下見
軽トラに乗り込み、ドリンクホルダーに瓶を置く。
エンジンを掛け、いざ出発だ――。
草原は思ったよりも走りやすかった。
ただ、石もあるので、あまりスピードは出せない。
「まあ、のんびり行くか……」
しかし、良い天気だなぁ。
窓を開け、肘を置く。
方角はこっちであってるはずだよな……。
草の海をまっすぐに進んでいくと、遠くに大きな木々が見えてきた。
「お、あれっぽいな、大体10分くらいか。結構近いな」
これくらいの距離なら通いやすい。
練習にはもってこいだ。
俺は森の手前で車を停めた。
車を降りて、森を見上げる。
近くで見ると、木は相当背が高い。
幹の方にはあまり葉が無く、てっぺんに葉が集まっていた。
森へ続く道はなさそうだ。
草原から急に森に変わっている。
少し入ってみるか?
いや……準備を整えてからにしよう。
遭難だけは避けたいからな。
入りたい気持ちを抑え、俺は森の端から中を覗くにとどめた。
「普通の森っぽいな。特に変な感じはしないか……」
よし、雰囲気だけでも十分だ。
軽トラに乗り込み、森の周囲を走ってみる。
しばらくすると、遠くに岩壁が見えてきた。
たしか、地図だとあそこが川になってるんだっけ。
岩壁は高く、とてもじゃないが俺には登れそうにないな。
ま、今日はこんなもんか――。
俺はUターンして、魔王城へ戻った。
*
城へ戻ると、ちょうどバッカスがルーフバルコニーに降りたところだった。
「おっ、アナさん達だ」
急ぎリビングに向かい出迎える。
「お疲れさまです」
「待たせたな、ほれ、注文のやつ」
アナさんがマスクを取り、金色の髪をかき上げた。
「ありがとうございます! おぉ~、これが採掘セットか……!」
木箱に入った魔石採掘セットを物色する。
おぉ~、ピッケル格好いいな。ルーン刻印ってこれのことか?
しまった、ホルダーとかも買えば良かったか……。
「クラキって、ホントに魔石掘るつもりなんだ?」
アナさんが俺の顔を覗き込み、不思議そうに言った。
「え、ええ、まずは、この近くの森で始めようと思いまして……」
「大丈夫か? 死ぬなよ?」
「え……そんなに危険ですかね?」
「いくら小さかろうが森は森。人間なんて自然の前じゃ無力だぞ?」
「そ、そうですよね……」
しかし、こればっかりはやるしかないもんなぁ……。
人を雇うにしても、まずは自分で経験しておかないと。
「ガイド雇うにしても、変な奴を雇うとそいつに襲われることもあるからな」
「えっ……」
「まあ、少しずつ探索範囲を広げていくのがいいな。自分で目印や地図を作るくらいはやった方が良い」
「なるほど……ありがとうございます」
「ま、頑張りな」
アナさんは、俺の肩をポンポンと叩き、
「あ、来週家具が届くぞ」と思い出したように言う。
「えっ! もう出来たんですか⁉」
「みたいだな、昼くらいに持ってくるから」
「わかりました!」
「じゃあ、今日は戻るわ。ちょっと用事があってな」
「そうですか、わかりました」
ちょっと残念だな。
一緒に飲めるかと思ったが……忙しいんだろうな。
「じゃあ、来週な!」
「はい! お待ちしてまーす!」
飛び立つアナさんに大きく手を振る。
小さくなっていくバッカスとアナさんを見届け、俺はリビングに戻った。
買った道具を並べて、質感を確かめる。
うーん、かなり良い気がする。
これであの値段ならお買い得だよなぁ……。
安っぽい感じもしないし、何よりこのリュック!
めっちゃ不思議! どうなってんだこれ⁉
全部の道具を入れても大きさが変わらない。
背負っても、何も入ってないみたいに軽い!
これが魔導補助か……。
試しに冷蔵庫の中の物を全部入れてみた。
「すげぇ……いくらでも入る……」
広げて中を覗いてみると、空中に入れた物が浮いていた。
何なんだろう、この空間は……。
まったく意味がわからないが、とにかく便利だ。
これなら食料もかなり持って行けるな。
うん、良い買い物をした。
あとは、これだ。
魔晶端末の箱を取り出す。
箱には魔法使いのお爺さんの絵が描かれている。
何か凄そう。
箱を開けると、黒い石版が入っていた。
「意外と軽いな……」
これなら持ち歩くのも便利だ。
ポケットに入れても気にならないだろう。
箱の中に説明書が入っていた。
えーっと、まずは設定からか……。
『両手の指を石版に押し当て、版面に魔方陣が現れたら名前を唱えてください』と書いてある。
俺は両手の人差し指を押し当て、少し待った。
緑色の魔方陣が浮かび上がる。
「おぉ! えっと名前だな……倉城 渉!」
魔方陣が回転しながら消える。
そして、下の端から緑色の炎が立ち上り、初期画面になった。
「へぇ、格好いいエフェクトだな。これも魔導ってやつなのかな」
もはやスマホと変わらない。
操作も直感的にわかるぞ……。
アプリセンターから目的のアプリを投影してください、か。
「えっとどれだろう……お、これだな」
ウェザーマートのロゴが入ったアイコンを見つけた。
ウェザーマートアプリと連携をしてっと……。
ものの数秒で連携が完了した。
おぉ~……スマホより早い。
あとは、支払いのやつってどうやるんだろう?
説明書を見ると、コインマークのアイコンから読み取るように書かれていた。
「これか?」
金貨っぽいイラストの描かれたアイコンに触れると、石版に四角い枠が表示された。
「あぁ、枠の中に紋章を入れるのか、この辺はQRと同じでわかりやすい」
うん、これなら俺でも使えそうだ。
スマホはこっちでなくしたらヤバいもんな……。
今度からスマホは地球宅へ置いておこう。
「ビール、ビールっと……氷壁にするか」
とりあえず一段落したってことで、やっぱりこれだよな。
氷壁を開け、グイッと一口。
「くぅ……くぅううう!」
脳天を貫くような刺激――。
かあぁああ、これ凄いな!
恐ろしく冷えているが、ちゃんとホップの風味が鼻から抜ける。
常温でもいけそうだ。
「こりゃアナさんも気に入るわけだ……」
よし、着々と準備が整っている。
来週は家具も届くし、後は魔石採掘をスタートさせて、余裕ができたら畑も作りたいよなぁ……。
俺は寝室へ行き、ベッドに横になった。
「いやぁ、こっちのベッドは広くて天国だな……」
大の字になり、天蓋を見つめる。
準備が進んでいるのはいいが、そうのんびりもしてられない。
いくらこっちが安いとはいえ、かなり買い物してしまったからな……。
地球に戻ったら、バイトでもするか?
うーん、デリバリーとか?
少しでも稼げればこっちでの資金になるもんな。
あれだけ働きたくないって思ってたのに、人間って目的があれば変わるもんだな……。
この俺が自らバイトをしようと考えるなんて。
思わず吹き出しそうになる。
さ、もう寝るか……。
俺は大の字になったまま、眠りに落ちた。
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