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セカンドハウス魔王城 ~悩めるアラフォーおっさんの快適週末異世界暮らし~  作者: 雉子鳥幸太郎


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ルートは天才

どうしよう……ルートが可愛いあまりに有給を使ってしまった。

いや、まあ当然の権利だから、使うことに問題はないんだが……。


社畜根性を叩き込まれて育った世代からすると、少し罪悪感がある。

こんなこと深山くんに言ったら笑われそうだけれども。


「ルート、ルート?」


あれ、どこに行ったんだろう?

さっきまでその辺でウロウロしてたのに……。


「おーい、ルート?」


地下の倉庫やリビングを探して回る。

かくれんぼでもしてるつもりなのかな?


「よーし、見つけちゃうぞ~。どこに隠れてるのかなぁ~? 」


廊下の突き当たりに差し掛かった時、「ワフッ!」とルートが飛びついてきた。


「うおぁっ⁉」


び、びっくりしたぁ~!

ルートは嬉しそうにその場で飛び跳ねると、廊下を逃げて行った。


「やったなぁ~! こら待てー」


もうずっとにやけっぱなしだ。

可愛くて仕方が無い……!


小一時間ほど、ルートと追いかけっこをして遊んだ後、冷蔵庫からビールを取り、ルートに水を出した。


「ふぅ~……」


ソファに座り、ビールを飲む。

すぐそばでルートが美味しそうに水を飲んでいる。


「いやぁ、もっと体力つけないとな……息があがっちゃうよ」


でも、以前に比べればかなり体力は上がった。

ウォーキングとプールのお陰かな。


後は……護身術的なものも習いたいよなぁ……。

あの狼の一件があってからというもの、いざという時、自分やルートを守れる力が欲しいと強く感じていた。


クマスプレーは結構良かったよなぁ。

あれは常備しておくとして、獣以外にも野盗みたいな輩に襲われることも想定しておかないと……。


対人となると……剣か?

いやぁ……人を刺すとか俺には無理そうだ。

そもそも争い事自体が嫌いなんだよなぁ……。


でも、もう一人じゃないわけだし、そんな甘っちょろいことも言ってられない。

俺がルートを守らないと……。


『ワウッ』


ルートが俺の膝の上に飛び乗ってくる。


「よーしよーし、ははっ、お水美味しかったかぁ~?」

『ワウワウ!』


「よーし、良い子だねぇ~」

小さくてふわふわの頭をやさしく撫でる。


あぁ、この子を残して帰らないといけないなんて……。

獅子は千尋の谷から我が子を落とすというが、まさにそんな気持ちになる。


「ルート、前も言ったが……俺は明日から少し城を空けないといけないんだ。お留守番できるかなぁ?」

『ウゥ?』


ルートはきょとんとした顔で俺を見つめている。


「やっぱまだ子供だし、無理かなぁ……」

『ワウ!』


ルートが膝から飛び降り、冷蔵庫へ向かう。

そして器用に扉を開けると、赤竜肉を取り出し、『ワウ!』と俺を見た。


「えっ……冷蔵庫開けられるの⁉」

『ワウワウ!』


「そうか、なら一食分ずつ小分けにしておけば……」


俺は肉をミンチにして、一食分ずつ小分けにした。

そして冷蔵庫の中に並べて扉を閉めた。


「ルート、お腹がすいたらここから一食分取り出すんだよ、できる?」

『ワウ!』


ルートはすぐに冷蔵庫を開け、一食分のミンチを取り出すと、冷蔵庫を閉めた。


「す、すごい! ルート、お、おまえ天才じゃん……!」

『ワウワウ!』


「ルート、水を飲みたい時は?」


ルートはキッチンに乗り、蛇口のレバーを押す。

そして、ペロペロと水を舐め、レバーを戻した。


「マジか……」


頭が良いってみんな言ってたけど、ここまでとは……。


「水と食べ物は問題ないとして……トイレも大丈夫?」

『ワウ!』


ルートはキッチンから降りてトイレに向かう。

俺はその後を追った。


トイレの上に乗り、器用にチャーッと用を足し、水を流す。

どうだ? と言わんばかりに俺を見た。


「か、完璧だ……ちょっと寂しいくらいに!」

『ワウワウ!』


これなら……いけるか?


