バレたから、我慢しない宣言。
寝たふりをしていたのがバレた。でも、彼女は全く動じず。むしろ先程より強く僕を抱いた。抱いたって言うより、押し潰したと言うのが正しいだろう。
ぐーっと、身動きが取れないように、手足を全部使って僕をベッドに押し付けた。
なんのつもりなのだろう。
「重いの」
「女の子に重いとか、失礼だね」
引いてくれるつもりはないみたいだ。
軽く力を入れて無理矢理突き放したらどうにかなりそうだけど、そうすると彼女が怪我しそうだから、一旦保留しよう。
僕に何か欲しいものがあるからこんな事をするのだろう。それを叶えてくれればいいだけだ。
「…どれだけ重い?」
彼女も、申し訳なさそうに思っているのだろう。ふらっとした声色だ。
「今までの人生で、一番」
「体のこと?」
ちょっと、いや。かなり変わったけど、いつもの幼馴染みに戻ってるみたいだ。
いつもの優しく、ちょっと意地悪な性格に…
「……それとも、心のこと?」
戻らなかった。
まるで恋人に語りかける様な声だ。耳がくすぐったいくらい甘い声だ。
「どっちも」
これは、確かに重い。
「嫌いになった?」
「ちょっとだけ」
「ちょっとだけなんだ…」
もともとこういう性格で、今まではそれを上手く隠していたのだろうか。人の心が一日や二日でぱっと変わるとは思えない。
酔ってもないみたいだ。お酒の匂いはしないから。
今まであれだけ上手く隠して来たのに、どうして今更僕に愛情を示すのだろう。
もかして……
「こういうの、いつもやってた?」
「そだよ。君が眠った時はいつも、匂いくんくんしたし、心臓がどくどくするのを聞いて、ほっぺたにちゅーして、手と手も繋いで、たまにはじーっと寝顔を眺めたりもしてた」
「すごいなぁ」
そうだったんだ。
僕って、本当に一度眠ったら起きないみたい。今までたった一回も気付けなかった。
「君ってよく寝るから…最初は面白半分だった。寝てる間、暇だから恋人みたいにやってみようって。でも途中から本気になっちゃって」
「今に至ったと」
「そうですよ。旦那様」
「まだ結婚してないよ?」
「結婚して」
この子ったら、昔からよく周りに流されてたから、彼女の言った通り、途中から本気になるのもなり得るのだろう。昔もそんな時が何回かあったし。
それにしてもどうして、今は我慢しないのだろう。
これまではずっと我慢してたはずなのに。
そんな僕の疑問にまるで答えるように、彼女がにっこりと笑って言った。
「もう見られたし、我慢しなくてもいいんだ」
「そう思ったの?」
「うん」
一回見られただけで諦めるのか。いや、この場合は素直になったんだから諦めた訳じゃないか。
「だから、これからは我慢しない。起きてる時も寝てる時も、君から離れないから」
「トイレの時も?」
「ちゃんとできるか見守ってあげる」
「流石にそれはちょっと…」
「じゃあ、トイレは我慢する。かわりにお風呂」
「うん、うん。それなら」
ただ匂いを嗅ぎ、心音を聞いたのがばれただけなのにかなり人が変わっちまったな。
やっぱり世の中、知らない方が得の時もあるんだ。