いざファームへ
「おぉ~~~~っ!!」
バッカスの背に乗り、大空を行く。
アナさんの小さな背に隠れるように、身をかがめる。
俺の胸元にすっぽり収まったルートは、隙間から見える景色に興味津々の様子。
「いやぁ、空を飛ぶって……本当に気持ちいいですねぇ!」
「あははは! クラキもやっとわかったか? しっかり掴まってろよ!」
その瞬間、アナさんが手綱を引く。
すると、バッカスが鳴き声を上げながら錐揉み旋回し、大きな入道雲に突っ込んでいく。
「うわあああああぁぁーーーーーっ!⁉⁉」
「ワフゥーーーッ!!」
「あはははは!!」
め、目が……回る……。
遠くでアナさんの笑い声が聞こえる。
危ない危ない、もう少しで意識が飛ぶところだった……!
「ア、アナさん、も、もう少し手加減を……」
「ははは! 悪かった悪かった! 安心しろ、もう着くぞ!」
顔半分だけ振り返って言うと、バッカスは地上に向けて降下を始めた。
段々と地上が近づいてくる。
「あぁっ! あれがファームですか⁉」
広い敷地を柵で囲った牧場がある。
小さな点が動いている。あれが竜か!
「ああそうだ、舌を噛むなよ!」
「は、はい!」
俺は口を閉じ、下腹に力を入れる。
やっぱり、着陸の時のGはかなり強いな……。
ルートは平気だろうか。
見ると、ルートもぎゅっと目を瞑っていた。
ふふっ可愛いなぁ……。
「くっ……」
体にかかるGのピークが来る。
それを過ぎると、ふっと体が軽くなった。
「ふぅ……無事に着きましたね」
「ワウ……」
俺は懐からルートを出してやった。
ルートはブルルっと体を震わせる。
「はは、当然だろ? 誰が飛ばしてると思ってんだ?」
アナさんがマスクを外す。
やっぱりただの酒好きじゃないよな、アナさんもその道のプロだ。
「ん? あたしの顔に何かついてるか?」
「いえ、さすがだなと思っただけです」
「そ、そうか? へへ、ま、まあな。よし、行くぞ?」
「あ、はい」「ワウ!」
バッカスが降り立ったのはファームの建物の脇だった。
遠くにいる地竜が首を伸ばして、こちらを見ている。
たぶん、バッカスを意識しているんだろうな。
当のバッカスはまったく気にしていないようだが……。
これもアナさんの影響なのかな?
建物は、小さな事務所のような部分と、屋根と骨組みだけのガレージのような部分に分かれていた。
ガレージ部分を覗くと、まだ幼い地竜が牧場の子牛のようにずらりと並んでいた。
ある程度、大きくなったら放牧するのかな?
「ったく、飛んで来るなと言っとるだろうが……このじゃじゃ馬が!」
積まれた藁の陰から白髪交じりの爺さんが顔を出した。
「よう、元気か? ドラ爺」
「はぁ……相変わらず人の話をなーんも聞いとらんのぉ」
ドラ爺は大きなため息をついた。
「まあまあ、そういうなって。今日は客を連れて来たんだからさ。ほれ!」
アナさんに背中を叩かれ、俺はドラ爺の前に押し出された。
「うわっ⁉ ととっ……す、すみません、突然お邪魔して。私はクラキと申します。この子は従魔のルートです」
「ん?」
「んんんーっ?」
ドラ爺がルートを見て前のめりになった。
「えっと……実は竜車用の竜を探して……いまして?」
ドラ爺は四つん這いになってルートを観察している。
「ワゥ?」
ルートは不思議そうにドラ爺を見つめ返している。
「むむむっ……」
「あのぉ……ドラ爺さん?」
「お前さん、こいつをどこでテイムした?」
「え、えぇと……アイレムの森ですが……」
「アイレム……」
ドラ爺は起き上がり、腕組みをしながら何やらぶつぶつと呟いている。
「どうしたんでしょう?」とアナさんに耳打ちする。
「さぁ? たまにこうなる、気にするな」
アナさんは興味なさそうに答えると、近くの地竜を見に行ってしまった。
「あの、ドラ爺さん、ルートに何か……?」
恐る恐る声を掛けてみる。
「ん? あぁ、すまんな。従魔なら……お前さんは、こいつが何か知っておるな?」
「あ……」
プティ・ガルのことか?
見てわかるものなんだろうか……。
一応、自分からは言わないでおくか。
「えっと、ブラック・コボルトってことでしょうか? かなり希少だとは聞いてますが……あはは」
ドラ爺さんは、少しの間ルートを見つめ、
「ふむ……まあいい。そういうことにしておこうかの」と、視線を俺に戻した。
「で、竜じゃったな。まあ、売ってやらんでもないが……」
「本当ですか⁉ ぜひ!」
「この従魔を乗せられる竜が、ワシのファームにおるかどうかじゃな」
「えっ?」
ど、どういうこと……⁉




