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セカンドハウス魔王城 ~悩めるアラフォーおっさんの快適週末異世界暮らし~  作者: 雉子鳥幸太郎


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帰宅

「では、手を触れるのじゃ――」

「は、はいっ!」


ドラ爺に促され、ルートの時と同じように、ドランの前に浮かぶ魔法陣へ手を伸ばした。

触れた瞬間、胸の奥に何かが結びつくような感覚が走る。


『ギィ!』

「ああ、よろしくな、ドラン」


「ワゥ!」

ルートがドランの足に頭を擦り付ける。


『ギギッ』


ドランは鼻先を寄せ、挨拶を返した。

どうやらルートのことも仲間として受け入れてくれたらしい。


これで一安心だと、俺はドランの首筋を軽く叩いた。

まるで岩のように堅い。うん、頼もしいな――。


『ギッ』


いつの間にか、ドランの瞳は力強く輝いていた。



    *  *  *



厩舎を出た俺たちは、アナさんのところへ戻った。

従魔契約は完了したが、竜車の準備があるため、ドランはもう数日ファームに残ることになる。

準備には三日ほどかかり、整い次第、ドラ爺が魔王城まで連れてきてくれる予定だ。


「おぅ、クラキ、終わったのかー?」


ルートが駆け出し、アナさんの足にまとわりつく。

アナさんは嬉しそうに、その身体をモシャモシャと撫で回した。


「はい、従魔契約も交わしましたよ」

「おぉ! 良かったな!」


アナさんがルートを撫でているのが気に食わないのか、バッカスはルートを見下ろし、フシュッと鼻を鳴らした。

まるで「調子に乗るなよ若造」とでも言いたげな態度だ。


「ワゥ!」

ルートが挨拶しても、バッカスは興味なさそうに明後日の方向を向いている。

地竜達はあんなに怯えていたのに……大物すぎるだろ。


「あの、何でバッカスはルートのこと平気なんですかね?」


ドラ爺が鼻で笑った。


「こいつの度胸は飼い主に似たんじゃろ。普通の飛竜なら失禁しとるわい」

「当たり前だろ? あたしのバッカスがこんなおチビにびびるわけねぇじゃん」

アナさんがバッカスに親指を向ける。


『キィ――ッ!』

バッカスが「当然だ」とばかりに翼を広げて見せる。


「たしかに……びびりそうにないですよね」

「ま、飛竜便の飛竜ってのは、肝が据わってナンボの世界だ。こっちは客の荷を預かってんだからな」


おぉ……プロ意識ってやつか。


「フンッ、格好つけよってからに……単に粗暴なだけじゃろうて」

「なんだとこの爺!」

「なんじゃ?」


にらみ合う二人。

俺は慌てて間に入った。


「ちょ、ちょっと二人とも――で、ではドラ爺さん、支払いは受け渡しの時で良いんですよね?」


アナさんとドラ爺さんはお互いに顔を背けた。


「ああ、それで構わん」

「わかりました、ではドランのことよろしくお願いします」


「礼を言うのはこっちじゃよ……あいつをまた走らせてくれるんじゃからな」


ドラ爺さんの言葉に、俺は静かに頷いた。


「おい行くぞ、クラキ」

「あ、はい!」


俺はルートを抱え、バッカスの背に乗った。


「ドランは任せておけ」


ドラ爺さんはそう言った後、アナさんを見上げた。


「次は飛んでくるなよ、じゃじゃ馬!」

「うるせぇな! 毎晩飛んでやろうか⁉」


ああ……またやってる……。


「おいアナ! 次は酒も忘れるなよ!」

「ああ、わかってるさ、とびきりのを持ってきてやるよ!」


そう言って、アナさんはバッカスの手綱を引いた。

なんだ、やっぱり仲良いんだな……良かった。


『キィ――――ッ!』


バッカスが大きく羽ばたく。

地上では、ドラ爺さんが腕を構えて風をやり過ごしている。


「じゃあな、クソ爺!」

「…‼」


アナさんが笑いながら言うと、バッカスがファームの上を旋回して飛び立った。


「ワウワウ!」

ルートが何かを見つけたように鳴く。


「あっ、ドランだ!」

見ると、厩舎からドランが顔を覗かせていた。


「あれがクラキの竜か――よし、掴まってろよ?」


アナさんがそう言うと、バッカスが急降下する。


「うわぁああああ――――っ!!!」


凄まじいスピードに思わず叫んでしまう。

地面スレスレでふわっと浮き上がり、そのままバッカスは厩舎と平行に滑空した。

そして、ドランの目の前を通り過ぎる。


「おぉーい! 待ってるぞー! ドラーンッ!」

「ワウッ! ワウッ!」


俺達が大きく手を振ると、ドランは前脚を上げてそれに応えた。


「ははは! 良い奴っぽいじゃん! 良かったな!」

「はい!」


ドラ爺さんは大きな手振りで何か叫んでいたが、もう何も聞こえなかった。



    *  *  *



「よっと……」

バッカスが魔王城のバルコニーに降り立つと、俺とルートは飛び降りた。


「送ってもらって助かりました」

「爺も元気そうだったし、いいってことよ。あ、そうだクラキ、ちゃんと竜車の操縦も練習しとけよ?」

「はい、もちろんです」

「ま、慣れたら、竜車でドラ爺の酒でも買いに行こうぜ」


アナさんがニカっと笑う。

本当に面倒見が良い人だ。酒が絡まなければ完璧なんだけど……。


「ええ、楽しみにしてます!」

「おう! じゃあなルート、いい子にしてろよ!」

「ワウッ!」


『キィ――――ッ!』


バッカスが力強く羽ばたき、あっという間に空の彼方へと消えていった。

俺とルートは、その姿が見えなくなるまで手を振っていた。



    *  *  *



「ふぅ……」

俺はリビングのソファに腰を下ろした。


今日は濃い一日だった……。

でも、ドランに出会えたのはラッキーだったな。


「なぁルート、ドランって……結構、年なんだよな?」

「ワウワウ」


ルートが俺の膝に顎を乗せてくる。


「人間で言ったら何歳くらいなんだろう? 俺たちよりずっと年上だろうし、これからは『ドランさん』って呼ぶべきか……」

「ワゥ~?」


ルートが「えぇ~?」みたいな顔をした。


「ははは、冗談だよ。でも、敬う気持ちは大事だぞ。大先輩なんだからな」

「ワウッ!」


さて……来週の連休に向けて、一度地球に戻らないとなぁ……。

仕事もあるし、円を稼ぐためにも、向こうでの生活を疎かにはできない。


「ルート、明日からまた少し留守にするけど……大丈夫か?」

「……ゥ」


ルートの耳がぺたんと下がる。

やっぱ、寂しいよなぁ……。

俺だって寂しい。後ろ髪を引かれる思いだ。


「ごめんな。でも、もう少しすればドランも一緒だ。それに、アナさんも様子を見に来てくれる……」


ルートの頭を優しく撫でながら、自分に言い聞かせるように言った。


「来週になったら、いよいよラニスさんと薬草採取だぞ? それに、ドランと最初の冒険になるな? ラニスさんもドランを見たら驚くだろうなぁ……ふふふ」

「ワウワウッ!」ルートの目が輝く。


ルートを抱きしめ、深呼吸をする。

あぁ、柔らかいルートの温もり、微かにお日様の匂い……癒やされるなぁ……。


「よしっ、ルートのためにも、頑張って働いてくるか!」


俺は立ち上がり、地球へ戻る準備を始めた。

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