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セカンドハウス魔王城 ~悩めるアラフォーおっさんの快適週末異世界暮らし~  作者: 雉子鳥幸太郎


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いざ内見へ

「ええ、もちろん。あ、良かったら、お荷物はうちの冷蔵庫で保管しておきますよ」

「すみません、助かります」


コンビニの袋を手渡すと、女性は事務所の隅に置かれた小さな冷蔵庫に袋を入れてくれた。


「さて、車を回してきますので、少しお待ちくださいね」

「あ、はい、お願いします」


女性は壁に吊してあった鍵を手に、外へ出て行った。



    *



車は意外にも高級SUVだった。

これが社用車だなんて、ずいぶんと景気がいいんだな……。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


初めて乗る高級車に、少しテンションが上がってしまう。

しっとり滑らかな座り心地、高そうな革の匂いがした。


「普段、お車でお仕事に行かれるんですか?」

「あ、いえ、免許はあるんですが、車を持っていなくて……」


「そうですか、まあ、都会ならコストがかかるだけで必要ないですからねー」

「え、ええ……」


音も無くすーっと走り出し、車は甲州街道を西へと進む。

俺は道すがら魔王城について尋ねてみた。


「あの……魔王城ってことは、魔王さんが住んでたんですよね?」


自分で聞いておきながら、首を傾げたくなる質問だが、女性は特に笑うわけでもなく普通に答えてくれる。


「ええ、前オーナーの魔王さんは、かなり苦労された方でして……。あ、いまは、別世界にある某大手ダンジョンにヘッドハンティングされたそうです。栄転ってやつですね」


「……」


なんだろう、普通に聞き間違えたかな?

別世界? ダンジョン?


「あの、それって漫画とかの話……ですよね?」

「いえ? あぁ、そうですね、そこから説明をしないとでした……」


運転しながら、名刺入れを取り出し、俺に名刺を一枚手渡してくれた。


―――――――――――――――


異世界不動産の売買仲介・買取り・設計・建築・リノベーション…etc.

株式会社きさらぎ不動産


 代表取締役 袋小路 早苗

  -Sanae Fukurokouji-


―――――――――――――――


「私、袋小路早苗といいます」

「どうも、倉城です」


「うちの会社では、主に異世界物件を仲介してまして」

「い、異世界……物件?」


「はい、こことは違う世界の物件のことですね」

「あー、はい、言葉の意味はわかるのですが……」


「最初は信じられないですよね、わかります。でも、実際に見ていただければその辺もクリアになってく――あ、すみません曲がります」

袋小路さんはウィンカーを出し、右折をする。


「なので、いまは信じられなくても大丈夫です。実際に見ていただければ実感できると思いますので!」

そう言って、やるぞ! みたいにグッと拳を握って微笑み掛けてくる。


「……」


正直、彼女の言うことは何一つ信じられなかった。

異世界物件? でも、車だよな?

異世界って甲州街道から行けるの?


疑問が次から次へと浮かんでくる。

だが、しばらくすると、もう何も考えずに、俺はただ流れる景色をぼぅっと眺めていた。



    *



「倉城さん、このトンネルを抜ければ、魔王城ですよ」

「あ、はい……」

袋小路さんの声で微睡んでいた意識に輪郭が戻る。


車は大きなトンネルに入った。

対向車や他の車は見当たらない。


すぐにトンネルの出口が見えてきた。

ただ、景色は見えず、真っ白な光だけが迫ってくる。


「――うわぁっ⁉」


ぐっと目を瞑る。

すると、袋小路さんが、「もう大丈夫ですよ」と声を掛けてきた。


恐る恐る目を開けると、そこには一面の緑が広がっていた。


草原と森、遠くに湖らしきものも見える。

驚いたのは道路がアスファルトではなく、ただの土肌に変わっていたことだ。


「うわぁ……え、ここって……⁉」

「お疲れ様でした、異世界ウェザーランドです」


「ウェザーランド⁉」

「はい、すぐに魔王城が見えてきますよ」


すると、言葉通りに木々の隙間から黒いお城が見えてきた。


「ほ、本当に……お城なんだ……」

「ふふっ、驚きますよね。でも、驚くのはまだ早いですよ」


袋小路さんは、魔王城の側に車を停めた。

タブレットを手に取り、「さ、行きましょう」と車を降りる。

「は、はい……」

とにかく、現状を理解しなければ……。

後に続いて車を降りた俺は、必死に周囲を観察した。


まごうこと無き城である――。

黒い石の壁だ。土埃で汚れているが、指で触るとオニキスのような光沢のある表面が覗く。

見上げてみると、広告の通り城は三階建てだった。


これは現実なのか……⁉

でも、実際に俺はこの足で土を踏んで立っている。

スニーカー越しに柔らかな土の感触が伝わってくるのだ。


ぎゅっと目を瞑り、また開く――が、景色は変わらない。

ほ、本当に違う世界にいるのかも知れない……。

そう俺の五感が、本能が告げていた。


「どうです? 外壁も殆ど痛んでいませんから、あと二百年くらいは修繕の必要もありません」

「に、二百年……」


もはや死んでると思うが……。

一生平気ってことか……って、俺は何を真面目に……。


「ちなみに、ご近所に住まれている方はいませんので、隣人トラブルもなく、BBQや騒音も出し放題です」

「……えっと、食料とか、水なんかは……」


コンビニなんてなさそうだし……。


「はい、問題ありません」

「それって……魔法とか?」


袋小路さんは手元のタブレットを確認する。


「えっと……いえ、魔法ではありません」

「じゃあ、どうやって……」


「百聞は一見にしかず、中へ入ってみましょう」


そう言って、袋小路さんが勝手口のような小さな裏口の扉の前で、横の壁に描かれた四角い枠の中に手を置くと、ガコンッと鍵の開く音が聞こえた。


「足下お気を付けくださいね」

「あ、はい、失礼します……」


ついに俺は、魔王城の中へ恐る恐る足を踏み入れた。

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