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Crimson Field   作者: Ritchel
Welcome and Goodbye
1/7

雨上がり


「…本部、こちらコード001、作戦を開始する」

「…了解。予定通りD3から突入せよ」


 雨の中、バイクで移動する7人の集団がいた。皆一様に顔も見えぬ黒の服に、刀を中心とした武器を背負っている。

 バイクを強引に止めると、目前に聳える砦のようなものに向かって投擲で縄をかけ、重力を感じさせない動きで登り始めた。ヘルメットのような装備の中で女の無機質な声が響く。


「目標は二階の最奥。時間はかけられない」

「分かっている…が、少々邪魔が入った」


 7人全員が登り終えたが、そこには異形のものたちが待ちうけていた。いずれも鋭い爪や牙を持っている。


「隊長、ここは私が引き受けます。目標を目指してください」


 隊員の一人が刀を抜きながら言った。


「分かった。だが一人でこの数はきついだろう。おい、オリーー」

「いいえ、おそらくこちらの襲撃を察知されています。隊員を無駄に割くわけにはいきません」


 そういうと刀を構え、フゥ、時を吐いた。隊長と呼ばれた男はしばし考えていたが、「よし、分かった。先に進む。あとは俺に続け」と返した。皆、これが厳しい任務であることはわかっていた。感情を押し殺し、歩みを進める。

 二階の渡り廊下に差し掛かった時、突然横から二つ何かが飛び出し、一人は咄嗟にかわしたが、隊員の一人に体当たりを喰らわせた。そして運が悪いことにーーいや、意図的だったのかもしれないがーー反対側の窓ガラスを突き破った。避けた隊員が咄嗟に手を伸ばすが間に合わない。体当たりを食らった時にヘルメットが割れて、見開いた目が見える。黒い髪から覗く顔には、自分はここで死ぬのか、と言った表情がありありと浮かんでいた。


「…!!!」


 全員が一瞬足を止めた。だが、隊長の男は再び前に進んだ。


「隊長…!助けに……!」

「もう助からない。行くぞ」

「でも生きてるかもしれないっ!まだ助かるかも…!」


 ないも食い下がる隊員に隊長は振り向いてごく冷静に告げた。


「下には化け物どもが集まっている。おまけに防御面もなしに本当に生きて逃げられると思っているのか」


 反論した隊員も分かっていた。もう、助からないと。訴えかけてきた感情を無理やり無視し、隊長に続いた。


「目標はその部屋の中にいます」


 情報を確認した隊長は、扉に耳をつけ、ドアノブを触り、罠がないことを確認した。そしてハンドサインで突入の合図を出す。

 やはり部屋の中にも複数の異形のものたちが這いずっていた。全員が抜刀する。


「行くぞ」


 短い掛け声と共に、5人は地面を蹴った。

 その15分後、4台のバイクが音を立てて砦から去った。


 ーー✖︎ーー ーー✖︎ーー ーー✖︎ーー


 ろくに舗装されていない道路を走っているため、このバイクといえども激しく揺れる。


「…隊長、すみません」

「何故謝る。謝るのは俺のほうだ。俺は上に嫌われているからな、危険な任務ばっかり押し付けやがる」

「頼りにされてるんですよ…」


 その隊員は足から血を滴らせながら隊長の胴にぎゅっとしがみついた。


「まもなく到着だ。あと少し我慢しろ」


 隊長は通信を入れる。


「こちらコード001、任務を達成し帰還途中だ。004は足を負傷しているため俺のバイクに乗っている。…残念だが、002と006は…」

「了解。ゲートに迎えが行く」


 通信が切られそうな気配がしたため隊長は慌てて付け加えた。


「ああそうだ、しばらくこんな任務は無し、な」


「…任務に直接関係ないことは私ではなく都主さまにお願いします」


 しばらく隊員たちは無言で森を抜け、荒野を走った。やがてゆっくりと大きな都市が現れた。周辺をぐるりと高い壁で囲われた城郭都市だ。ゲートの前で隊長がバイクを降り、カードをかざす。


