家族
倉庫へ入ると、コボルトが毛布の上にお座りをしていた。
「おぉ! ずいぶんと良くなったな!」
近づこうとして、思いとどまる。
焦っちゃ駄目だよな……。
俺は少し離れた場所に座った。
「なぁ、元気になったら森へ帰りたいか?」
『……』
「実は……俺の相棒になって欲しくてさ、って……恥ずかしいな、ははは。もちろん、お前さえ良ければの話だよ?」
『……』
コボルトは何も言わずに俺を見つめている。
その目から敵意は感じられない。
「んー、メリットは……そうだ! 肉なら好きなだけ食べて良いぞ」
『……!』
「ん?」
いま何か目が鋭くなった気がしたが、まあいいか……。
「そうだなぁ……自分のことを話すのは苦手なんだが……まあ、体が治るまでの暇つぶしだと思って聞いて欲しい」
それから俺は、自分がどこから来て、なぜこの城に住んでいるのか、これからどうしたいのか、どんな人生を歩んで来たのかを話した。
「そんなわけでさ、いずれはこっちで暮らせればいいなーって思ってる」
『……』
「で、何が言いたいかっていうと……まあ、その、俺の家族になって欲しいんだ」
『……!』
「これと言って取り柄なんてものはないんだが……。俺はお前を絶対に裏切らない、これだけは約束できる! だから、お互い……助け合って生きていかないか?」
『……』
コボルトは黙ったまま、くるくるっとその場で回り、毛布の上で背中を向けて丸くなってしまった。
駄目か……。
まあ、言いたいことは全部言えた。
あとはコボルト次第だな……。
「俺の言いたいことはそれだけだ。森に帰りたければ、ちゃんと送って行ってやるから安心してくれ。じゃあ、後でまたごはん持ってくるからな」
俺はコボルトの丸い背に声を掛け、そっと倉庫の扉を閉めた。
リビングに戻り、俺は気分転換にプールに入ることにした。
冷蔵庫からビールを取って階段を上がる。
服を脱ぎ捨て、プールに飛び込んだ。
「ぷはぁ!」
少し泳いだ後、大の字になって浮かぶ。
あー、気持ち良い。
何だってこんな天気が良いんだろう……。
あいつもそろそろ風呂に入れてやるかな……だが、触らせてくれるかどうか……。
「ふぅ……」
その時、突然目の前を影が横切ったかと思うと、派手な水飛沫が上がった。
「うわぁ! な、なんだぁ⁉」
溺れそうになりながら水面に出ると、そこには嬉しそうなコボルトがいた。
「お、お前……⁉」
『ワン!』
「え? ど、どうやってここに?」
『ワウ!』
コボルトが俺に飛びかかって来た。
顔をベロベロと舐められる。
「ちょ、うわっ、や、やめ……くすぐったいよ」
『ワウワウ!』
こ、これは、受け入れてくれたってことなのか⁉
「ははは! そうか、俺の相棒になってくれるのか?」
『ワウッ!』
コボルトは嬉しそうに頭突きをしてきた。
「そうか、ありがとう! ありがとうな!」
俺はコボルトを抱き上げた。
「お前の名前を考えなきゃな……クロってのも安易すぎるよなぁ……」
『ワウ?』
「はは、よーし、その前に体を洗うか」
俺は丁寧にコボルトの体に付いた泥を洗い落とした。
「こんなもんでいいだろう」
コボルトをプールから出す。
ブルルルッと身震いをすると、美しい黒毛が太陽の光を浴びて輝きを放つ。
「へぇ、お前綺麗だな。格好いいぞ」
『ワウ』
コボルトは当然だと言わんばかりに得意げだ。
「あはは、不思議だなぁ、お前が何を考えてるかわかる気がするよ」
『ワウワウ』
「よーし、体を拭くか」
タオルでコボルトの体を拭く。
この風なら、あっという間に乾くだろう。
「うん、怪我もすっかり治ってる。良かったなぁ」
『ワウー』
尻尾を振って喜んでいる。
こりゃ祝杯だな。
俺はビールを手に取り、喉を鳴らしながら飲んだ。
「ぷはーっ! いやぁ、良かった良かった!」
コボルトは階段の方へ行き、こっちを振り返って吠えた。
『ワウ!』
「ん? 来いって?」
一緒にリビングに降りると、コボルトは赤竜肉の入った冷蔵庫の前に座る。
『ワウ!』
「あー、腹が減ったのか、よしよし、ちょっと待ってくれよ」
俺は赤竜肉を取り出し、細かくミンチにした。
よーし、こんなもんか。
「ほら、竜肉は体に良いんだってさ。たくさん食べるんだぞー」
『ワウワウ!』
コボルトは美味しそうに肉を食べている。
ふふふ……可愛いなぁ。
俺の相棒、家族か……。
コボルトを見ていると、自然と頬がせり上がってくる。
俺はソファに腰を下ろし、スマホで名前の候補を探すことにした。
見た目から黒、出会ったのは森……この辺から連想してみるか。
「……ブラック、オニキス、シャドー、フォレス、ダーク……」
何だかどれも厨二くさいな。
まあ、別に良いんだけど……。
食べ終えたコボルトが俺の隣にトトッと飛び乗ってきた。
そして、俺にぽすっともたれかかってくる。
か、可愛い……なんだろう心が震える……。
「何て名前がいいかなぁ……ほら、色々あるぞ~」
俺はコボルトに画面を見せた。
『ワウ!』
すると、コボルトが画面に手を伸ばす。
そしてひとつの名前を指し示した。
「ん? ルート? ルートが良いのか?」
『ワウワウッ!』
勢いよく返事をした。
すごいな……文字が読めるのか?
俺が言っていることは理解してそうだけど……。
「そうか、これは"根"って意味だな。あと複数形になると"先祖"とか"故郷"なんて意味もある」
『ワウ~』
そうだな、こいつが俺とこの世界を繋ぐ根になってくれれば言うことない。
そういう意味でも良い名前だと思う。
「よし、今日からお前はルートだ! よろしくな、ルート!」
『アウッ!』
今日、異世界に家族ができた。
膝にもたれかかるルートの小さな頭を優しく撫でる。
暖かくて、とても柔らかい……。
俺はこの日の喜びを、決して忘れることはないだろう。




