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Crimson Field   作者: Ritchel
Welcome and Goodbye
3/7

親しみと憧れと


 何とか異形のものを倒し、喜びの空気が受験生全体に広がっていった。


「スージャ、大丈夫か。全く…無茶をするな」

「ああ。俺は…リャックを信じているから」


 肩を貸し、結界内に戻る2人を待っていたのは歓迎の嵐だった。


「良くやってくれた!!」

「ありがとう!」

「すげーよ!主席間違いなしだな!」


 面映そうな様子のデドイを、スージャは微笑ましそうに見つめる。そんなスージャにリャックが慌てて治癒の術を施す。


「スージャさん」


 かちゃり、と固いもの同士がぶつかる音がする。トワがスージャの刀を回収してきたようだ。


「どうぞ…あ、どこに置いておけばいい?」


 スージャは怪我の治療中だ。本人に渡すわけにはいかない。


「そうだな…一本は君が持ってくれ。デドイ、もう一本は君が持っていてくれ」


 デドイは無言で刀を受け取る。大切な刀を預ける信頼が見てとれた。そこに、1人の受験者が近づいてきた。


「…色々言って悪かったよ。あんたは強い」

「お前は…」


 そう、灯りでデドイと揉めていた受験者だ。


「礼を言おう。助かった」

「あー、ランプか?いや、お前らそれ以上に色々やってくれたし」

「そのことじゃない。トワの後に続いて石を投げて注意を引いたのはお前だろう。お前のおかげで他のものも行動に移した」


突然頭を下げられ、件の受験生は口をモニョモニョと動かすと知り合いがいるのか結界の奥の方に引き込んでしまった。


「トワにも礼を言おう。戦いに慣れていないにも関わらずよく気を引いてくれた」

「私なんか…全然…。いつも訓練しているはずなのに、怖くて動けなかった」

「最初は誰でもそんなもんさ」

「そうだよ!僕も一応刀を使えるけど、いつも敵の前に立てない。後ろからとか、神力に頼ったり…」


 スージャもかなり回復し、4人で互いを褒め合う。


 ピチョン


 その時、水滴が落ちた。


 ズン…ズン……ズン……!


 和やかな空気が一瞬にして止まる。明らかに人間ではない足音。灯はもう、左側にしかない。皆で戦えば勝てる?本当に?デドイは兎も角、スージャでさえサポートに徹し怪我を負ったのだ。一体何人が戦力になるだろうか。


「よし、全員生きてるな」


 その場に似合わぬ平静な声が響き渡った。


「「「レド!!」さん」試験官!」


 1人と言え、正隊員の隊長だ。連れてきた2人の受験生を結界内に押し込むと、スラリと刀を抜いた。


「さて」


 異形のものはレドと目があった瞬間、突然理性を失ったように襲いかかってきた。異常なまでに興奮しているがその分速い攻撃を繰り出す。


「遅いな」


 もう、レドはそこにいない。す、とまるで柔らかいものを斬るように刀が入っていく。鱗はまるで役に立たない。


「ヴァアアヴァヴァヴァ!!」


 汚い声をあげ、必死に反撃する様子をまるで赤子の手をひねるように相手している。


(すごい…なんて綺麗なの)


 前傾姿勢をとったかと思えば高く跳躍し回転斬り。空中で避けられないと思った攻撃は片足でバランスをとり反撃をしている。トワの目には全てがしっかりと映った。


(一つ一つの動きはまるでお手本みたい。無駄がない。どこに力が入ってるのか分かりやすい…)


 ズン…


(…?この足音、やけに遠い…。あいつじゃない…?やっぱり、もっと向こうから聞こえてくる!)