「こちら第零部隊、帰還した。ゲートを開けてくれ」

「…第零部隊の帰還を確認しました。任務達成、ご苦労様でした」


 …ズズズズズ、と思い音がしてゲートが開く。ゲートは大型の車が通れるほどの大きさだ。そう、ちょうど大型の車がゲートの向こう側に止まっている。


「おかえり!」


 車の運転席から高身長のゴーグルをつけた男が降りてきた。


「迎えを寄越すって言っておきながらニャットかよ…」

「いや、俺が迎えにきたかったんだ。さ、バイクを積むぞ。ああ、ゾグも連れてきたから、バイクを止めたら中で簡単な手当をしよう。スカはバイク運ばなくていいよ」


 隊長は後ろに乗っている隊員を下ろすとニャットと呼ばれた男に預け、他の隊員と一緒に車の後ろにある収納部分にバイクを入れた。隊員は皆大なり小なり負傷しているが、足を負傷した隊員はかなり出血があるので、車内で手当を受けている。

 隊長はようやく仕事が終わった、というようにはぁ、とため息をつき、ヘルメットを外した。固まった髪型をぐしゃぐしゃと崩す。


「よお。特級任務でも傷一つ無ぇとは。流石は第零部隊隊長兼エース様だぜ」


 助手席にいたゾグらしい男は隊長に軽口を叩いた。


「実質的なエースはあいつだったがな…」


 バタン、と扉が閉まる音がした。バイクも隊員も皆車に乗ったようだ。


「じゃあ出発するね」

「ああ、頼むぞニャット」


 車は滑らかに動き出した。暫しの静寂の後、隊長が口を開く。


「クソ上層部には俺が報告に行く。お前たちはちゃんとした手当を受けろ」

「ありがとうございます」


 残りの3人は無言で僅かに頭を下げる。無理もないだろう。仲間を二人も失ったのだ。ゾグがふーっとタバコの煙をふかす。車内には再び静寂が訪れた。車は畑を過ぎ、人が行き交う街を通り、大きな施設に辿り着いた。


「じゃ、俺は車を戻すから。ゾグはスカを手伝って」

「言われなくてもわーってる」


 ゾグはタバコの火を消すと後ろに周り、足を負傷した隊員ーースカを背負った。施設内に入れば見かけたものが声をかけてくる。


「お、任務おつかれ」

「おかえり〜」


 正直、彼らに構っている心の余裕はなかった。第零部隊は他の部隊と事情が異なるため、横のつながりが薄い。同じ仲間という意識はあっても、いつ出撃するのか、どのようなメンバーでいくのかは知られていなかった。

 今は、散っていった二人への悼みの言葉が欲しかった。

 隊長は軽く手を上げて彼らに応えたが、皆逃げるようにエレベーターを目指した。


「俺は上に行くからな」

「ああ、俺がみんなを医務室に連れて行くから」


 ニャットとゾグに隊員を任せ、医務室のある4階で別れる。隊長は10階のボタンを押した。窓はポツポツと雨に打たれている。やがてエレベーターは静かにその扉を開けた。他の階とは違い、落ち着いた上品な調度品で揃えられている。そこを隊長はズカズカと歩いていった。


