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セカンドハウス魔王城 ~悩めるアラフォーおっさんの快適週末異世界暮らし~  作者: 雉子鳥幸太郎


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黒い獣と白鉄の獣

「これでよし、と――」


俺はきさらぎ不動産のアプリから、袋小路さんへ先日のお礼のメールを送った。

袋小路さん、凛としていて格好良かったよなぁ……。


それにしても、きさらぎ不動産って一体……?

ま、まあ、あまり深く考えない方がいいな。

心強い味方がいるってことで。


タイレルから竜車で魔王城まで帰ったことで、大体の距離感は掴めた。

軽トラを隠せそうな場所もあったし、マクセンさんに挨拶がてら、ちょっとタイレルに行ってみるかな?


「ルート、俺達だけでタイレルに行ってみるか?」

「ワウワウ!」


その場でぴょんぴょん跳ねる。


「ふふっ、だよな? 何事も挑戦だ!」

「ワウ!」


リュックを手に取り、俺とルートは魔王城を出て軽トラに乗り込んだ。


「準備はいいか?」

「ワゥッ!」


助手席のルートが嬉しそうに答える。


「出発!」

「ワウワウ!」


軽トラはゆっくりと草原の中へ向かって走り出す。

草に隠れた岩に乗り上げると面倒だ。街道に出るまでは慎重に行こう。


うーん、快晴快晴!

ほんのり冷たい風が最高だな!


しばらくして街道に出た。

意外に道は悪くない。

竜車であれくらいしか揺れなかったもんなぁ。

軽トラなら、田舎道を走っているのと変わらないわ……。


「ふんふ~ん♪」


自然と鼻歌を口ずさむ。

見晴らしも良いし、ガソリンも満タン。

絶好のドライブ日和だな~。



そして、出発から小一時間ほど経った。

そろそろタイレルが見えてくるはずだが……。


「ワゥ!」


ルートが身を乗り出す。

俺は慌てて減速し、目を凝らした。


「あれは……」


見ると、大きな荷馬車が少し斜めになって、道の脇にとまっている。

その周りには、数人の人影が見えた。


「なんだろう?」


ゆっくりと近づく。


「あっ⁉」


や、野盗に襲われている!

商人とその護衛だろうか?


剣と盾をもった人が、必死に剣を振り回し、商人らしき人を守っていた。


だが、相手は4人。

倒れている人が2人……野盗が数では勝っている。


どうする⁉

俺とルートじゃ……逆に足手纏いか⁉


「ワウワウワウッ!!」

「あっ⁉ ル、ルートっ!!」


ルートが窓から飛び出し、走って行ってしまった。


「あぁ~もうっ! どうするどうする……こ、こうなったら……」


俺はクマスプレーを取り出し、ポケットにねじ込む。

こうなったら車で突っ込んで、商人達を乗せて逃げよう!



「うぉおおおおおーーーーーっ!!!」



ここは異世界……やるしかない……やるしかないんだっ!

