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セカンドハウス魔王城 ~悩めるアラフォーおっさんの快適週末異世界暮らし~  作者: 雉子鳥幸太郎


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4/10

契約の日

「倉城さん……倉城さん!」

「えっ⁉ あ、はいっ!」


慌てて振り返ると、深山くんが苦笑いを浮かべていた。


「大丈夫ですか?」

「あ、ごめんね、ちょっと考え事しちゃってて……」


「……何か良いことありました?」

「ひぇっ⁉ あ、いや別に……あははは」


さすが深山くん、鋭いな。

危ない危ない、顔に出てたかも……。


「これ、今日中のやつなんですけど……お願いしてもいいですか?」

「あぁOKOK、やっとくよ」

「すみません! マジ助かります!」

「うん、大丈夫大丈夫」


俺は案件の束を受け取り、またPCのモニターに向かった。


あの内見から一週間……。

車は中古だけど状態の良い軽トラを安く買えたし、印鑑登録証明書も用意した。

貯金残高の減り具合を見ると言いようのない不安が襲ってくるが、着々と夢の実現に向けて進んでいるんだと思えば、不安は希望で上書きできる。


魔王城を買ったら、すぐにでも魔石採掘の副業を始めるぞ……!

大丈夫、俺だってやればできるんだ!


アラフォーになって初めて感じる、この胸の高鳴り。

学生時代の就職活動でも、転職のときでも、こんな気持ちになったことはなかった。

まるで夏休み前の子供に戻った気分だな。


時計に目を向ける。

あと少しで退社時間か……。

今日は契約日……記念すべき第二の人生が始まるのだ!

なんて、ちょっと大袈裟かな。


とにかく、この案件は終わらせてっと……。

黙々と作業をこなし、20分くらいの残業になってしまったが、なんとか終わらせることができた。


「よし、帰るか……」


荷物を片付け、俺はオフィスを出た。


電車に揺られながら、バッグの中に印鑑と印鑑登録証明書、現金が入っていることを何度も確認する。

軽トラの運転も、まだ慣れないが楽しみだ。


待ち遠しいな……。

早くまた魔王城に行きたい。


じっくりと中も探検したいし、家具のレイアウトなんかも決めたいな。

そういや定期便?ってのもあるみたいだし、魔石で稼げたらいろいろと買いそろえて行こう。


『つぎは代田橋、代田橋――』




    *




改札を出て、きさらぎ不動産のある細道へ向かう。

よし、準備は完璧だ……。


俺は大きく深呼吸をしてから、店の扉を開けた。


「こんにちは……」


「あ、いらっしゃいませ! お待ちしてましたよ倉城さん、どうぞお掛けください」

袋小路さんが笑顔で座るように勧めてくれる。


「あ、どうも……失礼します」


印象の薄い人だと思っていたが、今は別人のように明るくて魅力的な人に見えた。

もしかすると、俺の心の問題だったのかも知れないな。

ちゃんと人と向き合おうって気持ちが薄かっただけなのかも……。


「いよいよですね、倉城さん」

にっこりと微笑みながら書類を用意する袋小路さん。


「ええ、楽しみです」

「ふふふ、そのお気持ちわかりますよ。なんたって、あれだけの物件ですから」


俺の前に書類が置かれる。


「では、契約を済ませてしまいましょうね」

「お願いします」


「ここと、ここ、それとここには割り印をください」

「あ、はい……」


俺は袋小路さんの言うとおりに判子をついていく。

判子を握る手に汗がにじむ。悪くない緊張だ。


「……はい、書類はこれでOKですね。では、現金を数えさせていただきます」


計数機に札を乗せると、バララッと言う軽快な音と同時に「66」と表示された。


「さん、しー、ご、ろくっと……はい、たしかに66万6千円、頂戴します」

袋小路さんは、小さな金庫にお金をしまった。


「事務手続きは以上です。お疲れ様でした」

「ありがとうございます」


いよいよか……。

魔王城の鍵ってどんなんだろう? 大きいのかな?


「普通の家なら鍵をお渡しして終わりなんですが……魔王城には物質的な鍵はありません。その代わり所有者として登録が必要になります」

「登録……」

「はい、登録さえ済ませてしまえば、倉城さん以外に勝手に入ることはできなくなりますので」

「なるほど……」


「では、一度、魔王城の方へ行きましょうか」

「は、はいっ!」


俺と袋小路さんは席を立つ。


「あ、倉城さん、お車買われたんですよね? 今日はどうします?」

「はい、道も覚えたいので、後ろからついて行ってもいいですか?」

「もちろんです。では、先導しますね」

「ありがとうございます、よろしくお願いします!」


外に出て、俺は自分の軽トラに乗り込んだ。

袋小路さんの運転するSUVがゆっくりと走り始める。


「よぅし、いざ魔王城だ!」


俺は左右を確認し、ゆっくりとアクセルを踏んだ。

明日からお昼12時更新です!

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