 さらに敵が近づいてきていることに気がついたのはトワだけではないようで、デドイも声をあげた。


「レド試験官!」

「わかってる!安心しろよ、こんなの日常茶飯事だ!」


 一瞬で身を伏せ尻尾の薙ぎ払いを回避すると、さらに後ろから現れた異形のものに刀を突き立てた。正面を向いた最初の1匹の鉤爪は、避けようがない。と、思われた。カンっと硬質な音がした。足だ。足で押さえている。


「仕込み靴か!」


 受験者全員が、その戦いに見入っていた。片足で立ち、もう片足は異形なものの爪を押さえているのに、全く体幹はぶれていない。暫く力は拮抗していたが、爪を抑えられていた方が諦めたのか、引き下がる。

 それよりも速くレドが追撃した。散々刀を弾いたはずの鱗はやはりレドの前では意味をなさない。首が落ちた。

 残った方は警戒をとっくに通り越し、怯えたように吠えている。無慈悲にも、ゆっくりとレドは近づき、戦いは終わった。それはまるで死神が黙々と仕事をこなすようだ。


「すごい…」


 すごい、以外の表し方は今のトワには思いつかなかった。ワッと歓声が上がる。自分たちもこんな風になるんだ、という明確なビジョンだ。レドは大したことはしていないように手を挙げて応えた。


「とりあえず報告だ。やはり入り口までの道も塞がっていた。だが非常口がまもなく開通する。受験生は怪我の如何に関わらず一旦全員上階にて待機だ。医療班は呼んである」


 そう言うとレドは受験生の数と状態を確認した。全員いるが、スージャを始め幾人かは怪我を負っている。リャックたち神力使いが治癒の術をかけているものの、一応報告する必要がありそうだ。


「あとは待つだけだな。デドイ、どうだった?」

「どうだった、とは…?」

「何か有意義なことを学べたか?どんな失敗があった?」


 ふむ、と顎に手を当てて考えたあと、後ろでわいわいと話に花を咲かせている受験生たちをみやった。


「スージャから学べたことは多くありました。このような閉鎖的な環境では人間関係が大事なので、不和を起こさないようにわかりやすく丁寧に説明しなくては。それと、俺にはまだ他者を信じる、と言うのがイマイチよく分からないですが…信じることによって勝てる戦いもあるのだと」

「上出来だ」


 デドイはレドより上背があるにも関わらず頭をわしゃわしゃと撫でられ、髪をボサボサにされ顔を顰めたが拒否はしなかった。


「他の受験生も、何か一つでも学べてればいい。これからお前たちが入るのはこう言う世界だ。1人ではどうにもならないこともある。役割分担のためには信頼も必要不可欠」


 ゴ…ゴトン…と重い音がし、受験生たちは再び身構えるが、レドはリラックスした様子だ。それが非常口の向こうから聞こえたのが分かると、受験生たちは固唾を飲んで見守った。

 そしていよいよドアノブがかちゃりと回り、ドアが開いた。現れたのは190cmはあろうかと言うゴーグルを身につけた男だった。


「レド〜〜!」

「ニャット!」


 しゃらららら〜と効果音がつきそうな様子で2人は手を広げ近づいていく。感動の再会のようだ。


 ドゴ


「ぐっふ」

「来るのが遅ぇえええ!」


 全力だ。誰がどうみても全力だった。ニャットと呼ばれた男はもろ鉄拳を受け、腹部を押さえた。


「ひ…ひどい…」

「ぅるせっ!試験ずっと見てただろ!」


 完全な身内ノリに、受験生たちは傍観することしかできない。そんな彼らの存在に気がついたニャットは咄嗟にレドの後ろに隠れる。…が、190近い大男が170ほどしかないレドに隠れられるわけがなく、酷く滑稽な光景だ。


「おい、自己紹介しろ」

「……ニャットです」


 一瞬顔を覗かせたのちすぐに引っ込んでしまう。


「正隊員なのに挨拶もまともに出来ないんですか」

「グフッ」

「あんまりいってやるな。確かにこいつは対人関係ポンコツだけど」

「トドメ刺されたぁ…」


 くるりと振り返り、ニャットをしっかり捕まえると前に押し出した。


「こいつはニャット・ビン。俺のサポーターだ」

「ど、どうも…」


 オドオドとしているが、その性格に見合わず体には体躯に見合った筋肉がしっかりとついている。


「戦闘員ですか?」

「一応戦闘員ではあるが、文字通りサポーターだよ。後方支援や連絡とかな。あ、今回受験生の討伐数と等級を記録してるのもこいつ」


 ニャットについて話しているにも関わらず、会話を繰り広げているのはデドイとレドだ。


「さて、さっさと上に行くぞ。歩けない奴はいないな?ニャット、先行け」


 ニャットに続き、ゾロゾロと何かの群れのように受験者たちは非常口に吸い込まれていく。トワはやはりスージャやリャック、デドイ、レドと共に最後方だ。非常口の向こう側には巨大な瓦礫が幾つもあったがどれも端に避けられている。


