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Crimson Field   作者: Ritchel
Welcome and Goodbye
4/7

怪物のいる世界

 三日後、試験の結果がトワにも届いた。受かっているとは思うが、それでも恐る恐る開く。ゆっくりと封筒を開き、折りたたまれている紙を取り出した。


『合格』


 シンプルに書かれたふた文字。


「やった!」


 ぴょん、と跳ねるように歩いてお世話になっている院長へ報告に向かう。ここでの生活もこれで最後だ。


「先生!受かりました!!」


 院長室で作業していた老年にさしかかった女性は顔を上げると「そう、よかったわね」とシンプルに祝った。


「…でも、もし辞めたくなったらいつでもここに来てちょうだい。他の仕事の伝手ならあるから」


 トワだって知っている。人類解放戦線の就職した人のうちかなりがすぐに辞めたり、事務に移動すること。怪我で引退はまだいい方で、殉職の可能性もあること。それでもトワはこの道を選んだのだ。


「ありがとうございます。でも、挑戦してみないことには変わらないので」


 数日後に入隊式があり、そのまま人類解放戦線の提供する寮に移る。次の日からは訓練期間が始まる。それまでにここでお世話になった人や友人ーー家族とも言える人たちに別れを告げなければ。


 まずは同じ院にいる妹や弟と言っても過言ではない仲間達。比較的年上の子は別れを言い、落ち着いたら手紙を寄越すように言った。幼い子はトワに抱き縋り涙を流した。


「二度と会えないわけじゃないから」


 涙を拭ってやれば、涙を必死に堪える様子が愛おしい。この子達のためにも、人類解放戦線で頑張らなければ。


 ーー✖︎ーー ーー✖︎ーー ーー✖︎ーー


 多くの若者が大きな荷物を持って人類解放戦線のメインビルの入り口に集まっていた。人数はざっと25人ほどだろうか。


「トワ!」


 名前を呼ばれた方を向くと、二人組の少年がいた。スージャとリャックだ。


「スージャさん!リャック!」


 あの場にいた受験生の中では一番気心知れていると言っても過言ではないだろう。デドイも試験後共に隊室を訪れたが、一緒にいてもなんだか落ち着かないのだ。


「怪我はもう大丈夫?」

「おかげさまでな。もうすっかり」


 スージャは腕を上げて筋肉ポーズをとった。リャックもふんふんと頷いている。確かに元気なようだ。


「そうか、それはよかった」


 後ろからぬっとデドイが現れ、トワは叫びそうになった。なにしろ背がスーじゃより高く体格もいい。顔面に迫力もある。彼は本当に身一つ、といったていで愛刀の他には小さなバッグを一つ持っているだけだ。


「入隊式ももうすぐだな。デドイ、主席はお前で間違い無いだろう」

「当然だ」


 合格通知書とともに届けられたしおりには10時から入隊式と書いてある。今は9時48分。多くの新入隊員が集まり、ザワザワとその時を待っている。


「おはようございまーす!新入隊員の方は荷物をこちらに置いてくださーい!」


 聞き覚えのある声だ。一見すると淡い茶髪だが、妙に甘さのある髪色。


「あ、スカさんだ」

「知り合い?」

「うん、第零部隊の隊員なんだって。ほら、レドさんの部下」

「よかった優しそうな人で」


 リャックは胸を撫で下ろす。デドイがいる時は大抵スージャに隠れるようにしているので、彼のような無愛想な人が苦手なのだろう。


 案内された場所に皆荷物をどさどさとき、入隊式の会場に入る。壇上にはマイクが設置され、周りには多くの椅子がある。新入隊員の席はないようだ。


「特に順番はないから並んでね」


 スカの声に従い、ゾロゾロと隊列をなす新入隊員たち。トワは開会まで暇なのでしおりで流れを確認していた。


(まず開会の言葉、祝辞、施設や任務についての説明、訓練期間についての説明、その後…)


 ふっと電気が消えた。光が降る場所はただ一つ、壇上だ。


「諸君、人類解放戦線へようこそ。私は都主のロウジャ・ログ。これより、入隊式を始める」


 あたりからまるで油が弾けるような拍手が聞こえる。いつのまにこれほど人がいたのだろう。周りからもパラパラと拍手の音が聞こえたので、トワも拍手を始めたがすぐに音は小さくなってしまった。