「もう少し落ち着いて歩けんのか」


 正面の席には一人の老人が座っており、書類仕事をしていた。


「落ち着いていられるか。今回の任務で仲間が二人も死んだんだぞ」


 とても都主に対する口調とは言えないが、老人は気にした様子もなく仕事を続けた。隊長も何もなかったかのように報告を開始した。


「目標は撃破した。勿論雑魚を含めた殲滅はできていない。コード002と006は死亡。バイクは3台置いてきた」

「分かった。あとで第四部隊が大部分を殺し、浄化作戦を決行する。お前の隊員は人類の存続に寄与した」

「…休暇をくれ」

「一週間やろう」


 隊長の男はぐっと拳を握りしめた。


「ふざけんな!こっちは二人も死んで、スカはしばらく戦えねぇんだぞ!他の二人も怪我を負った」

「無論休暇後もしばらく特級の任務はやらんぞ」

「だが…エースも居ない。精神的負担も大きい」

「人類解放戦線は常に人手不足だ。誰かがやらねばならない」

「俺ができる限り働く。…俺は、第零部隊はもっと表に出ていいと思っている」


 それを聞いて老人は初めて隊長を見た。


「ほう?第零部隊は独立した部隊だからこそ秘匿性の高い特級任務ばかりなのは、お前も知っているだろう?なぜそう思った」

「内部の連中は知ってるし、まぁどこかの馬鹿が漏らしたんだろう、噂としては市内にも広がっている。第零部隊はリスクの割に新入隊員が少ない。他の部隊よりも要求される腕前が高いというのもある。だからこそ候補者を増やすべきだ」

「なるほど。一理ある。ではこうしよう。第零部隊は二ヶ月の間部隊として活動しない。お前の隊員は他の部隊からも引くて数多だろう。その間は動ける隊員は臨時隊員として活動。お前にやってもらうことは二つ」


 老人は二本指を立てて説明する。


「一つ、第四部隊の砦攻略に参加しろ。もう一つ。今度、入隊試験がある。お前はそこで試験官を務め、そして育成に携われ」

「は…?」


 隊長は混乱した。自分はてっきり危険な前線に送り込まれると思っていたからだ。


「お前が言ったじゃないか、第零部隊の入隊者が少ない、と。今までもお前は隊員を自分でスカウトしてきた。ヒヨッコたちをお前自身の目で見極めろ。…他に話すことはないな?」

「あ、あぁ」

「よろしい、隊員にはお前から話せ。試験に関しての連絡は後々」


 老人は追い払うように手を振ったので、隊長は部屋を出た。いつの間にか、雨は止んでいた。


 ーー✖︎ーー ーー✖︎ーー ーー✖︎ーー


 人類解放戦線のメインビルの前に、一人の少女が立っていた。名前をトワ・フリャ。15歳になったばかりの少女であった。親のいないトワは今年で働き始めなければならない。人類解放戦線の試験を受ければ大抵は受かり、食っていけるが、彼女は戦闘部隊になりたかった。自分と同じような人を増やしたくない、少しでも人の役に立ちたいーー。もちろん事務や開発も立派な仕事であると認識していたが、直接助けられる戦闘部隊に就きたかった。


「受付はこちらでーす!」


 受付では女性が声を張り上げている。人類解放戦線は年2回入隊試験を設けているが、人気の就職先だ。

 トワは受付に向かい、受け取った紙に名前や住所などを書き、受験番号をもらうと指示された部屋に向かった。

 普通に戸を開けたはずだが、取ってつけが悪かったのか思ったより大きな音が鳴ってしまい、教室内の目が一斉にトワの方を向いた。


 (…!堂々としなきゃ!…別に学校じゃないし自己紹介とかはせずに、空いてる席に座るだけ)


 トワは若干ぎこちないものの胸を張って後方の空いている席に座った。隣の席には熱心に試験の注意事項を読んでいる。トワと同じか、少し年上くらいだ。トワが見ているのに気がついてこちらを見た。


「やあこんにちは。俺はレド・ハドゥア。よろしく」


 そう言って少年は手を差し出した。トワは少し迷ったのち、「よろしく」と言って握手をした。


「何かあったら組もうぜ」

「?」

「筆記では無いだろうけど、戦闘試験ではペアで組めとかあるかもしれないだろ」

「なるほど…でも、私隣に座っただけよ?大切なペアをそんな簡単に決めていいの?」


 トワがそう返すと、レドはきょとんとして笑った。


「お前正直だな。腕に自信ないなら組んだほうが得なのに」


 確かにそうだ。そう思ったトワは名乗っていなかったことを思い出し、慌てて自己紹介をした。


「私はトワ・フリャ。15歳。貴方は?」

「年齢は秘密。剣の腕は普通かな」


 何だかはぐらかされた気分がしたが、トワはせっかくの仲間との仲を険悪にしたくはなかったため、「そう」と一言返しただけだった。

 どちらにせよ、レドはトワより年下ではないことは確定している。何故なら人類解放戦線の志願は15歳からだ。試験に落ち続けている・転職などで年上の志願者は溢れるほどいるが年下はほぼ居ないだろう。と、トワが考えていると扉が開き二人の男が入ってきた。


