人それぞれ
「戦い方……?」
バルトさんの眉がぴくりと動いた。
「はい。私は魔石採掘を生業にしているんですが……森や街外れで襲われた時、ルートや自分の身を守れるようになりたいんです」
「……」
バルトさんは沈黙し、腕を組んで俺を上から下までじっくりと値踏みするように眺めた。
「――無理だ。諦めろ」
「えぇっ⁉ そ、そんなぁ⁉」
バルトさんがやれやれと頭を掻く。
「いいか? まず、圧倒的に筋肉が足りない」
「……た、確かに」
「次に、その性格だ」
「せ、性格ですか?」
「俺相手に怯えるようじゃ、命のやり取りなんて、まず無理だな」
そう言って、ぐぐぐっと俺に顔を近づける。
「ううっ……」
「あ、でも、弓ならどうでしょうか?」
「弓を舐めるな――」
「ひっ⁉」
バルトさんの鋭い目に俺は肩を震わせた。
「そんな弱っちい体幹じゃ軸がぶれて、まず当たらんよ」
そう前置いて、バルトさんは俺の胸を指さした。
「いいか? 弓ってのは岩の上、木の上、場合によっちゃあ、毒虫が這う中で息を殺して何時間も狙いを定めることになる。だから、どんな体勢でも打てる体幹と、数時間動かずにいられる精神力が要るんだ」
「……」
思い描いていた『遠くから安全に攻撃できる武器』という甘っちょろい弓のイメージが粉々に砕けた。
馬鹿だった。完全に舐めていた……。
やはり、生温い現代日本で育った俺が異世界なんて……!
「――だが」
バルトさんが少しだけ口元を緩める。
「方法がないわけでもない」
「えっ! ほ、本当ですかっ⁉」
バルトさんが指さしたのは、ソファの下で尻尾を振っているルートだった。
「ルートだ。ブラック・コボルトなんて、貴族でも滅多に手に入らん希少種だ。しかも従魔契約なしで懐いてる……普通じゃありえん」
「そう……お前が目指すべきは魔獣使いだ!」
「魔獣使い……!」
「ワウ?」
ルートが小首を傾げる。
「人には向き不向きがある。クラキ、お前はルートを鍛えろ。戦闘はルートが担い、お前は補助に徹するんだ」
「えっと補助って……具体的にどうすれば?」
「質の高い食事と睡眠、実力に見合った戦闘経験、それらを丁寧に積み重ねていけ。そうすれば、ルートは恐ろしく強くなるぞ」
バルトさんの言葉に、俺は生唾を飲みこむ。
なんだか、育成ゲームのチュートリアルを受けてる気分だ……。
「あと、クラキは中途半端な攻撃魔法より、ルートを支える補助魔法を覚えた方が生き延びる確率が上がるだろう」
「あの……ちょっといいですか?」
「どうした?」
「その……魔法って、私にも使えるんでしょうか?」
バルトさんが、二度、まばたきをした。
「クラキは……成人してるよな?」
「はい」
「じゃあ、成人の儀は?」
「なんですか、それ……?」
「……」
「……」
「やはり、魔王――」
バルトさんが短剣に手を伸ばす。
「ちょちょちょっ! 違いますよ!」
慌てて両手を向ける。
「一体……どこから来たんだお前は⁉」
「えっと、かなり遠くから、です……ね。あはは……」
もう、笑って誤魔化すしかない……!
ほどなくして、バルトさんは深いため息をつき、剣から手を離した。
「オレも冒険者だ。詮索はしないが……となると、魔力があるか調べる必要があるな」
「調べられるんですか?」
「ああ。体が治ればギルドに報告へ行く。一緒に来て魔力測定をしてもらうといい」
「は、はいっ! ありがとうございます!」
――ぐぎゅるるるる……。
「むむっ、すまんな。何も食ってなかったせいだろう……」
バルトさんは、照れくさそうに腹を押さえた。
「あの、私が作ったもので良ければ、一緒にどうですか?」
「何っ⁉ いいのかっ⁉」
「ええ、私もルートもペコペコですから……」
「ワウゥ~……」
* * *
「ぬぉおおおおーーーっ! な、なんだこの旨さはっ⁉」
覚えたての肉チャーハンを振る舞うと、バルトさんは皿まで舐める勢いで完食した。
「へへへ、旨いですよね? そこにこれです……!」
俺は赤竜の吐息を瓶ごと差し出した。
「おぉ……! 《《わかってる》》なクラキ!」
バルトさんは直瓶で喉を鳴らしながら飲み干す。
「くっはぁーーーーっ!! この深い苦みと鋭いキレ! まさに赤竜よ!!」
ふふっ、喜んでもらえて良かった。
作った料理を喜んでもらえるのは嬉しいな。
ルートも赤竜肉の切り身を食べてご満悦のようだ。
「いやぁ……まさか、赤竜肉が食えるとはな。しかも、ホークにまで。クラキ、お前は何者なんだ? やっぱりどこかの貴族か? ん?」
バルトさんが片眉を上げ、顔を近づけてくる。
「た、ただの魔石採掘屋ですよ」
「……ほぅ、どの辺で採ってる?」
試すようにバルトさんが訊いてきた。
「近くの森ですね、川の手前のところです」俺は森の方へ指をさした。
「ふぅむ……あんな所で採れるのか? まあ、死にたくなければ川は渡るなよ?」
「やっぱり魔獣ですか……?」
「まあ、それもあるが……川向こうは、幻覚を見せる魔樹も多いし、強力な毒を持つ虫や蛇もいる。経験を積まないと厳しいだろうな」
「……絶対、渡りません」
「ははは、それがいい。よし、腹も膨れたし、オレは少し寝かせてもらうかな」
そう言って、バルトさんは満足げな表情を浮かべながら、ソファに横になった。
俺は毛布を渡し、ルートを連れて畑の後片付けに向かった。