「諸君らも知っての通り、我々は厳しい戦いを強いられてきた。圧倒的な身体能力に、繁殖力。突然現れた彼らは人間を同じ化け物に堕としてしまう。ーーそう、あの忌々しきザルグスどもだ。ごく限られた場所に都市を築き、防衛に専念した。人類は絶望の淵にいた。しかし、我々はまだ生きている。それどころかじわじわと我らが土地を取り返しつつある。ーー諦めた方が楽だと言う者もいるだろう。それで良いのか?今まで死んでいった者たちの命を!無駄にして良いのか!?」


 静かな会場にはロウジャの声だけがこだまする。


「彼らを聖人せしめよ」


 空気が重く、ビリビリと震えているのが感じられた。


「戦場に残る、その刀を見ろ。それが誰のものかわからぬ我らではないぞ」


 ロウジャも自らの腰にさしてあった刀を引き抜き、高く掲げた。


「人類に栄光をもたらすのだ」


 うおおぉおおおおお!


 耳をつんざくような叫びと拍手、跳ねる音、しまいには口笛まで聞こえた。


「私は新たな英雄を歓迎しよう」


 再び暗転。しかし興奮が収まりきらないのか静寂は訪れない。


「静粛に!次に首席を発表する!名前を呼ばれた隊員は壇上に上がるように!」


 薄明かりが全体的についた後、ロウジャではない声が咳払いをし、名前を呼ぶ。


「第六十七期、新入隊員代表、ハル・エリャ」


 トワの前方にいるデドイの体が微かに動いたのが分かった。はい、と全く知らない声がどこかから聞こえる。新入隊員の列を抜け現れたのは不思議な雰囲気を纏った男だった。年はやはり16、7に見える。しかし上背の割にヒョロリとした印象を与え、髪の色も白髪のような、淡い緑のような、しかし灰色に桃色を混ぜたような何とも言えない色だ。皆の注目をその身に浴びながら彼は静かに壇上に上がった。


「ハル・エリャよ。汝は第六十七回入隊試験において、大変優秀な成績を示した。その力を存分に振るい、人類の栄光に寄与したまえ」


 ロウジャは真新しく銀色に輝く名前入りのドッグタグを隣の青年から受け取り、ハルの首にかけた。2、3言話した後、ハルはマイクを受け取り新入隊員たちの方に向き直った。


「首席に選ばれた事を光栄に思います。皆さん、力を合わせてザルグスを滅ぼしましょう!」


 まばらに拍手が響く。彼も特に反応するでもなくマイクを返すと壇上を降りた。その途中、右側をーー正確には右手にいる集団をチラリと見た。


「ありがとうございました。次に、基本的な説明を行います。この後受け取るドッグタグは全てに必要なので決して無くさないように。利用できる施設はドッグタグで入れる場所です。訓練期間は入れる場所が少ないですがーー」


 薄明かりの中、デドイが強く拳を握っているのが見えた。悔しいのだろうか、とトワは思ったが、存外口角は上がっているように見える。好敵手の出現、と捉えているのかもしれない。


「次に、訓練期間についてです。もう知っているとは思いますが一ヶ月後に正式配属となります。それまでは二部隊に分かれ座学と実技を行います。後半では実際に各部隊を体験してもらいます。その後、入隊希望書を提出してください。例年人気の部隊は定員が埋まります。その場合、成績優秀者が優先されるので諸君、研鑽を怠らないように」


 一度マイクを置くと司会の男は紙を広げた。


「今から部隊わけを発表する。二度は言わないので聞き漏らさないように」


 トワは第一訓練部隊に振り分けられた。リャックも一緒である点は安心できる。そして、例の首席の男も第一だった。対して第二訓練部隊はスージャ、デドイだ。


「それぞれの部隊には正隊員の隊長・サポーターがつく。随時彼らの指示に従いたまえ」


 パッと右側に光が注いだ。あ、と声が出そうになるのを飲み込む。あの紅い髪は忘れようもない。その隣にはあの不釣り合いなゴーグルをつけた大男だ。


「第一訓練部隊隊長、レド・ハドゥア。サポーター、ニャット・ビン」


 そしてさらに右側にも光が灯る。


「第二訓練部隊隊長、アヴォ・ドキ。サポーター、ワン・パーバ」


 続いて紺色の髪と茶色の髪をした男たちが立ち上がった。


「紹介は後で詳しく行われる。質問があれば彼らに聞くように。それではこれにて第六十七回入隊式を終わります。寮の方へ移動してください。もう知っているとは思いますが、合格通知書と共に部屋番号が届いているはずです。何か困ったことや質問があればフロントにお願いします」