「ヒヨッコ共、静かにしろ」


 一人は黒髪の男だ。顎に傷がある。後ろの男は茶髪にゴーグルとスカーフのようなものをつけている。二人とも背が高く威圧感があるため、それまでざわついていた試験者達は瞬く間に黙った。それを確認した黒髪の男は口を開く。


「さて、俺が今ここにいるメンバーの試験管を担当する、テッザ・ディだ。こっちは俺の隊のゾグ・リウノ。分かってると思うが筆記・実技の二つの試験がある。今から筆記試験を始める。まさかこの狭い部屋で二人の目を掻い潜ってカンニングが成功するなんて思ってる馬鹿はいねぇよな?」


 そう言ってテッザが部屋中を見渡せばやましい事はなくても目線を逸らす試験者が幾人もいた。


「この部屋にいるのは全員戦闘部隊希望だ。だが大抵受かる筆記試験なんかで落ちたらクソダセェだろ?」


 ゾグが筆記試験の問題と用紙を列ごとに配り始める。その後時間や途中退室に関しての説明があり、開始時間を待った。


「…10時だ。試験開始」


 試験者は一斉に問題を広げる。カリカリと回答を書く音が部屋中に響き、トワは緊張するが懸命に目と手を動かした。しかし、隣の席からはその音がしない。するのは紙を捲る音だけである。


(いけない、集中しなきゃ)


 とは言えど、試験内容は簡単なものだった。基本的な読み書きから基本的な教養、人類解放戦線に関する情報など。人手不足が深刻な人類解放戦線の、甘々な悲しき基準であった。後半は普通の算術問題や工学・神力学の難しい問題があるが、基本問題部分を解ければ合格は確実だ。

 トワは30分を回答に費やし、15分間見直しをしていたが、それも二、三周したので頭の中で戦闘のイメージをしていた。親が死んだ次の日から剣を握り始めた。最初は復讐のためだったが、だんだんその心が薄れ、悲しくもあったが人のために生きようと、ほぼ毎日訓練場に通った。トワの武器はシンプルな刀であった。途中、別の武器を考えなかったわけでもないが、一本芯の通った刀がなんだかんだ好きなのだ。


「試験終了だ。回答用紙を前に回せ」


 筆記試験はあっさりと終わり、枚数を数え終わるとテッザはペンを持って白板に戦闘試験の説明を書き始めた。


「いいか、これから移動して地下に行く。スタート地点から1時間以内にゴール地点まで来い。道中は8〜6級の雑魚がいる。討伐数も加点対象になる。武器は各自自前のものを使ってもいいし、貸し出し武器もあるから欲しいものは言うように。何か質問は?ーーよし、そこのお前」


 トワには質問がある生徒が見えなかったが、どうやら横列にいるらしい。視線をやると、緑髪にメガネをかけた神経質そうな受験生が口を開いた。


「スタート地点からゴール地点まで何キロメートルなのでしょうか。地図などは付与されますか?」

「地図はない…が、距離に関しては走って30分ほどだと言っておこう。もう質問はないな?」


 テッザは教室を見渡すと、一言「ついて来い」と言って教室から出ていった。前方に着席していた受験生からゾロゾロと蟻のように列を成してついていく。とうとうトワの近くの生徒が席を立ったので、刀を握り、忘れ物がないか確認すると前の生徒に続いた。最後にゾグが最後尾につき、ひたすら階段を降りていく。10階以上降りたところで、とうとう階段は終わりを見せた。扉の先には、巨大な空間があった。パイプが張り巡らされ、水の音がする。


「ここがスタート地点だ。この地下水道は一本道。迷う事は無ぇ。スタート地点にはゾグがいる。棄権する場合は引き返して戻っても良い。ゴール地点には俺がいる。もし、途中で何かあった場合は非常口からの脱出を許可する。非常口はちょうど中間地点にある。説明は以上だ。俺は先行する。その間に武器を持ってないやつは武器を貰え」