アクセルをべた踏みして、俺は野盗に向かって軽トラを走らせた。



    *  *  *



剣士ラニスは、野盗に剣先を向けながら、尾行に気づけなかった自分を責めていた。


「ひっひっひ……おらおら、後がねぇぜ剣士さんよぉ……」


不敵な笑み浮かべた野盗達が、じりじりと間合いを詰める。


「くそっ……」

「ラ、ラニス……も、もう駄目だ……に、荷を全部渡せば、命は助けてくれるかも知れん……」と、すがるような声で商人のポッサムが言った。


「無駄ですよ。俺達はもう、奴らの顔を見てしまいましたから……」

「そ、そんな……」


両手で頭を抱え、ポッサムはその場に座り込んだ。


ラニスは絶体絶命の中、激しい後悔に襲われていた。

この依頼さえ完遂すれば……『(カッパー)』へ昇格だったのに……。


ここ最近は何をしても上手くいっていた。

剣の腕も上がり、ソロ冒険者の最初の壁ともいわれる『石』から『鉄』への昇格も果たした。


格上の魔獣も倒せた。

経験が自分を強くしていたと思っていた。


だから護衛の……この依頼を、どこかで俺は舐めていたのだ……。


すれ違った奴らを、野盗だと思わなかった。

ただの行商人か、旅人だろうと、ロクに警戒もしていなかった……。


今になって思い返せば、怪しいと思う節が多々あったのだ。


乗合馬車にしては人数が多すぎたし、人相も悪い。

食料や水らしき物も積んでいない。


何かを隠すような不自然な藁……。

俺たちを値踏みするような目つき……。


「くそっ!」


「ははは! 恨むなら間抜けな自分を恨め!」

「「ひゃはははは!」」


野盗達が間合いに入ろうとした、その時――。


「――ワウォンッ! バウバゥッ!!」


何か黒い風のようなものが横切る。


「うわぁっ!」


野盗の一人が手斧を落とした。

見ると手から血が流れている。


「な、なんだっ⁉」

「おい、どうした!」


手を押さえた野盗が、あっちだと顎をしゃくる。


「――ま、魔獣だ!」

「な、なにっ⁉」

「こ、こんな場所に……」


「――⁉」


「ガルルルルル……」

少し離れた場所に、黒い獣が唸り声を上げながら立っている。


「狼……いや、あれはブラック・コボルトか⁉」


以前、王都で高位貴族が連れているのを見たことがある。

まだ幼体のようだが、そっくりだ……。


「くそっ……まだ子供じゃねぇか、狩っちまえ!」

「おらぁ!」


槍を持った野盗が、真っ先にコボルトに向かっていく。


「バウッ! ガルルル……!」


「こ、こいつ!」

「ワウゥ……ガウッ!!」


コボルトは矛先を器用に躱しながら、吠え続けている。


「チッ! ちょこまかと……」

「おい、囲め囲め!」

「「おぅ!」」


野盗達はコボルトに気を取られている。

――今しかない。


タイレルの近くまで逃げられれば……門兵がいる。

ラニスはポッサムの手を引き、「逃げます!」と走り出した。


「あっ⁉ おい! 待ちやがれ!」


逃走に気づいた野盗の一人が追いかけようとした時、妙な音が聞こえてきた。



――ブォオオオオーーーッ!!!!



一斉に音の方へ皆が顔を向けた。

すぐそこに土煙を上げながら迫ってくる白い化け物がいた。


「ひぃっ! な、なんだありゃぁ!」

「わわわわわ⁉」


凄まじいスピードだ。

しかも、白い化け物の中には人間の姿があった。


意味がわからない――。

魔術師? 竜? ゴーレムか⁉


「に、逃げろ!」

「ひぃいい!」


野盗が蜘蛛の子を散らすように街道から草原へ逃げて行く。

コボルトがその後ろを吠えながら追い立てている。


助かったか――⁉

い、いや、ば、化け物がこっちに来る……!


「ラニス! な、なんだあれは⁉」

「し、知りませんよ!」


必死に走るが、すぐに追いつかれてしまった。


「はあ、はあ……」

「はひぃ……はひぃ……」


ポッサムは足がもつれ、もう走れそうにない。

クソッ……ここまでか……。


――プップッ!


「ひゃっ⁉」

「な、鳴いた⁉」


ラニスとポッサムはその場にへたり込む。

ゆっくりと唸る白い塊がラニス達の前で停まった。


お、終わりだ……!

と、二人が目を瞑ると、人の声が聞こえた。


「大丈夫ですか! 早く乗ってくださいっ!」


目を開けると、そこには気弱そうな男の顔があった。


「あ、え……?」


ラニスとポッサムは顔を見合わせる。


「怪しい者ではありません、私、『(グラス)』ランクの冒険者です! 早く後ろに乗ってください! 街までお送りします!」


そう言って、男はギルドの冒険者証を見せた。


「冒険者……」


わからないことだらけだが、悪い男には見えない。

ラニスは己の直観を信じた。


「行きましょう」

「あ、あぁ……」


化け物には荷台のようなスペースがあった。

触れると冷たく、まるで鉄のようだった。


なんなんだこれは……。


ラニス達が恐る恐る乗り込むと、白鉄の獣が唸り声を上げながら走り出す。

ポッサムはラニスの腕を掴んで震えていた。


すると、さっきのコボルトが荷台に飛び乗ってきた。


「うわぁあああーーーっ!!」

「ひぃいいい助けてくれぇええ!!」


ラニスが剣を抜こうとすると、男が大きく声を張った。


「大丈夫です! その子は私の従魔ですから! お願いですから攻撃はしないでください!」

「へ……? じゅ、従魔?」


「ワゥ!」


コボルトは嬉しそうに尻尾を振っている。

どうやら、自分達に危害を加えるつもりはないようだ……。


「ポッサムさん、大丈夫です……彼らに敵意はなさそうです」

「ほ、本当か⁉」


「ええ……助かったんですよ、俺達」

「た、助かったのか⁉ よ、良かった……! 本当に良かったっ!」


泣きじゃくるポッサム、そして空を仰ぐラニスを乗せ、コボルトを従えた謎の男が操る白鉄の獣は、タイレルに向かって走り続けた。

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