 あっという間に入隊式は終わり、再びスカによって扉が開かれた。蟻の行軍の再会だ。しかし今度は男女で二手に分かれる。トワは女子寮に入り、自分の部屋番号を探す。


(ここだわ。中から音がする…もう入ってる人がいるのね)


 トワは一瞬部屋を間違えたかと思った。部屋の中で荷物を整理している人は形の良い頭蓋骨が見えるほど髪が短い。しかし、振り向けば柔らかな体型で女性だと分かった。


「あ、初めまして。私、トワ・フリャです。よろしくお願いします!」

「……そう」


 そっけない反応で作業に戻ってしまう。不安だ。非常にこの先が思いやられる。


「お邪魔しまーす!て、これから家か」


 そんな空気を打開するように元気の良い声がやってきた。


「うっす!あたし、リジョ・アルコン!よろしくぅっ!」

「ちょっと…あ、初めまして…ヴィー・ルティカです………」


 二人の少女が堂々と、あるいはおずおずと入室してきた。


「あ、よろしく。私、トワ・フリャです」


 相変わらず初めの少女は沈黙を貫いている。


「そっちの方、名前は何すか?」

「トレワ。詳しい自己紹介は後で」


 部屋には四つのベッドや机など個人の家具が置かれているが、洗面台などは共用の用だ。机上の地図によると女性寮で風呂が共用、洗濯施設などは一階にまとまっているようだ。机上には、詳しい契約について書かれた紙など重要書類が、ベッドには支給された衣服などが置いてある。トレワは黙々と自分の荷物を出していたので鞄はもうすっからかんだ。最後に鞄を机にかければ終わりだ。トワも慌てて自分の鞄を開く。荷物はあまり多くはないが、他に今すべきこともない。洗面具は洗面台に、服はクローゼットに。リジョとヴィーもトレワとの会話を諦めたのか荷解きをしている。トワも荷解きが終わり手持ち無沙汰になったのでベッドの家で本を開いた。


「ヴィー、お前本当に訓練ついて来れんのかよ?」

「うちだって…一応練習してるから…そりゃもちろんリジョの方が強いけど…やってみるくらいいいじゃん…」

「何もやめろなんて言ってねーよ。ただ困ったことがあれば言えよ」

「うん、ありがと」


 リジョとヴィーは以前から知った仲であるらしく会話を交わしている。新入隊員が一気に風呂に入っては混むので、訓練期間は入浴時間がそれぞれ割り当てられている。この部屋の入浴時間はあと30分後で、夕食を食べに行ける時間でもない。


「皆さん、時間があるならこれから一緒に暮らすし、自己紹介しましょう」


 トワが勇気を出して言えば、案の定リジョは「さんせーい!」と言った。ヴィーもこくこくと頷いている。トレワも詳しい自己紹介はあとでと言った手前、拒否しないようだ。


「じゃあ、言い出しっぺの私から。名前はトワ・フリャ、呼び捨てで大丈夫です。戦闘部隊を希望しています。15歳です」


 「おー」「よろしく…」、パチパチと控えめな拍手で安堵の息を吐いた。第一印象が決まるため少し緊張していたのだ。


「じゃあ次はあたしかなっ!リジョ・アルコン!好きに呼んでいーっすよ!16歳!戦闘希望でこんな性格っすけど、これでも器用なんで物とか壊れたら声かけて!あ、こっちのヴィーとは幼馴染っす!」

