深山くんのお誘い
地球の家に戻ると、袋小路さんからスマホに連絡が入った。
『どうも、お世話になっております、きさらぎ不動産の袋小路です。いま、少しお時間よろしいでしょうか?』
「あ、はい、大丈夫ですよ」
『ありがとうございます。魔石の査定が出まして、そのご報告を』
「おぉ! 出ましたか!」
『はい、今回、コモンクラス、スタンダードクラスが1個ずつですね。コモンクラスは300円、スタンダードクラスが572,000円となりました』
「ごごっ…ごっ…ごっ……⁉」
思わず言葉に詰まる。
あまりの衝撃にスマホを落としそうになった。
『倉城さん? 大丈夫でしょうか……?』
「は、はいっ! 大丈夫です! すみません、前回よりも多かったのでびっくりしてしまって……ははは」
『ふふっ、頑張った甲斐がありましたね。おめでとうございます』
「い、いやぁ……ありがとうございます!」
『振り込みは完了しておりますので、ご確認をお願いします。あと、今後は査定のご報告をメールにさせていただいてもよろしいでしょうか?』
「ええ、それは構いませんが……」
袋小路さんの声を聞く機会が減るのは、ちょっと寂しいが……。
お一人でやられているのだろうし、俺なんかのために時間を取らせたくはない。
『ありがとうございます。では、メールでのご案内にさせていただきますね』
「はい、あ! そうだ、あのコボルト……ルートって名付けたんですが、一緒に暮らすことになりました」
『えっ! それはおめでとうございますっ! う、うらやましいです……実は、私、もふもふに目が無くて……いつか飼ってみたいと思ってるのですがなかなか……』
「ほんとですか⁉ もう、可愛くて仕方がないですよ! あ、良かったら、いつでも遊びに来てください。ルートも喜ぶと思いますから」
『……⁉ ほ、本当ですか……ぜ、ぜひっ……!』
「週末ならいつでも居ますので」
『は、はい! ありがとうございます! その、もし、倉城さんが良ければなんですが……ルートちゃんの写真を送っていただけると……』
「ああ、わかりました、じゃあ送っておきますね」
『ありがとうございます! で、では、今日はこれで失礼させていただきます。何かありましたら、ご連絡ください』
「わかりました、ありがとうございます」
――通話を切る。
「袋小路さん、動物好きなのかぁ……へへ、ホントに遊びに来てくれたらいいんだけどな……」
さて、と。
俺はスマホの銀行アプリを開き、残高を確認する。
「うぉ……ぉおおっ……!!」
本当に572,300円が振り込まれていた。
どうする……どうするよ⁉
こ、これはマジでFIREも夢じゃないぞ……。
心臓が早鐘を打つ。
いや、待て待て待て……落ち着け!
俺はスマホを置いて深呼吸した。
両手を拝むように合わせ、口元に当てる。
数十万でFIREって、さすがに舞い上がりすぎだろう。
安定して魔石が採掘できる保証はないんだぞ?
「むぅ……」
まずは、地球の方の負担を減らしていくべきだよな……。
いっそのこと、軽トラのローンを完済してしまうか?
金利も高いし、その方がかなり節約になるはずだ。
毎月の支払いが減るし、あ、その分、wzに換金しておくかな。
使い切れないくらいのwzが貯まったら、向こうに定住することもできる。
そうだ、袋小路さんが投資もできるって言ってたよな……?
インデックスファンドみたいなのが向こうにもあれば、もし地球に戻れなくなっても運用益で暮らしていけるぞ……。
まあ、その辺はおいおいだな。
焦らず確実に地盤を整えて行こう。
* * *
仕事終わりのウォーキング。
いつもは一駅前で降りるのだが、今日は二駅前で降り、ウォーキングをしながら家に帰っていた。
ちょっと奮発して新しいスニーカーを買ったのだが、これがまた調子が良い。
やっぱ、高い物は違うよなぁ……。
足が全然痛くならないし、弾むように歩けるのが楽しい。
歩きながらスマホの銀行アプリで残高を確認する。
軽トラのローンを前倒しで完済しても、まだ口座には少し余裕があった。
来週も発掘できればかなり楽になる。
それに、そろそろ畑の方も始めたいよなぁ。
ルートもいるし、街道を歩いてタイレルの街まで行くってのも楽しそう。
となると、野営グッズも必要か……。
しかし、野盗みたいなゴロツキに襲われる可能性もあるし、やっぱ護身術が必要かなぁ……。でも、俺みたいな素人が、格闘技を習うにしても、モノになるまで何年かかることやら……。はあ……。
ルート、ちゃんとごはん食べてるかなぁ……。
アナさんと上手くやってればいいけど。
その時、スマホが震えた。
「あれ? 深山くんだ……めずらしいな」
メッセージアプリには、一時間くらい飲みませんかと書かれていた。
仕事が終わってから、突然連絡があるのは初めてだ。
何かあったのかな……。
メシもまだだし、財布にも余裕がある。
断る理由はないな。よし。
俺はOKの返事を送る。
すぐにメッセージが返ってきた。
『あざっす、じゃ、肉正宗集合でお願いしまさむねー』
思わず吹き出しそうになる。
わかりまさむね……いや、了解しまさむね?
返事を返そうとして、ハッと思いとどまる。
ここで乗るといい歳してやべぇ奴って思われないだろうか……?
でも、深山くんだし、許される気もするが……いや、調子に乗っちゃだめだ。
俺はおじさん……全てが許されないと思った方が良い。
震える指でOKスタンプだけ送って、俺は肉正宗に向かった。




