タイレルギルド
ギルドの中は広いビアホールのようになっていた。
壁に貼られた依頼書を見る人達、グループごとに固まって談笑する人達。そして、正面には、横長いカウンターに並ぶ冒険者達で賑わっていた。
バルトさんがカウンターに近づくと、サッと人混みが割れた。
「バルトだ」
「生きてたのか……」
「おい、あれ見ろよ、バルトだ」
冒険者達の声が耳に入ってくる。
そうか、確かバルトさんは危険な依頼を受けていたんだもんな……。
死んだと思われていたのかも知れない。
バルトさんの姿が目に入ったのか、カウンターの中に居た若い女性が目を見開き、書類を落とした。
「バ……バルトさんっ⁉ ご無事だったのですか⁉」
「ああ、ヴァネッサ、この通りだよ」と、軽く両手を広げて見せる。
「本当に……本当に良かったです!」
ヴァネッサさんは少し涙ぐんでいた。
バルトさんは気まずそうに頬を指で掻いた後、
「悪い、報告がある。ラッドはいるか?」と聞いた。
「は、はい! すぐにお呼びします! 上でお待ちいただけますか?」
「わかった。それと、こいつは俺の命の恩人だ。同席してもいいな?」
えっ⁉ お、俺も同席するの……⁉
「あの、はじめまして、倉城といいます。この子はルートです」
「ワウッ!」
「タイレルギルドの受付をしているヴァネッサです。よろしくお願いします」
『おい……あれ、ブラック・コボルトじゃねぇのか?』
『もしかして貴族じゃ……』
辺りがざわざわし始めていた。
その空気に気づいたヴァネッサさんは、「こちらへ」と、すぐに俺たちを上階へ案内してくれた。
応接室に通され、バルトさん、俺、ルートの並びでソファに座った。
「いま、ギルド長を呼んできますから」
「ああ、頼む」
ヴァネッサさんは俺とルートにも軽く会釈をして、部屋を出て行った。
ふぅ……すごく綺麗な人だな。
まともに目をみれないわ……。
「あの、なぜ私も同席を……」
「ん? そりゃあ、命の恩人だし……魔王城のこともあるからな」
「――え?」
その時、応接室の扉が開き、強面で白髪交じりの男性が入ってきた。
「おぉバルト! 生きていたかっ!」
「すまんラッド、心配かけたな」
二人は軽くハグをした。
この人がギルド長か……確かに貫禄があるな。
バルトさんとは旧知の仲なのだろうか。かなり親しい間柄に見える。
「こちらは……」
ラッドさんが俺を見る。
「紹介する、俺を助けてくれたクラキと、ルートだ」
「はじめまして、倉城です」
「ワウッ!」
「ブラック・コボルト……。お前さん、いったい何者だ?」
ラッドさんの目が鋭く光る。
「い、いや、決してあやしいものでは……」
「ラッド、クラキは死にかけていた俺を助けてくれたんだ。ホークの世話もだ」
「そうか……いや、すまなかった」と、ラッドさんは頭を下げ、
「こんな希少種を従魔にしてるなんて、貴族くらいのもんだからな……つい」と頭を掻いた。
「タイレルギルドのラッドだ、よろしくな」
「は、はいっ、こちらこそ!」
「ワウワウッ!」
「はは、いい子だな」と、ラッドさんがルートの頭を撫でた。
超強面だけど良い人そうで良かった……!
ラッドさんが向かい側のソファに腰を下ろすと、バルトさんがこれまでの経緯を話し始めた。
「……というわけだ」
「そうか、あの魔窟に魔物溜まりが……」
「ああ、獣化して、なんとか逃げ切れたってところだな。一度、パーティーを組んで溜まりの魔物を間引いた方がいいだろう」
「うむ、早急に手配しよう。ご苦労だった」
そう言って、ラッドさんは俺に目線を移す。
「さて……、クラキどのは、魔力の測定をしたいのだったな?」
「あ、はい!」
「しかし、成人の儀をしない地域なんてあったか……?」
「あー、あったようななかったような……ただ、体が弱いものでまともに動けるようになったのは……この数年だったような……なかったようなぁ……あははは」
とりあえず笑ってごまかそう!