「あ…ヴィー…です。リジョと同い年で…えっと…………持久力には自信があります」


 しばらく沈黙が続くのをみると、ヴィーの自己紹介は終わったらしい。自然とトレワに注目が集まる。


「トレワ・スザ。18。戦闘部隊希望」


 全くもって詳しくない!ここから会話を発展させるしかない、との心中に従った。まずは話しやすい方からだ。


「リジョさんとヴィーさんは一緒の部隊に行きたいんですか?」

「呼び捨てでいーって!ここじゃあ年齢より実力とか経験優先だろ!あたし達みんな新入隊員!」

「うちも…好きに呼んでください」

「分かったわ。私もトワって気軽に呼んで」


 リジョは明らかだが、ヴィーも陰気なだけでこれから少しづつ仲良くなっていけるだろう、という感じがする。


「そうそう、こういう人多いと思うけど、あたしたちどっちも孤児でさぁ、同じ施設で暮らしてたわけ。だから親友であり家族なの」

「あ、私も孤児で施設の出身よ。どこの施設?」

「第一区だよ」

「じゃあ交流会とかで会ったことあるかも知れないわ!私第二区の出身よ!」


 共通点を見つけ、あるあるに話を咲かせる。


「ここに来る人なんて」


 トレワが口を開いた。


「そんなもんでしょう。親をザルグスに殺されて憎んでいる。常に需要がある就職先、英雄になりたいだとか才能があるとかで入ってくる連中もいるけど」


 トレワは明らかに前者だった。彼女のまとう雰囲気からそれは明確だった。


「チームワークは必要。だけど、仲良しこよしでやっていく必要なんてない。…どうせ、この部屋も手狭じゃなくなる」


 分かっていて誰も口にしなかったことを堂々と口にした。死亡、怪我、退職、理由は何であれ、最初の数ヶ月で脱落者が多いのは有名な話だった。そして四人にしては狭い部屋。入浴時間の割り振りを見れば、どう見ても先輩の部屋は人数が少ない。


 そして、本当にこの部屋からも住人が消えることを、トワはまだうまく想像できていなかった。


 ーー✖︎ーー ーー✖︎ーー ーー✖︎ーー


 そして時間を遡る。


 人類解放戦線のメインビル、9階にて会議が行われていた。都主であるロウジャは上座、周りを役員が固め、次に各隊長、その後ろにサポーターが控えていた。


「…第零部隊も、内部では公表すると?」

「ああ、今までは存在や隊長しか公になっていなかったが、今期からは他の隊同様だ」

「しかし、良いのですか!?彼らはーー」

「何のために洗ったと思っている。飴も与えなければ」


 ギャアギャアと煩く言葉を交わす役員を、隊長達は厳しい目で見ていた。無論、こちらに視線が飛んだ瞬間真顔になる。人類は団結している。ーーというのは表向きだ。実際には権力争いや確執が蔓延っている。


(はあ、ぎゃあぎゃあうるせえな…なぁ、お前もそう思うだろう?)


 テッザは隣のレドに囁くが、役員には聞こえないが周りには聞こえる程度だ。テッザはこういうところがガサツだ。


(まあ、最終的な結果は分かっている。確かにこの議論は無駄だが…いつものことだ)

(そうですよ隊長、聞かれたら大目玉だし)


 ゾグも宥めるが、テッザはニヒルな表情をやめない。


「そもそも君たちも知っている通り、第零部隊は二ヶ月間の休止に入る。その間、動ける隊員達はそれぞれ適した部隊で働いてもらおう。そして、隊長およびサポーターは訓練部隊行きだ」


 ロウジャの発表に、役員だけでなく隊長とサポーター達も固まった。


「は、それは何というか…」

「宝の持ち腐れではないですか」

「二人を第四部隊に組み込めば砦戦の被害も最小限に抑えられます」

「…無論、砦には行ってもらう。その後だ。それとも何だ、君たちがその役を務めるか?」


 わざわざ自分の部隊の戦力が低下させる隊長などいない。いつもならば。


「発言宜しいでしょうか」

「許可する」


 手を挙げたのはテッザだ。


「今期も例年通り二つ訓練部隊を設けるならば、もう一人の隊長はコード204、アヴォ・ドキに任せてもらえないでしょうか。彼に隊長としての経験を積ませたいのです」

「勿論だ。結界も広がっているため、分割案自体は決定済み、候補として有利になるだろう」


 まばらな拍手の後テッザは再び座った。その際、レドに囁く。


(あいつのこと、頼んだぞ)

(そんなんでいいのかよ…あいつももう隊長候補だろう?)

