採掘準備
待ちに待った週末――。
愛車の軽トラに乗り、俺は魔王城へ向かった。
魔石の採掘道具などは向こうで揃える、というか、すべてウェザーランドで揃えることにした。
なんたって資金効率が違う。
よくよく考えてみると、交換レート10倍はチートの域だもんな。
トンネルを抜け、俺は運転席の窓を開けた。
草木の香りと土の湿った匂い。
これだけで、心が軽くなったように感じる。
「フゥーーーッ‼ 最高ーーッ!」
浮かれて大声で叫ぶ。
いい歳して、こんなんでいいんだろうかとも思うが、これでいいのだ。
俺の他には誰もいないのだから。
魔王城の側に車を停め、口笛を吹きながら城へ入った。
もう慣れたもので、旅先から実家に帰ってきたような感覚すらある。
「ただいまーっと」
荷物を置き、慣れた手つきで冷蔵庫を開ける。
赤竜の吐息を一本取り出し、直ビンで三口くらい一気に飲んだ。
「ぐ……くぅうう~っ‼」
目尻に涙がたまる。最高だな……。
キッチンから、だだっ広いリビングを眺め、家具が置かれた光景に思いを馳せた。
「早くできるといいなぁ……」
よし、時間が勿体ないからな、やることやっていかないと。
まずは魔王城周辺の地図が見たいよなぁ……。
コモンクラスの魔石を探しながら、まずは土地勘も養わなければ。
ガイドブックにはコモンクラスでも、数百円~数千円での買取りができるとあった。
数が採れるなら、コモンクラスが効率がいいかも知れないよな……。
まあ、でも世の中そんなに上手くいくわけがない。
買取額は魔石の質次第ともあったし、過度な期待は禁物だろう。
「まあ、仮に買取りが3,000円だったとしても、両替すれば30,000wzだからな」
こっちの世界で金に困ることはなさそうだ。
問題は地球の方だよな……。
早めにスタンダードクラスを安定して採れるように頑張ろう!
そうすれば夢の脱サラも視野に入ってくるぞ!
俺はふと、コンソールパネルを見た。
もしかして……地図的なものが見られたりしないのだろうか?
アナさんが近づいただけで警報が鳴ったんだし、周辺の地理情報を閲覧できてもおかしくない……。
いや、できないはずがない。
「んーっと……」
色々触ってみると、メニューの中に【監視状況】なるカテゴリを発見した。
タップすると、画面に地図が表示される。
「や、やった……!」
真ん中で点滅しているのが魔王城だろう。
なんと、軽トラを置いた場所に、▽印に『unknown』と表示されている。
方法は謎だが、リアルタイムで周辺を監視しているのか……。
えーっと、一番近い森……あ、ここは比較的小さいな。
森の中に川が通っていて奥と手前に分かれている。
手前の小さなエリアが良さそうだ。
第一候補にしておこう。
南にある森は大きすぎて難易度が高そうなのでパス。
北の大きな街道は……これがタイレルに繋がってるのかな。
方角的には間違いなさそうだ。
しかし、ホントにご近所さんいないんだなぁ……。
もし居たらいろいろと聞けたのに残念だ。
よし、一度軽トラで近い森の近くまで行ってみるか。
雰囲気だけでも見ておきたいもんな。
となると、行く前に採掘用具だけ発注しておくか。
俺はスマホからウェザーマートのページを開いた。
工具やら日曜大工的なコーナーがちゃんとある。
「すごいな、ウェザーマート……なんでもある」
商品の充実っぷりに驚きながら、俺は物色を始めた。
「えっ⁉ すごい!」
★君もマセキング! ~魔石採掘七つ道具初心者パック~★
・魔石グローブ
・魔石絶縁袋
・ピッケル(ルーン刻印済)
・安全ブーツ
・ミニハンマー&タガネ
・ミニスコップ
・ふるい
セット価格 70,000wz
これいいな……。
見た感じ最低限そろってるみたいだし、値段もお手頃価格だ。
えーっと、万が一強力な魔石だと人体に影響があります、か……。
へぇ、魔石って素手で触ると危ないのか……。
なるほど、だから絶縁袋が必要なのか。
他にも色々な種類の道具があるが、まずはこれでいいだろう。
やってみないと何が必要かもわからないしな。
あとは、道具を入れるリュックか……。
・ミストポーター(魔導拡張LV4 魔導補助LV2) 42,000wz
・ナイトマーモット(魔導拡張LV5 魔導補助LV3 温度維持)53,000wz