ラッドさんは警戒するような目で俺を見ていたが、面倒くさくなったのか、ふっと緊張を解いた。
「……まあいい。では、用意させよう。ヴァネッサ」
「かしこまりました」
ヴァネッサさんが部屋を出ていく。
そして、すぐに正方形の木箱を持って戻ってきた。
「お待たせしました」
テーブルの上に木箱を置くと、ラッドさんが蓋を開けた。
中には占い師が使うような大きな丸い水晶玉が入っていた。
「へぇ、水晶玉ですかぁ……」
「いや、こいつは測定魔石だ。各ギルドに測定用として支給されている」
「測定魔石……⁉」
このデカさで魔石って……とんでもない代物なのでは⁉
「おいおいクラキ、自称魔石採掘屋じゃなかったのか?」
バルトさんがからかうように言ってくる。
「ま、まだ初心者ですので……」
「ワゥ……」
ルートもしょんぼりしている。
す、すまんルート、恥をかかせてしまったな……。
「ははは! 冗談だよ、ほら、始めようぜ?」
「――ぐおふっ⁉」
バシッと背中を叩かれ、思わず変な声が出た。
「ちょっと、バルトさんは力が人より強いんですから……」
「あ、ああ、悪い悪い……クラキ、すまんな」
「い、いえ、大丈夫です」
バルトさんもヴァネッサさんには弱いようだ。
「では、クラキさん、この測定魔石に手を乗せてください」
「……はい」
「始めます――"全知なる神よ、この者に加護なる導きを与えたまえ"――」
ヴァネッサさんが呪文を唱えると、測定魔石がカッと輝きを放った。
「うっ⁉」
「もう手を放しても大丈夫ですよ」
「あ、はい」
見ると、測定魔石の中心に淡い光が灯っている。
「魔力の測定は、"色"と"光量"でその属性と力を測るんです」
と、ヴァネッサさんが説明をしてくれる。
「へぇ……なるほど」
じっと見つめていると、急に光の中に黒い点が見えた。
「あれ、何か黒い……」
それはみるみるうちに光を侵食した。
「こ、これは……⁉」
あっという間に測定魔石は黒球と化し、不気味な黒いオーラを放ち始めた。
「「や……闇属性⁉」」
バルトさんとヴァネッサさんが、真っ黒に染まった測定魔石を見て上体を後ろへずらす。
「馬鹿な⁉ 闇属性なんてありえねぇぞ……!」
「え……な、なにか?」
「ワゥ?」
あれ、なんだか不味い空気に……?
ルートも立ち上がってきょろきょろとラッドさん達の様子を伺っている。
「悪いな、クラキ……しばらくお前を帰せなくなった」
ヴァネッサさんは黙って部屋を出ていく。
「あれ? ヴァネッサさん……?」
バルトさんが席を立ち、扉を背に仁王立ちになった。
「え? ど、どういうこと……でしょう?」
ラッドさんが俺から距離を取り、壁に掛けてあった斧を手に取った。
「ちょ、ちょっと! 何ですか⁉ 私、何もしてませんよね⁉⁉」
「ワウゥ……」
ルートは俺を庇うように戦闘態勢に入っている。
「クラキ、お前はなぜ魔王城に住んでいる?」
バルトさんの言葉に、ラッドさんが反応した。
「おい! 聞いてないぞ! どういうことだバルト⁉」
「すまん、後で言うつもりだった。クラキは大丈夫だと思ってたんだが……」
真っ黒に染まった測定魔石をバルトさんが指さす。
「もう一度だけ聞く……クラキ、お前は誰だ?」
「だ、誰といわれましても……私はクラキですよ! ただの……ただの人間です!」
「残念だ……」
バルトさんが小さく頭を振り、腰の短剣に手を掛け身を低く落とした。
「闇属性は……魔王の固有属性だ」
「はい?」