 そう言うとテッザはさっさと走り、姿は小さくなっていった。


「よし、武器を借りたい奴は隣にある箱の中から取っていってくれ」


 ゾグの座る簡易テントの横には木箱があり、確かに多くの武器が入っているが、その殆どは刀だ。中にはハンマーのようなもの、杖のようなもの、小さなナイフやどのように使えばいいのか全く見当もつかないものもある。この場にはおよそ30人の受験者がいるが、6人ほどが刀を借りた。


「よし。隊長、そろそろいいか?」

『ああ、もうじきゴールに着く。俺が合図をしたら開始しろ』

「りょーかい」


 ゾグは通信機を切り、腕時計を見つめた。受験者はザワザワと互いに情報交換や協力要請をしている。

 トワは剣が苦手、と言うわけでは無いが、実戦の経験はないに等しい。何かあった時のために複数人で行動した方が賢明だろう。腕に自信のある幾人かは一人で行くようだ。


「レドさん」


 ふとレドの方を向けば、他の受験生にも話しかけており、彼らとも共に行動をするようだった。道は薄暗く幅も広い。人数が多い方が良いと考えたのだろう。あまりにも大人数だと統制が取れないが、この人数ならば適度に役割分担ができそうだ。


「俺はスージャ。双剣使いだ。剣にはまぁまぁ自信がある」


 濃い茶髪をした18くらいの男だ。緊張した様子がなく顔にはやや笑みを浮かべている。


「僕はリャック。普通の刀使いだよ。あとちょっと神力が使えるんだ」


 こちらは少し背の小さい、トワと同い年ほどに見える青髪の少年だ。スージャとは違い、やや緊張した様子だ。


「私はトワ。見てわかる通り刀を使うの。よろしく」


 トワも簡潔に自己紹介をした。


「最後に俺だな。もう知ってると思うが俺はレド。刀には自信がある」

「…君たちは珍しい髪色をしているな」


 スージャが口を開いた。よく言われる事だった。最も多い髪色は黒、次に茶髪などがくる。しかし紫の髪は珍しい。トワは母からこの色を受け継いだ。母以外はごく稀にしか見かけたことがない。一方、レドの髪色は燃えるような紅蓮だ。いや、一滴蜂蜜が垂らされたようなまろやかさがある。赤毛ならいるが、こうも鮮やかでこのような色味はトワも見かけたことがなかった。


「そうだな、俺もここに来てからは見かけたことがない」

「ここ…と言うと君は外の出身なのかい?」

「ああ」


 レドがそう答えると、それまで黙っていたリャックは目を輝かせた。


「すごい!僕、第三都市から出たことないんだ。君はどこから来たの?心都?」


 その様子にレドは苦笑いして気まずそうに答える。


「そんな都会じゃないさ…そうだな…第一都市の近くからだ。さて、どうやって進む?」


 レドの体はスージャを向いていたが、視線はトワを向いていた。


「…リャックさんが神力を使えるなら、真ん中にいてもらいましょう。スージャさん、目に自信はある?」

「そうだな、視力はいい方だ。俺が先行しよう」

「じゃあ俺は一番後ろだ。菱形の形でいこう」

「おーい、そろそろ試験開始するぞぉ!」


 ゾグの呼び声により、受験者はゾロゾロと引かれた線上に並ぶ。


「…それでは…試験開始!」


 一斉に受験者が駆けた。

 トワたちも、スージャ、トワとリャックがほぼ並び、最後にレドが続く。まずは中間地点までなるべく早く行く。ゴールまで走って30分ほどの距離とは言われているが、速度も距離も不明だ。そのため、ちょうど半分の地点にある非常口までの時間を測ってから計画を修正する。

 最初は団子状態だ。30人もの受験者が固まっているためろくに剣も振れない。もっとも、この近くに敵はいないようだが。やがてちらほらと道端に異形のものが現れ始める。それを倒すもの、先を急ぐものに分かれ、互いの姿は見えなくなっていった。