・タイタン(魔導拡張LV5 魔導補助LV5 温度維持)65,000wz
・ウェザーマートオリジナル(魔導拡張LV3 魔導補助LV1 温度維持)31,000wz
ふーん、ブランドみたいなのもあるのか。
サムネイルの写真もかっこいいな。
ミストポーターは霧の中を歩く人影のロゴになっていて、ナイトマーモットは黒を基調とした魔物のような影にロゴが入っている。
タイタンとウェザーマートオリジナルは、オーソドックスで地球にあってもおかしくないデザインだ。
「へぇ……いろいろあるなぁ」
魔導拡張は、物が入る量を魔導の力で増やしてくれる……って、何それすごい。魔導補助は重量が軽くなり、温度維持はそのままの意味らしい。
これ地球にあったら凄い便利だよなぁ……。
リュックはずっと使う物だし、良い物を買った方がいいよな。
よし、タイタンにしよう。
俺は七つ道具セットとタイタンのリュックをカートに入れる。
あとは……食材もついでに買っておこう。
そうだ! それと魔晶端末も買っておかないと……。
~ウェザーマート最新魔晶端末~
・ソキエス 160,000wz
・ウィザード 80,000wz
・グリモ 40,000wz
へぇ、たぶんこのグリモっていうのが格安スマホ的な物なんだろうな。
買うならミドルレンジかなぁ……。
よし、ウィザードにしよう!
後は野菜と肉、それも竜肉をメインにいくつかカートに入れ、支払いを済ませた。
ふぅ~……結構使っちゃったなぁ。
こりゃ当分節約しないと……って、あれ?
こっちで金目の物を買って、地球で売れば……いいんじゃ。
そうだよな、何でこんな簡単なことに気付かなかったんだ!
金とか宝石とか? その辺を買って持ち帰れば……。
もはや金に困ることはない⁉
ん? でも、軽トラとか本、掃除道具なんかは持ち込めたけど、どうなんだろう?
規則とか、そういうものはないんだろうか……。
一応、袋小路さんに確認した方がいいよな……。
あ、そういえばAIチャットがあるとか……。
俺はきさらぎ不動産のアプリからAIチャットを探す。
「お、あったあった」
よし、ここでまずは聞いてみよう。
袋小路さんも忙しそうだし、自分で解決する癖も付けておかないと……。
「ウェザーランドの物を地球に持ち帰るのはアリですか、と……」
すぐに返事が返ってきた。
『不可能です』
「えっ⁉ どういうこと……?」
俺はもう少し詳細を求めた。
『ウェザーランドの物は魔力が帯びてあるため、ゲート通過の際に崩壊します。逆に地球からの物は、魔力を帯びていないため、ほとんどの物が持ち込めます』
ふぅん……だから掃除機とか持ち込めたのか。
『また、ゲート通過の際には"みえざる手"による検閲が行われております。検閲の基準は明らかになっておりませんが、これまでの当社の調べによりますと、両世界間での大規模な交易によって利鞘を稼ぐことは実質不可能となっております』
なるほど……。
みえざる手ってのは、神様みたいなものなのか。
本や掃除機なんかは通れるってことは、もちろん洋服もアリだよな。
市場でマクセンさんが服を欲しがっていたが、こっちだと地球の服って高く売れるんじゃないだろうか?
でも、ウェザーランドの服相場にもよるし、恐らく本格的に輸入を始めると検閲が入るんだろう。
となれば、マクセンさんのような現地の人達と交流を深める贈答用……って考えた方がいいかもな。
ん……? 待てよ?
魔石買取りって検閲外なのか?
きさらぎ不動産だけ特別な何かがあるんだろうか……。
「御社の魔石買取りは検閲されないのですか……っと」
『当社は独自のライセンスを取得しておりますのでご安心ください』
独自のライセンス……。
まあ、あまり深く考えても答えは出ないだろうし、また機会があれば袋小路さんに聞いてみよう……。円さえ稼げば10倍なわけだし、必要以上に金が欲しいわけじゃない。悠々自適なスローライフさえできれば、それでいいのだから。
さてと、配達が来るまで時間があるし、ちょっと森の近くまで行ってみるか。
「水筒とか欲しいな……」
俺はビールの空き瓶を洗って、たちまち水筒代わりにすることにした。
次、買い物するときに一緒に買うかな。
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