闇バイト?
「おっ、倉城さん、お疲れっすー」
「あぁ深山くん、お疲れさまー」
スマホで求人を探していると、会社の休憩室に深山くんが入ってきた。
深山くんの出勤もあと残り僅かか……寂しくなるなぁ。
「あれ? 転職っすか?」と、深山くんが俺のスマホの画面を指さす。
「まあ、少し副業でも始めようかと思ってさ、調べてたんだよ」
「へぇ~、あの倉城さんが。ホント最近良い感じになってきましたよねぇ~」
「ちょ、からかわないでよ。俺なりに頑張ろうと思ってんだから」
「いや、からかってないっすよ? 今のは最大級の賛辞です」
「ほんとかなぁ」
「ホントホントっす。あっ、そういや倉城さん、軽トラ買ったって言ってましたよね?」
「え? あ、うん」
「じゃあ、バイトしませんか? 運び屋です」
「は、運び屋……?」
深山くんは意味ありげにニヤリと笑った。
*
「えっと、この辺だよな……」
翌日、仕事終わりに、深山くんに紹介された場所へ向かっていた。
ハンドルを握りながら、少し前を覗き込むようにして徐行する。
辺りは街灯も無く、真っ暗だ。
月明かりだけが点在する家屋と道路を照らしていた。
「こんなところで何を運ぶんだろう……」
深山くんのことだから、闇バイトみたいな犯罪絡みじゃないことは確かだけど……。
不安を感じながら進んでいると、少し先で手を振る深山くんを見つけた。
「あっ、深山くんだ……」
俺はゆっくりと深山くんの前で車を停めた。
「お疲れさまー」
「お疲れっすー、今日はありがとうございます」
「いやいや、全然。で、どうすればいい?」
「はい、じゃあ、この家に荷台を向けて停めてもらえますか?」
「OK」
車をバックで民家の前に付ける。
エンジンを切り、車を降りると深山くんが民家の扉を開けて手招きをした。
「あれ? ここ、深山くん家?」
「いえ、セカンドハウスっていうか、家賃が死ぬほど安いんで倉庫代わりっすね」
「へぇ~……」
さすが深山くんだな。
こっちの世界でセカンドハウスを持ってるなんて……。
「汚いっすけど、どうぞ」
「あ、お邪魔します……」
中に入ると、本当に倉庫代わりに使っているのだろう。
色んな機材や私物、主にPCとモニターが山積みになっていた。
「いやぁ、俺免許ないんでマジで助かります。レンタカー借りようかと思ったんですが、運転できる友達がスケジュール合わなくて……」
「あ、そうなんだ」
深山くん、免許持っていないのか……意外だな。
まあ、東京なら必要ないか。
「仕事でちょっとサーバー組むんで機材を運びたいんすよ」
「あ、そっちの仕事?」
「はい、自前の使った方が早いんで」と、言いながら、深山くんは、機材の山から使う物を選別している。
「何か手伝える?」
「もうちょっと待ってください、一緒に運んで欲しいっす……」
「うん、わかった」
待っている間、俺は部屋の中を眺める。
機材は古いのや新しそうなもの、年代がバラバラな感じがした。
きっと、昔から頑張っていたんだろうな……。
ふと、隅っこにあるギターが目にとまる。
「お、ギターとか弾けるの?」
「うわ、恥ずかしいっす。俺、簡単なコードくらいしか弾けないんすよねー」
「バンドとかやってたの?」
「まあ、そんな感じっす。誰もが通る道っすよ、へへへ」
深山くんは恥ずかしそうに笑う。
今でも普通にイケメンだし、バンド時代はさぞかしモテたんだろうな。
「倉城さんはどうなんす?」
「へ?」
「バンドとか?」
「あー、いやぁ、俺はそういうの全然、今で言う陰キャだよ陰キャ」
「そうなんすか? あんまそういう風に見えないっすけどね」
「そ、そう?」
「いまの倉城さんだとみんな想像できないんじゃないっすかね、だいぶ体つきも変わってきてますよ」
「えっ、ほんとに⁉」
「はい、スポーツやってんのかなって雰囲気でてます」
「へぇ……そうか、ウォーキングの効果かな」
「だと思いますね。はい、じゃあ筋トレ代わりにこの機材を全部運びますよー」
「こ、これを……」
山のように積まれた機材やらコードやらを背に、深山くんが意地悪そうに笑う。
「いやぁ、仕方ない、頑張ろっか」
「へへへ、ありがとうございまーす」
「あ、荷台にこの布団と毛布を敷きますから、機材はその上に置いてください」
「うん、わかった」
俺と深山くんは、バケツリレーのようにして家から機材を運び出した。
深山くんが並べた機材はメジャーで測ったかのようにきっちりと収まっている。
「この隙間にコード入れて行きますんで」
「オッケー、ほい」
束ねたコードを荷台の上の深山くんに手渡していく。
軽いコードも束となるとかなりの重量があった。
「くぅ……こ、これで最後!」
「うぃっす、ありがとうございまーす」
「お、終わったぁ……」
息を切らす俺と違い、深山くんは軽く汗を拭いているだけだ。
「良いトレーニングになりましたね。じゃあ、後半戦いきますか?」
「え?」
「運んだら、当然荷下ろしも待ってますからね」
ニタァ……っと笑う深山くん。
そうだった、荷下ろしもあるんだ。
「さ、倉城さん、行きましょう」
「う、うん……」
俺は車に乗りエンジンを掛ける。
「ちなみにバイト料上乗せとかって……」
「ないですね」
きっぱりと言って笑う深山くん。
「だよねー」
二人で笑いながら、俺は車を走らせた。




