起きてから寝るまで。
それから、彼女はいつもいつも僕のよこにぴったりとくっついたまま、動かなかった。
まるで今まで我慢して来たぶんを埋め合わせるように、昼寝から起きた時から今まで…
それはお風呂の時もまた一緒で。
「私で変なこと考えてもいいよ?」
「まぁ、無理じゃないかな」
「無理ならいい。いつかその気にさせてあげる」
とか言いながら、ちょくちょく。僕の欲に触れて来た。素直になり過ぎたんじゃないかな。
今までどうやって我慢したのだろう。
ま、そんな事もあって、寝る時間。
晩ご飯も、お風呂も、トイレも終わった。後は明日に備えて寝る事のみ。
いつもなら彼女は家に帰って、一人でベッドに寝転んでいるはずだが。
「重いでしょ?」
さっきと同じように、彼女は上から僕を押し潰していた。逃げようとする行為自体は許さないと言わんばかりに、全身で僕を抑える。
息苦しい。
物理的にも、精神的にも。
「そろそろ離れて」
「なんで?」
「息苦しい」
「死にそうなの?なら、死んでもいいよ」
さっきも思ったけど、彼女は死に憧れがあるように感じられる。
心音が消える事を期待するなんて。
「あなたのこと、嫌いになりそう」
「構わないよ。死んだら心なんてなくなるから」
「怖いこと言うね」
「我慢し過ぎたせいなのかも」
これは重症だ。本人も、自分がまともな状態じゃないって思っている。
自分もコントロール出来ない気持ちか。
僕もそういう時がたまにあったな。そういう時は一回寝たら落ち着いた。
彼女と僕は違う人なんだけど、こういうところは同じなのだろう。幼馴染みだし。
腕に力を込めて、彼女を振り解く。
「ちょっ、抗わない――」
「僕が抱くの」
一瞬、彼女が崩れた時に思いっきり、彼女を抱えて、動かないようにする。
今までされた様に、手足を全部使って、ぎゅーっ。
「………うんっ」
愛する事だけを求めた訳じゃないらしく、彼女は僕からの愛情を恥ずかしながらも受け入れる。
この場合、愛情って言えるのかは確かじゃないけど……彼女を心配してからの行動だから、愛情だろう。
「……ちょっと、熱いよ」
「我慢するのよ、妻」
「まだ結婚してないし……妻より、彼女がいい」
「我慢するのよ、彼女さん」
「うん」
だんだん熱が下がって行く感覚がする。
さっきも、彼女の手の温もりが消えた感覚がしたな。この子って、落ち着くと涼しくなるのか。
興奮すると熱くなるのかも知れない。
まぁ、同じ言葉か。
「今日は帰らないの?」
「今日からここが私の家だよ」
「結婚してないけど」
「同棲だと思って」
「家族もいるのに?」
「お義母さんはいいんだって。お義父さんはまだ早いけど、好きにしろって」
「ほぇー」
もう二人にも言ったのか。でもずっと僕とくっ付いてたのに、いつ言ったのだろう。
トイレに行った時か。その時は離れていたし。
「ベッド狭くない?」
「くっつくと広くなるよ」
うーん。
今日中に離すのは諦めた方がよさそうだ。
「…ぁ」
「寒いの、僕」
今日は寝る事に集中しよう。
彼女がどれだけ飢えていたとしても、一晩中くっ付いてたら少しは飽きるだろう。
だから今日はなるべく、寝るのが大変になるくらいまでくっ付いて、抱えて、寝よう。
「……暖かいのに?」
「寒いから暖かいの」
「じゃあ…温もり、わけてあげる」
「うんうん」
ちょっと暑いな。