(ニャットさんがどかしたんだろうけど…流石に持ち上がらないはず。どうやったのかしら)


 レドは「お前には情操教育が必要だ」とかなんとかデドイに言っており、スージャとリャックは互いに微笑んで言葉を交わしていた。


(あ、笑った顔そっくり)


 自分は、あんな表情長らくしていない気がする。


「友達、作らなきゃな」


 ポツリとつぶやかれた言葉を聞いているものは殆どいなかった。

 行きと同じ段数上がれば、一階に辿り着いた。どうやらかなりの大ごとになっていたらしく、受験生たちは一人一人状態を確認され、少しでも怪我があれば処置が施された。


「レド!大丈夫だったか?」

「俺がヘマするかよ」

「隊長!」


 そしてテッザとゾグも合流し、簡潔に謝罪と今後の対応が伝えられる。


「試験結果については通常通り3日後に通知される。何か疑問点があればいつでも受け付ける。ただ、受験生も含め部外者は行動範囲が限られているので、声をかけるように」

 以上、解散、と言われて怪我の治療があるもの以外はざわめきつつ出口を目指す。トワも色々あったし帰ってゆっくり休もうと思ったが、何者かに肩をがっしり掴まれた。


「トワ、すまないが付き合ってくれないか」

「は、はひ…?」


 振り返ればすぐそこにデドイがいた。デドイはトワよりもずっと背が高く、顔もなんだか迫力がある。


「1人では何かトラブルが起きそうだからな。だがスージャやリャックはもう帰っていいと思うんだ。そしてお前はレド試験官と長くいただろう」


 確かに受験生の中では最もよく一緒にいたが、レドとの関わりは薄い。が、デドイは他に声をかける人材が見当たらないのだろう。別に断る理由もない。トワは引き受けてしまった。


