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セカンドハウス魔王城 ~悩めるアラフォーおっさんの快適週末異世界暮らし~  作者: 雉子鳥幸太郎


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閑話:バルトの道理

ギルドでの報告を終え、オレはひとりタイレルの街を歩いていた。


「これがいいって!」

「いや、こっちだろ?」


真新しい革鎧を着た新人冒険者が、仲間と露店を囲んでいる。

それを遠巻きに眺める万年『石』どまりのロートルども。大方、どうやって金を巻き上げてやろうかと算段を立てているのだろう。


てめぇの腕じゃ食えないからって、ハイエナみてぇな真似しやがって……。


「おい、何してる?」

「あ? ひっ……ば、バルトの旦那ぁ⁉ い、いえ、別に何も……」と、ばつが悪そうに目線を逸らす。


「なら行け」

「は、はひぃ!」


ロートル達は、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。

まともに依頼も受けようともせず、新人狩りか……。


「……そりゃあ、ラッドも頭を抱えるわけだ」


オレは群れるのが嫌いで、ソロとして生きてきた。

人狼族の身体能力に任せて死線を潜り抜け、いまじゃ『銀』だ。


いくつか他のパーティーからの誘いもあったが、オレが『銀』クラスになってからは、それも無くなった。


冒険者ってのは、つくづく因果な商売だ。


昨日まで笑ってた奴が、翌朝、冷たくなって帰ってくる。


仲間だと思ってた奴に、背中を狙われる。


だまし騙され、信じた奴から死んでいく。


てめぇの力だけが真実を作る――。

そう教わって生きてきた。


その教えが正しかったのか、間違っていたのかはわからない。

だが、オレは生きている。


だから正しい。

だが、心のどこかで間違っているとも感じる。


死ぬのが怖いわけじゃねぇ。


裏切られるのも、どうでもいい。


襲われたって、やり返せばいいだけだ。


だが、なぜだろう……あいつを見ていると、まるで、自分まで真っ当な人間だと錯覚してしまう。


それは、オレが間違っていると認めることと同じだ。


今更、生き方なんて変えられるわけがねぇってのによ……。


「はあ……」


頭を掻きながら、人混みの中を進む。

見慣れた看板が目に入った。


『名工ゴンザレスの武器屋』


オレの馴染みの店だ。

タイレルには多くの武器屋があるが、新人時代から気に入って通っている。

自分で名工と謳うところが良い。


店内に入ると、古い油と鉄の臭いが鼻をついた。

オレには懐かしく感じる臭いだ。


「……誰かと思えば、生きてたのか?」

真っ赤に焼けた鉄を打っていたゴンザレスが、オレの顔を見て手を止めた。


「悪かったな、この通りだ」

憎まれ口に、オレは両手を広げて見せる。


「はっはっは! ゆっくりしていけよ」

「ああ、そうさせてもらう」


ゴンザレスと軽く拳を突き合わせ、店内を見て回る。


この店は一通り何でも揃う。

ゴンザレスは器用な男で、盾や槍、長剣、鎖といった武器だけじゃなく、馬具や装飾品なども依頼があれば請けている。腕はそこそこ、値段も高すぎず安すぎず、バランスの良さが人気の秘密なのだろう。


だが、口には出さないが、こと短剣作りに関しては、光るものを持っているとオレは思っている。現に、オレが愛用するこの短剣もゴンザレスが叩いたものだ。


手に馴染み、重さもちょうど良く、刃こぼれも殆どない。

本人曰く、短剣だけは好きに作る。だから、出来にムラがあるのだと言っていたが……。


「ん? あれは……」


客の一人に見覚えがあった。

短剣の棚の前で腕組みをして唸っている若い男……。

たしか、ラッドが目を掛けている『石』から『鉄』に上がったばかりのルーキーだ。


「よぉ、たしかラニスだったか?」

「は、はいっ、ラニスです! 光栄です、バルトさんに名前を覚えていただけていただなんて……!」


「あー、そういうのはいい」


オレは手を払い、棚に顎をしゃくった。


「短剣か? お前、長剣だろ?」

「あ、はい、そうなんですが……今日は別件で、贈り物用にと思いまして」


「贈り物?」

「ええ、最近知り合った方に贈ろうと思いまして……」


ラニスは照れくさそうに頬を掻く。

まだ『石』から『鉄』に上がったばかりだ。

金もそんなにないだろうに……。


「ふぅん、で、そいつの背丈は? 筋力はどのくらいだ?」

「えっと……背丈は私と同じくらいですね。筋力は……そこまで強くないと思います。普段は魔石採掘をされているようなので」

「魔石採掘……?」


あいつと同じか……。


「戦闘経験は?」

「おそらく……あまり無いと思います、何というか、不思議な方なんです。丸腰で森に入るような危なっかしい人なのに……従魔はブラック・コボルトだったり……」


ブラック・コボルト、魔石採掘、丸腰、危なっかしい――。

バルトの脳裏に、情けない声で命乞いをしていた男の顔が浮かんだ。


――間違いない、クラキだ。


あいつ以外に、ブラック・コボルトを従魔にしている魔石採掘屋がいてたまるか。

バルトは小さく息を吐くと、陳列棚から一本の短剣を手に取った。


「なら、これにしな」

「えっ……?」


装飾の少ない無骨な黒鉄の短剣だった。


「刃渡りは短いが、その分、刃が厚くて頑丈だ。素人が下手に長い得物を持つと、懐に入られた時に対応できねぇし、自分の体を傷つけることもあるからな」


ラニスが短剣を受け取り、まじまじと見つめる。


「どうだ? 比重も持ち手側にあるから落としにくいだろう?」

「なるほど……これは扱いやすいですね、身を守るのに適してます」


ラニスはその場で短剣を操って見せる。


「ありがとうございます! これなら、きっと気に入ってくれると思います!」


キラキラと目を輝かせてラニスがオレを見る。

何とも据わりが悪くなり、オレは目を逸らした。


「……おだてても何も出ねぇぞ。じゃあな」

「あ、はい! ありがとうございました!」



店を出て、再び人の流れに乗って歩き始める。

足は自然と、タイレルの出口――魔王城へと続く街道の方へ向いていた。


街の外へ出て、街道を一歩、踏み出そうとして、やめる。

道脇に立ち、舌打ちをしながら、街の外壁に凭れた。


ポケットから酒を取りだし、少し呷る。

喉と胃の焼けるような熱さが、少しだけ気を紛らわせてくれた。


「……」


空を仰ぐ。


あいつはオレを助けた。

だが、オレはあいつを信じず、殺そうとした。


今までは当然と思っていた道理が、オレの足を縛っている。


いまさら……のこのこ会いに行って、何て言やぁいいんだ。

『殺そうとして悪かった、酒でも飲んでくれ』とでも言うつもりか?


それに……あいつには、もう仲間がいる。

オレの出る幕なんてねぇよな……。


地平線に向かって伸びる街道に背を向け、オレは街へ戻った。

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