(腕も人脈も、色々足りてはいるが、初対面のヒヨッコを率いるなんて慣れないことをすればボロが出るさ。サポートしてやってくれ)

(て言っても隊長はサポーターじゃないですけどね、はは!)


 後ろのゾグが茶々を入れる。最後の笑いはギリギリ聞こえたようで、「静かに!」と役員に注意されてしまった。


「にしてもですよ、第零部隊のサポーターまで出して良いのですか!?」

「第三都市から出るわけでもあるまい」


 今度はレドがす、と手を上げる。無言で発言を促され、レドは後ろにニャットがいるのを気にもせずつらつら言葉を連ねた。


「ご存知の方も多いと思いますが、この通りうちのサポーターは極度の引っ込み思案で、コミュニケーション能力に欠けます。訓練部隊ではその改善も期待できます」


 う、という苦しそうな声が聞こえても続行だ。


「何より、日頃から交流を持つことによって信頼は生まれてきます。万が一の際に、対立を避け、むしろ協力することも可能性としてはあります」


 役員のざわめきは止まらない。


「何にせよ、もう会議も終わる時間だ。異論があるならば後で理由と代案をまとめて私に提出したまえ」


 こう言われてしまえば、群れている役員は押し黙った。隊長達は皆鼻を明かした気分で笑う。心の中で。


 ロウジャと役員が退室し、会議室には隊長とサポーターだけが残った。彼らは役員以上にうるさく言葉を交わす。


「よー、レド!今度の砦は頼りにしてるよ!」


 レドに近づいてきたのは緑色のドッグタグをつけた背の高い男だ。


「ああ、“互いに”頑張ろうな」

「おお怖い。後で詳しい様子を教えてくれよ。あのクソサポーター、信用ならないから」

「はいはい」


 いつものようにあしらっていると、くい、と衣服が引っ張られた。


「ニャット…お前いい加減隊長ぐらいまともに話せるようになれよ。今度は新入隊員15人くを相手するんだぜ」

「やっほー、ニャットちゃん♪」


 挨拶された瞬間身を引っ込めるが、やはり全く隠れられていない。レドは171cm、ニャットは189cm、そして目の前の第四部隊隊長、イカバ・レンゲルは183cmだ。レド越しにバッチリと目が合ってしまい、ニャットはさらにしゃがみ込んだ。


「あはははは、ショックだなぁ、怖がられるなんて」

「あ、いや…そういうつもりじゃ…!」


 わたわたと手を動かして弁解しようとしているが、大柄な男性が縮こまったまま奇怪な動きをしているだけだ。


「あーあ、チェマにも会ってくれないし、やっぱり君はうちの部隊が苦手なんだね」

「………!」

「うちのニャットをいじめるのもそこら辺にしてやってくれ」


 見かねたレドが間に入ると、ニャットは瞳をキラキラさせて「レドぉ!」と体を寄せた。


「もー、そんなに甘やかすからニャットちゃんがヘタレのままなんだよ!」

「あーもうキリないからさっさと隊室戻れ!」


 追い立てればイカバはようやく出ていった。


「…ニャット」

「ん、何?」

「あいつずっと一人だったよな?」

「うん、俺ずっと見てたけど今回の会議はサポーターなしだったね」


 一人、また一人、今度は四人、部屋から人が抜けていく。


「…電気はお前らが消せよ」

「ん」


 最後の一人が退室し、二人きりになった。


「人がいなくなったな」

「こっちの方が居心地いいや」

「お前なぁ…はぁ、先が思いやられる」

「お、俺も頑張ってはみるよ!」


 むん、と力瘤を見せるニャット。微塵も可愛くない。身長に加え、かなり筋肉もあるのでただ筋肉を見せつけられているだけだ。


「少しづつ慣れていけばいいさ。俺が前に出るからお前はいつも通りサポートするだけでいい。で、一人一人話せるようになれ」


 にへり、と笑うニャットをレドはぼんやりと見つめた。

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