「まだ八級しかいないな。これなら先に行こう」


 先頭を行くスージャが口を開く。


「ああ、おそらく6級と8級では得点にも差があるはず。6級がいたらスージャ、君が相手をしてくれ。トワはサポートだ」

「だがいいのか」


 スージャは息を切らした様子もなく問いかける。


「何がだ」

「君はおそらく討伐点が取れないぞ。八級は後ろに流すが、低すぎる」

「別にいいさ」


 レドは軽く流した。と、スージャが歩みを止めた。


「七級のスブラだ、進路にいるから排除する」


 スラリ、と刀を抜くとスージャは異形のものと対峙した。異形のものは大きな黒いネズミのように見えるが、その姿は悍ましく、本来一対の眼があるべきところには複数の目玉が不気味にぎょろぎょろと辺りを見回している。爪は異様に鋭く、尾も複数に分かれている。

 飛びかかってきたスブラは、しかし空中でスージャに真っ二つにされてしまった。


「すごい…」


 トワが思わず感嘆の声を上げる。


「別に、君だって7級くらい殺せるだろう?」

「殺せるけど、あなたの太刀筋が綺麗で…」


 8級なら子供でも殺せる。7級なら一般人でも殺せる。6級からは武器がなければ難しいだろう。


「じゃあ次は君に任せる」


 スージャは右側にずれ、残っていたスブラはトワに向かって飛びかかる。頭の中で落ち着いてシュミレーションをし、刀を振る。


「フッ!!」


 スージャほどではないが、やはりスブラの体は切断された。


「お見事」


 スージャが短くパチパチと拍手をする。


「…そう言えば、どうやって討伐数をカウントしてるんだろう…」


 そんな二人を見ていたリャックが疑問の声を上げた。確かに、討伐数が加点されるとは言われているものの、一体どうやって討伐数と等級を判別しているのだろうか。持ち物は皆自前の武器や飲み物などしか持っていない。


「そこは俺たちの知らない何かで計ってるんだろうな、と、あれが非常口か。18分かかった。多めに見積もって40分でゴールに行けるとして、20分くらいは討伐に使える。まぁ、緊急事態に備えて15分ごろにはやめておくべきだろう」

「ゴール前は狩り尽くされそうだから、ここから少しづつやるか。俺は時間を測るからやめるときになったら言う」


 レドは自分の時計を掲げて時間係を申し出た。それから、スージャは6級を狩り、7級と8級はトワとリャックが共同で、レドは適宜後ろから来た敵やサポートをすることになった。時間を気にかけつつ、7級と8級ばかりの道を進む。


「6級のイファーネだ!リャック!頼むぞ!」


 スージャが警戒の声を上げる。前方には、ヘビの姿に毛を生やしたようなものがいた。素早く、鱗により刃が通りにくい。


「僕の役目だね」


 リャックは目を閉じ、何か口を動かしている。

 

「我は穢れを祓い滅するものなり…いざ大神よ、その力を賜わらん…!」


 その間、スージャは素早く移動し時間を稼ぐ。トワも対角線上に立ち、協力する。


「いざ、その動きを奪はん、拘束術(ファルメ!)」


 淡い光が辺りを覆った。かと思うと、急速にイファーネを中心とし収縮する。やがてイファーネは地べたをゆっくりと這いずるだけになった。


「よくやったリャック!また腕を上げたな!」


 スージャが賛辞の声を上げればリャックは照れたように「えへへ」と笑った。


「リャックの獲物でいいか?」

「ええ、勿論」


 リャックがやや危うい手つきでイファーネの首を切り落とす。と、前から受験生が引き返してきた。こちらをチラリとみるものの、特に挨拶もせずすれ違う。


「まずいな…おそらく先行した奴らがゴール付近を狩り尽くしているんだろう。なぁ、レド、お前俺とポジションを交代しーー」


……ズズズズズ


 空間に嫌な音が響いた。全員が足を止める。


「…なんだ、とてつもなく嫌な予感はするが」

「…試験内容ではないな」


 地響きのような音はどんどん大きくなる。一瞬の静寂が訪れる。


 ドゴオオオオン!!


「おいおいマジかよ!!」


 壁にも天井にも亀裂が走る。細かい破片が頭上から破片が降り注ぐ。


「逃げろ!」

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