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セカンドハウス魔王城 ~悩めるアラフォーおっさんの快適週末異世界暮らし~  作者: 雉子鳥幸太郎


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人それぞれ

「戦い方……?」


バルトさんの眉がぴくりと動いた。


「はい。私は魔石採掘を生業にしているんですが……森や街外れで襲われた時、ルートや自分の身を守れるようになりたいんです」


「……」

バルトさんは沈黙し、腕を組んで俺を上から下までじっくりと値踏みするように眺めた。


「――無理だ。諦めろ」

「えぇっ⁉ そ、そんなぁ⁉」


バルトさんがやれやれと頭を掻く。


「いいか? まず、圧倒的に筋肉が足りない」

「……た、確かに」


「次に、その性格だ」

「せ、性格ですか?」


「俺相手に怯えるようじゃ、命のやり取りなんて、まず無理だな」

そう言って、ぐぐぐっと俺に顔を近づける。

「ううっ……」


「あ、でも、弓ならどうでしょうか?」

「弓を舐めるな――」


「ひっ⁉」

バルトさんの鋭い目に俺は肩を震わせた。


「そんな弱っちい体幹じゃ軸がぶれて、まず当たらんよ」


そう前置いて、バルトさんは俺の胸を指さした。


「いいか? 弓ってのは岩の上、木の上、場合によっちゃあ、毒虫が這う中で息を殺して何時間も狙いを定めることになる。だから、どんな体勢でも打てる体幹と、数時間動かずにいられる精神力が要るんだ」

「……」


思い描いていた『遠くから安全に攻撃できる武器』という甘っちょろい弓のイメージが粉々に砕けた。

馬鹿だった。完全に舐めていた……。

やはり、生温い現代日本で育った俺が異世界なんて……!


「――だが」

バルトさんが少しだけ口元を緩める。


「方法がないわけでもない」

「えっ! ほ、本当ですかっ⁉」


バルトさんが指さしたのは、ソファの下で尻尾を振っているルートだった。


「ルートだ。ブラック・コボルトなんて、貴族でも滅多に手に入らん希少種だ。しかも従魔契約なしで懐いてる……普通じゃありえん」


「そう……お前が目指すべきは魔獣使い(テイマー)だ!」

魔獣使い(テイマー)……!」

「ワウ?」


ルートが小首を傾げる。


「人には向き不向きがある。クラキ、お前はルートを鍛えろ。戦闘はルートが担い、お前は補助に徹するんだ」

「えっと補助って……具体的にどうすれば?」


「質の高い食事と睡眠、実力に見合った戦闘経験、それらを丁寧に積み重ねていけ。そうすれば、ルートは恐ろしく強くなるぞ」


バルトさんの言葉に、俺は生唾を飲みこむ。

なんだか、育成ゲームのチュートリアルを受けてる気分だ……。


「あと、クラキは中途半端な攻撃魔法より、ルートを支える補助魔法を覚えた方が生き延びる確率が上がるだろう」

「あの……ちょっといいですか?」

「どうした?」


「その……魔法って、私にも使えるんでしょうか?」


バルトさんが、二度、まばたきをした。


「クラキは……成人してるよな?」

「はい」


「じゃあ、成人の儀は?」

「なんですか、それ……?」


「……」

「……」


「やはり、魔王――」

バルトさんが短剣に手を伸ばす。


「ちょちょちょっ! 違いますよ!」

慌てて両手を向ける。


「一体……どこから来たんだお前は⁉」

「えっと、かなり遠くから、です……ね。あはは……」


もう、笑って誤魔化すしかない……!

ほどなくして、バルトさんは深いため息をつき、剣から手を離した。


「オレも冒険者だ。詮索はしないが……となると、魔力があるか調べる必要があるな」

「調べられるんですか?」


「ああ。体が治ればギルドに報告へ行く。一緒に来て魔力測定をしてもらうといい」

「は、はいっ! ありがとうございます!」


――ぐぎゅるるるる……。


「むむっ、すまんな。何も食ってなかったせいだろう……」

バルトさんは、照れくさそうに腹を押さえた。


「あの、私が作ったもので良ければ、一緒にどうですか?」

「何っ⁉ いいのかっ⁉」


「ええ、私もルートもペコペコですから……」

「ワウゥ~……」



    *  *  *



「ぬぉおおおおーーーっ! な、なんだこの旨さはっ⁉」


覚えたての肉チャーハンを振る舞うと、バルトさんは皿まで舐める勢いで完食した。


「へへへ、旨いですよね? そこにこれです……!」


俺は赤竜の吐息(RED BREATH)を瓶ごと差し出した。


「おぉ……! 《《わかってる》》なクラキ!」


バルトさんは直瓶で喉を鳴らしながら飲み干す。


「くっはぁーーーーっ!! この深い苦みと鋭いキレ! まさに赤竜よ!!」


ふふっ、喜んでもらえて良かった。

作った料理を喜んでもらえるのは嬉しいな。

ルートも赤竜肉の切り身を食べてご満悦のようだ。


「いやぁ……まさか、赤竜肉が食えるとはな。しかも、ホークにまで。クラキ、お前は何者なんだ? やっぱりどこかの貴族か? ん?」

バルトさんが片眉を上げ、顔を近づけてくる。


「た、ただの魔石採掘屋ですよ」

「……ほぅ、どの辺で採ってる?」

試すようにバルトさんが訊いてきた。


「近くの森ですね、川の手前のところです」俺は森の方へ指をさした。

「ふぅむ……あんな所で採れるのか? まあ、死にたくなければ川は渡るなよ?」


「やっぱり魔獣ですか……?」

「まあ、それもあるが……川向こうは、幻覚を見せる魔樹も多いし、強力な毒を持つ虫や蛇もいる。経験を積まないと厳しいだろうな」

「……絶対、渡りません」

「ははは、それがいい。よし、腹も膨れたし、オレは少し寝かせてもらうかな」


そう言って、バルトさんは満足げな表情を浮かべながら、ソファに横になった。

俺は毛布を渡し、ルートを連れて畑の後片付けに向かった。

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