運
「家具は揃ったからなぁ、あと一個でもスタンダードクラスの魔石が採れれば、精神的に大分違うんだけど……」
真新しいソファの感触を楽しみつつ、俺は淹れたてのコーヒーに口を付けた。
リビングの窓に目を向ければ、抜けるような青空が広がっている。
「最高に贅沢だなぁ……」
しかし、赤竜肉のステーキは旨かった。
アナさん達も喜んでくれたし、誰かに料理を作る楽しみってこういうことなんだな。
さて、少し休んだら『魔石サーチ』もあることだし、もう一度川に行ってみるか。
*
軽トラに乗り、前と同じ場所に向かう。
今回は護身用にクマスプレーも持参した。
念のため持っておいた方が良いとアナさんに忠告されたからだ。
いくら手前の森とはいえ、森は森。
いつ魔獣が現れるかわからないそうで、クマスプレーなら魔獣にも効くらしい。
魔獣が現れた時に気をつけるポイントがあるらしく、まずは相手が四足歩行かどうか、そして会話をするかどうかが運命の分かれ目だそうだ。
会話をする魔獣に遭遇したら、死を覚悟しろとも言われてしまった……。
後で調べたところ、そんなヤバい魔獣は、おとぎ話で語り継がれているだけだそうで、実際に遭遇することはないという。
ま、アナさんが俺をからかったのだろうな。
森へ着き、車を降りる。
リュックを背負い、俺は川を目指して歩き始めた。
「ふんふ~ん♪」
二度目となると、大分気持ちに余裕がある。
ちょっとしたピクニック感覚だ。
しばらく行くと、急に目の前に何かが横切った。
「ひっ⁉」
見ると、野うさぎだ。
長い耳を立て、こちらを見て鼻をヒクヒクさせている。
「へぇ、可愛いな」
野うさぎがいるってことは、それを捕食する獣も……。
ゾクッとして、思わず周囲を警戒する。
狼なんかに囲まれた日には、生きて帰れないだろう。
そう考えると、スプレーだけでは、ちょっと心細い気がする。
「帰ったら護身用グッズを見てみるか……」
大きな音や光を出す物とかありそうだもんな。
別に相手を倒さなくても逃げられる隙さえ作れれば十分だ。
漫画なら主人公のチートでぶっ殺すんだろうけど。
そんなことを考えつつ、目的の河原に着く。
初めての時よりも近く感じた。
「さぁて! 稼ぐぞ~!」
めぼしい石を探しながら辺りを歩く。
少しでも怪しいと思ったら魔石サーチだ。
「ん?」
川の水の中に赤色っぽい石がある。
いいね、まずはこれからサーチしてみよう。
俺は水の中から石を拾い出し、地面に置いて魔晶端末をかざした。
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◇◆魔石サーチ結果◆◇
クラス:--
推定内包魔力:--
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「だめか……それっぽいんだけどなぁ……」
どうやらただの石だったらしい。
――待てよ?
てことは、一見普通の石でも魔石ってパターンがあるってことか?
うーん、物は試しだ。やってみるか。
目に付いた少し大きめの石をサーチする。
見た目はただの石だけども……。
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◇◆魔石サーチ結果◆◇
クラス:コモンクラス
推定内包魔力:60~80
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「えっ⁉ ま、魔石なの⁉」
どう見てもただの石なんだが……。
まあ、コモンクラスでも数百円くらいにはなるんだもんな。
とりあえず一個目をゲット。
ちゃりんちゃりーんっと。
それから目に付く石を片っ端からサーチしていくが、それ以降、魔石が見つかることはなかった――。
「ふぅー……、休憩すっか」
手頃な岩に座り、ゴブチーサンドを頬張る。
今日はコーヒーも持ってきた。
「うん、うまい!」
雄大な自然の中での食事は本当に癒やされるなぁ……。
あれ? これって……闇雲に探すよりは、区分けしてサーチしていく方が効率的なんじゃないだろうか。
確か……遺跡の発掘現場とか、警察の鑑識さんとかがやってるのをドラマとかで見たことがある。
本格的なやり方は知らないが……ま、物は試しだ。
簡単に決めてやってみるか。
ゴブチーの残りをリュックに戻し、俺は河原に足で目印の線を引いた。
「ま、こんなもんか」
大体、十メートルくらいのお宝発掘ゾーンを作ってみた。
そこからさらにマスの目みたいに細分化して線を引く。
「よし、今日はこのブロックの中だな」
一メートル四方くらいの小さなブロックだ。
だが、石は意外に多い。ついでに地中も少し探ってみるつもりだ。
「サーチが終わった石はどうするかな……」
このままだと、線が消えて何が何だかわからなくなるだろうし……。
次に来る時は、ロープ止め用の金具と紐でゾーン分けしておくか。
焦りは禁物。長引いて暗くなったらまずい。
今日はこのままこのブロックだけサーチして終わろう。
手早く石をサーチしていく。
うーん、これも駄目……これも……これも……。
ここも無さそうだよなぁ……。
ミニスコップで地面を削っていると、カチッと何かに当たる。
「おっ⁉ 石か?」
ピッケルで周りの土を掘る。
ルーン刻印の効果なのか、驚くほど簡単だ。
殆ど力を使っていない……。
「すげぇな、これ……」
手で土を払うと、大きめの石が出てきた。
「よっ……と」
とりあえず引っ張り出して川で洗ってみる。
「見た感じは普通……あれっ⁉」
何か水晶のようなものが、石の表面からほんの少し突き出している気がする。
もしかして、袋小路さんが言ってた石の中にある魔石か?
「たしかハンマーとタガネが……」
リュックから道具を取り出し、俺は慎重に石を割っていく。
一気に割るのではなく、ガイドのような溝を作りながら徐々に掘っていく感じ。
まさか、バーのバイトでロックアイスを作っていた経験が生きるとは……。
人間、何でもやっておくべきだな。
「おっ、割れた!」
パカッと二つに割れる。
「おぉ! 何かある!」
見ると、中に水晶のようなものが!
「これは来たでしょ!」
魔晶端末を向け、サーチする。
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◇◆魔石サーチ結果◆◇
クラス:スタンダードクラス
推定内包魔力:770~920
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「よっしぁ来たぁあああーーーっ!!」
いやぁ、運が良い!
ふぅん、内包魔力はこの前のより少ないのか。
でも、いいや、これも二桁万は堅いぞ!
このままだと周りの石が邪魔だな。
少し削ってっと……。
あまりやりすぎると魔石が割れちゃうかもだし、ほどほどに……。
ある程度周りの石を落として、俺は絶縁袋に魔石をしまった。
「順調、順調! さ、帰りますか!」
荷物を背負い、森へ入ろうとしたその時――
『キャイン! キャイキャイン……!』
「え?」
どこからか、犬が悲痛な声を上げているような声が――。
「犬⁉ え、でもこっちにも犬っているの……? まさか狼とか⁉」
獣同士で揉めているのかも……。
巻き込まれるのはまずいな……早く森を出よう。
足早に進む。
心臓の鼓動が早い。
焦るな……こういう時こそ冷静に……。
慎重に足場を確認しながらその場を離れる。
が、さっきの魔石で運を使い果たしたのか、まさに狼が小さな獣を囲んでいる場面に出くわしてしまった……。
「ど、どうしよう……」




