの画面を見せつつ説明を始めた。


「このホーム画面で色々と申請ができます。ウェザーマートだと、この販売のカテゴリを見てください」

「はい、販売……っと」


販売のカテゴリに入ると、そこには見慣れない名前がずらっと並んでいた。


・ウェザーマート

・ジャングル

・アイオン

・ウェザー・フーズマーケット

……


「へぇ! 色々あるんですね~」

「はい、それぞれに特色があるんですが……残念ながらこの場所はアイレムといって、いわゆる辺境地になるんです。なので、カバーしているのはウェザーマートだけになってしまいますね」

「そうなんですか……」


ちょっと残念な気もするが、最大手っぽいし、品揃えも良さそうだ。


「あと、小さい家具やインテリア用品はウェザーマートにもありますが、大型家具は『イデア』をおすすめします」

「イデアですか、安いとか?」

「お値段はやや高めですが、サービス面で安心できると思います。設置もアフターケアもしっかりしていますから」

「なるほど……」


確かに安物買いの銭失いとも言うからな。

しっかりしたところで買う方がいいだろう。


それにしても、きさらぎ不動産って一体……。


「あの、聞いて良いのかどうか……」

「はい、何でもどうぞ?」


「きさらぎ不動産って、どういう会社なんですか? 本当は存在しないとか……神様? だったりとか?」


袋小路さんはきょとんとした顔を見せた後、クスッと笑う。


「違いますよ、神様だなんてとんでもない。袋小路家は昔から異なる世界の調整役といいましょうか、便利屋みたいなものを家業としているんです」

「家業? では、他にもどなたか?」

「ええ、両親は隠居していますが、兄と弟がいます。それぞれ別の世界の担当ですから、お正月くらいしか逢えなくて……」

袋小路さんが眉を下げる。


「へぇ……」


もはや、何を信じていいのかもわからないが、目の前に居る袋小路さんが悪い人ではないってことだけは、この短い間のやり取りでも十分にわかった。

ならば、細かいことなんてどうでもいいではないか。

いまや、俺は魔王城の主。

それこそ信じられる話じゃないが、それも真実なのだから。


「では、私は一旦、これで失礼しようかと思うのですが……」

「あ、は、はい! 大丈夫です、ありがとうございます」


「連絡いただければ成約特典がありますから、いつでもサポートいたしますので遠慮無くどうぞ。大抵のことはアプリのAIチャットで聞いてもらえるとわかると思いますから、急ぎの場合はそちらもご利用ください」

「わかりました、見ておきます」


「ふふっ、それではご連絡をお待ちしております。よい異世界生活(セカンドライフ)を――」

「ありがとうございました!」


俺は袋小路さんのSUVが走り去るのを見届け、リビングへ戻った。



まだ何もない部屋だが、眺めているだけでわくわくしてくる。

魔王城か……。くふふっ。


アプリは後で見るとして……やっぱりアレだよな!

俺は最上階へ駆け上った。


「おぉっ‼ これはテンション上がるなぁ!」


最上階に上がると小部屋があり、すぐ外は屋根のないスカイテラスになっていた。

さらに、その中央には円形の大きなプールが設置されていた。


「か……開放感えぐっ! くぅ~、生きててよかったぁ!」


プールに駆け寄り、中を覗く。

ちょっと底が汚れているが、露天風呂だと思えばいけるか……?

多少の汚れなんてこの際無視だ!


一回、水を張ってみよう。

コンソールパネルを探して……お、あったあった。


壁に四角いパネルがある。

俺はそっと触れてみる。


するとホーム画面が表示された。


「どうやるんだろう……」


適当に触っていると、最上階のマップが表示される。

そこにプールのアイコンもあったのでタップすると、イラストとメニューが表示された。


▶湯張り 温度37℃▲▼

 注水

排水

掃除


「へえ、お湯もいけんのかよ、もはや温泉じゃん! えーっと、とりあえず暑いし水にするか。注水でいいのかな?」


俺は注水を選んだ。

すると、ガシュッという音と共に、大きなプールに勢いよく水が満たされていく。


「おぉ! 出た!!」


服を脱ぎ捨て、俺は全裸でプールに飛び込んだ。


「うひょーっ! つめてーっ!」


水を思い切り空に向かってすくい投げる。

バラバラバラッと投げた水がバルコニーに降り注いだ。


雲一つ無い青空。照りつける真夏の日差し……。

すげぇー……プライベートプールだ……。


しかも、広い!