「で、どこに行くんですか?」

「敬語は長ったらしくて嫌いだ。階級ではなく年齢に基づく敬語がな」

「年齢もそうだけど…あなたは私より強いから、尊敬の気持ちというか…」

「尊敬しているなら敬語をやめてくれ」

「は、うん」


 デドイはエレベーターに向かったが、操作ボタン近くにあるパネルは「身分証を提示してください」というばかりでいうことを聞かない。


「あら、受験生は乗れないわよ。何か用?」


 ドッグタグを首から下げた女性が声をかけてきた。髪色は甘い。


「こちらをレド試験官に借りたのですが、返却を忘れていました」


 キラキラと輝く小さなもの。トワはそれに見覚えがあった。


「隊長バッジ!」

「あら、レドさんの?ああ、そういえば珍しく試験に関わるって話を聞いたわね。…一緒にくる?」

「はい、責任を持って隊室まで届けます」


 女性がドッグタグをかざすとエレベーターは命令を聞くように静かになった。


「そういえばですが、例年試験に隊長が2人も参加するものなのですか?」

「いいえ、テッザさんはよく参加するけどレドさんは珍しいわ。私の知る限り初めてね」

「あ、そういえばゾグさんがテッザさんのこと隊長って呼んでましたね」


 何せ筆記試験など戦力はいらない。後半の実技も例年は何事もなく安全に行われるものである。隊長が2人は過剰戦力だろう。


「暇なんですか」

「あなた…直球に物を言うわね…。まぁ、今は大きな案件はないし、レドさんの部隊はお休み中。暇と言っても過言ではないけれど」


 甘い髪の女性はチャリ、とドッグタグを触る。


「あ、そう言えば貴方たち名前は?私はスカよ」

「デドイ・シジャスです」

「トワ・フリャです」

「合格したら後輩ね。デドイ君はもう人類解放戦線に詳しそうだけど」

「はい。広報には目を通しているので。テッザ試験官は自分の記憶が正しければ第二部隊の隊長でした。ゾグ試験官は第二部隊のサポーターです」

「その通り!すごいね!全員覚えているの?」

「まさか、隊長とエース、主なサポーターだけです。だから、変なんです」


 突然デドイの声の調子が変わり、トワは思わず彼の顔を見つめた。先ほどまでの幾らか柔らかい調子は消えている。


「自分はレド、と言う隊長も、ニャットというサポーターも見たことありません」

「…」


 スカは相変わらず甘い髪に甘い表情を浮かべている。しかし、全く変わらない、それ自体が違和感だ。


「…そ、そういえば隊長にはどんな呼び方してるんですか?ほら、さん付けの人もいれば隊長と呼ぶ人もいますよね!」


 妙な空気に耐えられずトワは咄嗟に疑問を口に出す。


「別に呼び方は自由だけど、個人を識別出来たらいいわ」

「でもゾグさんはテッザさんもレドも隊長って」


 そういうと、スカはきょとんとしたあと大口を開けて笑った。


「ふふふ…あっはははは!あー面白い」

「え、スカさん?」

「ああごめんなさい。あれはね、ゾグは人を覚えるのが苦手すぎて、とりあえず隊長バッジつけている人を全員隊長呼びしててそのままなのよ」


 ウィーンと滑らかな音を立てて扉が開く。一階とは打って変わって細い道が入りくねっているようだ。


「さ、第零部隊はすぐそこよ」


 歩き慣れた様子のスカについて行けば、「第零部隊」と書かれた黒い看板を掲げた部屋がある。


「誰かいる?」


 コンコン、とノックをしても全く反応がないため、スカは勝手にドアを開けて入室した。


「入っていいんですかね…」

「当たり前よ。私第零部隊の隊員だもの」

「…」


 デドイは「もっと早く言えただろ」と言いたげな視線を送った。

 部屋は整ってはいるが物も多い。中央にある長机、椅子、そして椅子の上で寝ている人。そう、人だ。椅子を三つ四つ連ねて横になっておる人がいる。


「ああ、またこんな所で寝ている…。他の人は出払っているようね。しょうがないのでここで隊長が来るまで預かっておきましょう。あ、トワちゃん、お菓子は好き?」

「お菓子!?」


 お菓子なんて滅多に食べれる物ではない。そんな贅沢は祝日や誕生日にしか許されない。とは言え、がっつくのもはしたない、と思い、ヨダレを我慢しながらも「食べていいんですか?」と聞いておいた。


「お菓子…?」


 横からの声の方を向くと、デドイがキラキラと瞳を輝かせていた。


「あらあら、もちろん食べていいのよ?お茶を入れてくるからちょっと待っててね。あ、座る場所は気にしなくていいわ」


 トワがどこに座ろうか、と考えるより先にデドイは着席していた。


「デドイさん、お菓子好きなんですね」

「嫌いな人は見たことがないが。君も好きだろう」

「はい!」


 突然デドイが親しみやすく感じられ、トワは心が暖かくなった。寝ている人の反対側、デドイの隣に座った。


「にしても、スカさんお菓子をくれるのは優しいけど第零部隊ってこと隠してたなんて意地悪ですね」

「隠していた、というより聞かれなかっただけだと思うがな。まぁ、薄々そんな気はしていた。トワ、お前は人類解放戦線、特に隊員についてどの程度知っている?」

「あ、あんまり。私も一応広報を時々読んでるけど…」

「お前はまだ15だろう」

「年齢って関係あるんですかね…」

「相関関係ならあると考える。例えば、あの広報誌を12歳以下が全て読むのは難しいだろう。人類解放戦線が結界を広げただの2級を倒しただのは分かりやすく書いてあっても、あの後半の細かい部分を読むものはそうそういない。準備しておくに越したことはないが、これからでも十分間に合う」


