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セカンドハウス魔王城 ~悩めるアラフォーおっさんの快適週末異世界暮らし~  作者: 雉子鳥幸太郎


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ブラック・コボルト

それから俺は、何度か様子を見にリビングと倉庫を行ったり来たりしていた。


『ワ……ゥ……』

コボルトがゆっくりと目を開ける。


「おぉっ、気付いたか!」


『ウゥー……』


俺に気付き、咄嗟に牙を剥いて威嚇する。

だが、その威嚇も弱々しかった。


「おっと……俺は敵じゃない、ほら、水、あとごはんもあるからな」


両手を挙げ、ゆっくりと後ろに下がった。


『ウウゥ……』


ほぼ壁際まで離れると、コボルトは警戒しながら水の匂いを嗅ぐ。

大丈夫だと判断したのか、少しずつ水を飲み始めた。


「お前、大変だったな……俺もあの時、森にいたんだよ。偶然、襲われてるお前を見掛けてな、どうなることかと思ったけどさ……何とか生きて帰れたんだ」


『……』


コボルトはじっと俺を見据えている。

言葉がわかるとは思えないが、彼なりに状況を把握しようとしているのだろう。


「もう一度言うが、俺は敵じゃない。それに……俺は弱いからな、お前と戦ったら負けちゃうよ、ははっ。仲良くしたいだけさ」


『……』


コボルトは赤竜肉の匂いを嗅ぐと、静かに食べ始めた。

余程、腹が減っていたのか、警戒が解けたのか……まあ、急ぐことはない。

怪我が治るまでに、ゆっくりと慣れてくれれば……。


「じゃあ、俺はいくよ。また、水と肉をもってくるからな。ゆっくり休めよ」


そう声を掛け、俺は倉庫を後にした。




    *




リビングに戻ると、アナさんが「どうだった?」と俺に顔を向けた。


「餌は食べてくれましたね」

「ならもう大丈夫だ。怪我が治ったら体を洗ってやれ。治るまではあのままで良い」


「わかりました。あと、何か必要なものとかありますかね?」

「んー、あいつ贅沢にも赤竜肉喰ってるからな……薬は必要ないぞ。竜の肉は万病予防って言われるくらい滋養があるんだ」


「へぇ、やっぱり竜ってすごいんですねぇ……」

「当然だろ、だからあんだけ値段が……って、魔王のお前には関係ないか。金持ちだもんな?」と、アナさんがジト目で見てくる。

「いや、だから魔王では……」


「まあいいや、あたしはそろそろ戻る。頑張って世話してやんな」

「あ、はいっ! すみません、いろいろと……」


「水くさいこと言うなよ、謝るくらいなら酒用意しとけって、な?」

マスク片手に、二ヒヒと笑うアナさん。


いやぁ、本当にいい人だなぁ……。


「わかりました、また思いっきり飲みましょうね!」

「ははは、そうこなくっちゃ。じゃあな――」


手をひらひらと振って、アナさんはバッカスに飛び乗る。


『キェーーーー!』

「ありがとうございます!」


俺は手を振りながら大きく声を上げた。

バッカスは雄叫びを上げると、勢いよく宙に舞い上がり、飛び去っていった。



リビングに戻り、俺はコーヒーを淹れた後、ソファに凭れた。


「ふぅ……」


やっと、一息つけた。いやぁ、色々ありすぎて……。

あ、魔石も査定に出さないと。


出すのは簡単だ。

袋小路さんからもらった買取BOXに入れるだけ。

どういう仕組みか知らないが、中に入れると袋小路さんに届くらしい。


今回、採取した魔石を入れて蓋を閉じる。

これでよし――。


幸いにも連休で良かった。

あと二日はあいつに付いていてやれるな。

もし、回復に時間がかかりそうなら有給を使うか……。


コボルトか……相棒になってくれれば頼もしいよなぁ。

しかし、肝心のあいつが俺を気に入ってくれなきゃどうしようもない。

相棒は欲しいが、無理強いはしたくないもんな……。

うん、どういう結果になっても、あいつの気持ちを尊重しよう。



翌日、俺は赤竜肉でミンチを作った。

水と一緒に地下へ持って降りる。


起きてるかな……。


そっと、倉庫の扉を開ける。

コボルトは毛布の上で丸くなっていた。

じっと俺のことを見ている。


「大丈夫、何もしないよ」


俺は水と餌を交換して「ゆっくりな」と声を掛け、そのまま倉庫から出る。

まずは怪我を治さないと。

余計なストレスは極力かけないようにした方がいいだろう。


それから、数時間おきに様子を見に行った。

餌がなくなっていれば、補充して、水が減っていたら小まめに交換をした。


食欲はあるみたいだな……。

目の輝きもだいぶしっかりしてきた気がする。

この分なら、すぐに良くなるだろう。


リビングに戻り、袋小路さんに連絡を入れた。


「あ、お世話になってます、倉城です」

『あー、どうも、魔石の方はちゃんと届いてます。いま査定中でして、もう少しお時間がかかると思います』


「はい、よろしくお願いします。あの、それとは別でご相談が……」

『何か問題でも?』


「昨日、森で……」

俺はこれまでの経緯を袋小路さんに説明をした。


『なんと……よくぞご無事で……』

「運が良かったですね、ははは……」


『私がもう少し危険性をお伝えするべきでした……申し訳ございません』

「い、いえ、とんでもない! 袋小路さんは何も悪くありませんよ」


『でも、本当にご無事で何よりでした。それにしてもコボルトですか……』

「はい、アナ……配達員さんが言うには希少種らしくて」


『そうですね、ブラック・コボルトはかなり珍しい個体だと聞いております。わかりやすく言うなら、三毛猫の雄くらいの確率でしょうか……』

「そんなにっ……⁉ 実は、私としてはこちらの世界で飼えればなぁと思っているんですが……あ、もちろん、コボルトが嫌がったら森に帰すつもりですけど」


『良いんじゃないでしょうか。ウェザーランドでは犬と同じようにパートナーとして重宝されていますからね。しかも、コボルトは犬とは比べものにならないくらい知能が高いですし』

「ただ、今のところ週末以外は城を空けるので……。ちょっと心配なんですよね」


『あー、なるほど、それでしたらむしろ番犬としてぴったりじゃないでしょうか』

「え?」


『コボルトは知能が高いと言いましたが、ほぼ人と同等とお考えください。彼らは教えれば何でもできますよ。自分のご飯だって用意できます』

「そんなに……」


『そのコボルト、恐らく倉城さんの言葉も通じてるはずです。根気よく話しかけてあげればきっと伝わると思いますよ』

「わ、わかりました、頑張ってみます!」


『ふふっ、頑張ってくださいね。では、査定が出ましたらご連絡させていただきます』

「あ、はい! ありがとうございます!」

『では――』



通話を切り、ソファに凭れて天井を見上げた。


「マジか……」


言葉が通じるなら、思ってることを伝えた方がいいよな……。

相棒になってもらおうと思ってるんだ、俺の方から心を開かなきゃ。


「よし!」


俺は倉庫へ向かった。

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