大の字で水に浮かんでも全然余裕がある。


あ~、もう帰りたくない……。

これでビールでもあったらもう……。


俺はプールから出て、全裸のまま城下に広がる草原を眺めた。

何という開放感だ……。


風を浴びていると、あっという間に身体も乾く。

俺は服を着て、リビングに戻ることにした。


リビングに戻り、スマホでアプリを立ち上げる。


「ウェザーマートは早めに契約しておいた方がいいよな……」


販売カテゴリからウェザーマートを選ぶと、定期便の文字が。


「日本語ってのもありがたい……えっと……」



『契約メニュー → 定期便』を開く。

表示はシンプルに二つだけ。


『飛竜便(週1)/月額:2900wz』

『竜車便(週1)/月額:1600wz』


うーん、空からの方が早そうだよな。

まずは飛竜便にチェックを入れる。


『曜日と時間帯を選択』


土曜日。午前っと。

これで仕事明けに受け取れる。


『契約しますか? はい/いいえ』


――はい。


小さな完了音が鳴り、画面に新しい項目が増えた。


『登録済:飛竜便(週1・土曜午前)/開始:次回サイクル』


たった数行の文字なのに、ここでの生活が始まる実感が湧く。

常備薬なんかは元の世界から持ってくればいいか……。


「さぁ~て、商品を見てみ……こっ⁉ これはっ⁉」


★ひとくちで火竜も涼む! 夏の冷涼祭り‼★

~バイヤー特選プレミアムビールラインナップ!~


赤竜の吐息(RED BREATH)

種別:黒麦ドラフト

味わい:濃厚かつスモーキー。火竜も唸る重厚な苦み。

特徴:後味にピリッとしたシナモンスパイスと燻炭香。肉料理と永久相性保証(ラスト・エンゲージ)

価格:313wz/瓶(500ml)

おすすめ:竜神祭用限定醸造。数量限定!


氷壁(ICE WALL)

種別:極冷淡色ラガー

味わい:キレッキレの爽快感。口に含んだ瞬間、まるで氷精の吐息。

特徴:魔導冷却缶。飲んだ瞬間、体感温度-2度!

価格:238wz/缶(350ml)

おすすめ:風呂上がり、鍛錬後の「最初の一口」に!


【エルフの森のホワイトエール】

種別:香草系白ビール

味わい:かすかに甘く、ハーブと柑橘の香り。優しい苦味で飲みやすい。

特徴:昼下がりのテラス向け。

価格:320wz/缶(350ml)

おすすめ:女性にも人気。軽食やフルーツと◎


ブラック(Black)アンビル(Anvil)

種別:ビターエール

味わい:黒鉄の金床のように重く響く後味。慣れるとクセになる通向け。

特徴:ウェザーマート店員もあまり勧めないが、固定ファンは熱烈。

価格:250wz/瓶(330ml)

おすすめ:口直しに冷たいチーズやナッツを添えてどうぞ。


夏限定セット ~竜喉の涼・各種4本アソート~

価格:1200wz(魔導冷却ケース入り)



「いやいや、これはどう考えても買いだろ……めちゃくちゃ気になるじゃん!」


えっと、支払いはどうすんだっけ?

たしか袋小路さんが両替とか……。


ホーム画面に戻ると、両替のカテゴリがあった。

タップすると、俺の名前と残高が表示されていた。



◇ 倉城 渉様 ◇

ご利用残高 0 円 ⇔ 0wz



「どうやって入金するんだっけ……あ、これか」


入金の欄から金額を指定するようだ。

とりあえず一万円を入金する。



◇ 倉城 渉様 ◇

ご利用残高 10,000 円 ⇔ 0wz



「で、両替っと……」



◇ 倉城 渉様 ◇

ご利用残高 0 円 ⇔ 100,000wz



「おぉ! マジで10倍⁉ これもう金いらねぇじゃん!」


ビールがこの値段だもんな。

食料もそれほど高くないだろう。


たしか魔石がグラム3万で買取りとか言ってたから……1グラム採ったら30万wz⁉

十分暮らしていけるんだがっ!


あ、でも、魔石を採るのにもコストが掛かるんだよな……。

人を雇うとか……魔物って恐らく数人のパーティーで対応するんだよな?

そうなると日当を考えて……こっちの相場がわからんが、ビールの値段から推測すると最低でも一人頭、20000wzは必要だろう。

まあ、色んな場所にあるみたいだし、情報収集しないとだな。


でも車も買ったし、これからの出費を考えるとなぁ……。

車のローンやガソリン代、家賃を考えると貯金はできないかも……。


となると、食費はこっちで済ませるとして、もはや家を引き払うという手もアリか……。

いや、何かあった時のために選択肢は残しておきたい。


袋小路さんに相談してみるか……。


「よし! まずはビールだな」


半分、思考放棄のような気もするが、せっかくの異世界だ。

楽しみながら行こう――。


俺は夏限定セットを贅沢にもスポット配送の即竜便で頼んでみた。

本当に来るのかな?


まあ、到着まで数時間ってあったし、中を見て回るか。


俺は順番に他の部屋を覗いて回ることにした。


面白い、気に入ったと思ってくれた方……ぜひブクマや評価など応援お願いします!

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