 かちゃり、と硬質な音と、甘い香りが部屋を包んだ。スカさんがお盆の上にお茶と焼き菓子を乗せて運んできた。


「はい、どうぞ」

「わあ!」

「いただきます」


 お菓子はサクサク、砂糖の味だけじゃなくて小麦の美味しさもする。隣からもサクサクサクサクという小気味の良い音がし、容易に小動物のように頬張っているのが想像できた。


「改めて自己紹介するわ。私はスカ・ルタ。第零部隊所属の戦闘員よ」


 チャリ、とドッグタグを持ち上げて見せる。


「隊員が二つドッグタグを付けてるのは知ってるでしょう?一つは部隊を示す色付きで隊員番号が刻まれている物。もう一つは名前が刻まれている物なの」


 確かにスカが掲げるドッグタグのうち一つは黒く、3桁の数字が刻まれている。もう一つはシンプルな鋼鉄の色をしていて、確かにスカ・ルタと名前が入っている。


「貴方たちは入りたい部隊があるの?」

「そうですね…人を守っていることを実感できる部隊がいいです」

「自分は外で戦いたいです」


 スカはカップを置くと、「そっか」と微笑んだ。


「失礼ながら、第零部隊についてお伺いしても宜しいでしょうか」

「勿論。第零部隊は広報誌に載ったり部隊対抗戦の出たりしないから知らないのも無理ないわ」

「新設部隊ではない、と」

「ええ、第一部隊や第二部隊のように古くからあるわけではないけれど」


 人類解放戦線には八十年ほどの歴史がある。最も古いのは当時からあった第一・第二部隊だ。


「じゃあ第零部隊は何するんですか?」

「うーん、任務の大半は第四部隊と似てるわね。そういう意味ではデドイ君には向いているかも。でもこの部隊はスカウト制だから…」


 12個あった焼き菓子は半分になっている。


「あ、でも隊長は訓練期間も担当するって言ってたわね。うまくいけば、第零部隊の後輩ちゃんの誕生ね」


 ひょい、と焼き菓子がまた一つデドイに吸い込まれた。


「私は訓練期間で自分に合った部隊を探してみます」

「頑張ってね」


 その時椅子の上で寝ていた男がくぁ、と起き上がった。


「ううん…今何時…てか誰」

「未来の後輩ちゃんよ。さて、このグータラ男はオリ・クジャ。同じ第零部隊所属」

「初めまして」

「お邪魔しています」


 オリは「おー」となんだかよく分からない返答をすると、焼き菓子を一気に二つ掴んで口に放った。


「あ、私の分…」


 スカがもう一枚食べる。


「残りは貴方たちで食べて」


 12枚あったので、4人で分ければ1人3枚だ。しかしスカはトワとデドイに当初の1人4枚づつ食べて良いと言っているのだ。


「いや、…先輩も入れて4人だから」

「ありがたくいただきます」


 トワが遠慮した瞬間、デドイは手を伸ばした。デドイはもう3枚お菓子を食べている。そう、つまり4枚目だ。


「あ、ああ〜」

「こんな機会滅多にないからな。くれるものは貰う」


 サクサクと口を動かすデドイを見ているとバカらしくなり、トワもおずおずと一つ掴む。


「あら、人類解放戦線は甘味が支給されるのよ。私たちはいつも食べてるから遠慮しないで」

「でもこれ第零部隊の菓子だぜ?」

「オリ?まさかまだ食べる気じゃないよね」

「まさか後輩から巻き上げるわけ。俺は暫くしたら別の任務あるから訓練室行ってくるぜ」

「…気をつけてね」


 椅子の背にかかっているジャケットを乱雑に取るとオリは無言で出て行った。


「……」


 トワは最後の一つのお菓子を口に含んだ。お茶を飲むと程よく柔らかくなりさらに美味しくなる。


「ごめんなさいね、最近色々合って。普段はもうちょっと気のいい人なのよ。…じゃあ、バッジは渡しておくから」

「はい。じゃあ、お邪魔しました」

「失礼しました」


 2人でぺこりと頭を下げて退室する。スカも手を振って見送った。部屋は静かになった。


「オリも立ち直るのに時間がかかりそうね…」


 棚の上には写真が多く並んでいるが、その幾つかは伏せられている。先ほどお茶とお菓子の準備をしに行った小さなキッチンにも、ロッカールームにも、まだ私物が残っている。それを見た瞬間、彼らがいないということをまじまじと実感させられる。


 皆はまるでそのことを考えないようにしているみたいに任務に明け暮れている。しかしスカはまだ戦闘できるほど回復していない。じわりと痛む腿を押さえつけた。


「…私も、仕事してこよう」


 まずは隊室の掃除。それが終わっても事務所に行けば雑用くらいさせてもらえるだろう。空気の入れ替えのため窓を開けると、風に吹かれたカーテンが写真たちを撫でた。

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