「ルート、本当に悪いと思うんだけど、お留守番できる?」

『ワウ!』


任せろ! と言っている気がする。


「そうだな、一人で寂しくないようにおもちゃでも買うか?」

『ワウ?』


「よし、ちょっとおいで」

『ワウ』


俺はソファに戻り、魔晶端末を起動してウェザーマートのアプリを開いた。


「えーっと、ペット用品は……っと」


ペット用品カテゴリーにおもちゃのコーナーがあった。

猫じゃらしやダンベルみたいな骨ガム、ボール、短いロープなどの定番商品が並んでいる。


「ほら、何か欲しいのある?」


ルートは興味津々で画面を覗き込む。

そして、ボールを指さした。


「ボールがいいのか、よし、じゃあこれを買おうね」

『ワウ!』


ぐりぐりと頭を俺に押しつけてくる。

喜んでくれているみたいだ。

あぁ……可愛い。


俺は注文を終え、魔晶端末をテーブルに置くと、ルートを抱き上げた。


「あっという間に大きくなるんだろうなぁ」

『ワゥ~』


なんせ貴族様の番犬にというくらいだし、逞しく育つのだろう。

それはそれで楽しみだけど、いまのルートは本当に天使だよ……まったく。


『ワゥ?』

耳がピクンと動き、ルートが窓の外に顔を向けた。


「おっ、早いなぁ、アナさんだ」


俺はバルコニーに出て、ルートとアナさんを出迎えた。


「お疲れさまですー!」


バッカスから飛び降りたアナさんが手を上げる。

ルートが嬉しそうにアナさんの足下に纏わり付いている。


「おぉ、元気そうだな」

「お陰様ですっかり良くなりました」


「あたしは何もしてないさ、荷物は中でいいか?」

「あ、はい、お願いします」


見るとルートはバッカスにちょっかいを出していた。

バッカスはじゃれついてくるルートをうまくあやしてくれている。


「飛竜ってコボルトとか平気なんですね」

「まあ、バッカスは面倒見がいいからな、あのコボルトもまだ子供だし」

「あ、そうだ、名前を決めました。ルートっていいます」


「ルートか、ふぅん、良い名前だな」

アナさんはキッチンに荷物を下ろしてくれた。


「それで……実は週末以外、ここを空けることになるんですが、ルートに留守番をしてもらわないといけなくて……」

「まあ平気だろ? コボルトだし」


「そうなんですが、ちょっとご相談があって……」

「なんだよ、あらたまって?」


「勝手なお願いで申し訳ないのですが……週の半ばにスポットで配達をお願いしてもいいですか? まだ小さいので、配達がてらにルートの様子を見ていただけると……」

「あぁ、そういうことか……」

アナさんは少し考え込むと、「ふふっ」と笑みを浮かべた。


「じゃあ、デイリーで頼んどいてくれよ」

「えっ⁉ い、いや、さすがに毎日は迷惑じゃ……」


アナさんがぐいっと俺に顔を近づける。


「ここに来りゃ毎日サボれんだろ? 言わせんなって……」

「あ、あぁ……なるほどですね……」


それなら気兼ねなく頼めるか……。


「わかりました、じゃあ、お言葉に甘えて」

「おぅ、よろしくー」と、アナさんは俺の背を叩き、バルコニーに出るとバッカスに飛び乗った。


「ルート! あたしとバッカスのことを良く覚えておけよ! じゃあな!」

『ワウワウ!』


ルートがジャンプしてアナさんに応えている。


「ありがとうございましたー!」

俺は大きく両手で手をふる。



『キェ―――――――ッ!』


雄叫びを上げたバッカスが舞い上がり、あっという間に小さな点になった。

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