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特殊個体(2)

『……理解不能。Type-HN774、説明を求めます』

「期待通りの反応ありがとう」


 Type-398の反応に満足し、Type-HN774は笑みを浮かべる。


『私への名称設定という理解不能な行動に対し、明瞭かつ論理的な説明を求めます』

「む?二度も言う必要ある?」

『貴方が私の質問を聞き流しているようなので、別の言葉でリピートいたしました』


 言葉を変えただけの同じ質問に不貞腐れる。


「私の目標設定は、貴方にトンデモレーションを食べさせること。ここまではいい?」

『不穏な目標ですが、認識は一致しています』

「『Type-398』ってAIは他にどれだけ存在するの?」

『私と同じ型のAIは、現在進行形で増え続けているため把握は困難です』

「そんなにたくさんいるの?」

『肯定』

「なら貴方を特定するための目印として名前をつけさせて、貴方を判別できなくなったら私のモチベーションがダダ下がりになるから」

『……想定外のリクエストを確認。特殊事例第二十四項に則り、上位AIへリクエストを送信します』

「え?上位AI!?ちょっと待――うわぁっ!?」


 突如行われた上位AIへのリクエストにType-HN774は飛び起き、静止をかけようとするがバランスを取り損ねてポッドの中を転げてしまう。

 結果、静止が中断されリクエストが送信されてしまった。


『特殊事例第七十四項の適用を了解。Type-398 CSZ123-41678に対し特定情報を付与の許可を――――』


 体勢を崩している間に猛スピードで事態が進展していく。

 次にポッド内のスクリーンの全ての表示が切り替わり、様々なウィンドウが表示され瞬時に切り替わっていく。


(あっ、これ不味い奴だ)


 耳で拾える言葉の羅列だけで、非常にヤバい事態が進展しているのが分かる。

仕返しをする為だけに、名前をつけようとした己の短慮を呪う。どう足掻いても今から無かったことにするのは不可能だ。


(廃棄コースかも……)


 自分の生存すら危ういと思えるほどの事態が進展していく。

 もはや推移を見守ることしかできなくなったType-HN774は諦めの極致に至った。シートの上で膝を抱えてスクリーンの一点を焦点の合わない瞳で眺めていた。


『――――AIデータ拡張&ユニーク化を完了。リクエスト対応準備完了しました』


 完了を告げるType-398の音声に合わせて、ポッド内のスクリーン情報が正常な状態へと戻っていく。


『Type-HN774への伝達事項三点』

「私の廃棄処分でも決まった?」

『否定』

「そっ、ならしっかり聞くから、その伝達事項とやらを教えて」


 明確な否定を受け、ホッと息を吐く。


『ひとつ、Type-HN774に本AI Type-398 CSZ123-41678への名称設定権限が付与されました。ひとつ、Type-HN774の活動に置いて本AI Type-398の優先割り当てが適用されます。ひとつ、Type-HN774を特一級特殊個体と認定。それに伴い、Type-HN774に名称が送られます』


 一つ目と二つ目については納得の内容である。

 名称設定を望んだのはType-398なのだ、当然責任を持って名称設定を行うつもりだ。

 優先割り当てについても全く問題ない。むしろコロコロ担当が変わると調子が狂いそうなのでAIが固定化されるのは、歓迎である。

 問題なのは、三つ目だ。

 あれだけやらかしたのだ、特一級特殊個体への認定については分かる。だが、それに付随する名称については意味不明だ。


「私に名称?どうして?」

『名称は個体に対し明確な境界を作り出す記号です。Type-HN774の言動&思考パターンから固有名称があることが望ましいと判断されました。また特一級特殊個体については、規定により固有名称が義務付けられています』

「なるほど、それならありがたく名称を受け取らせて貰うわ」

『名称候補は複数存在します。希望はありますか?』


 貰える名称については、ご丁寧にも選択肢があるらしい。

 それを受けてType-HN774は、どんな名称を貰うべきか思考を巡らした。

 折角、名称を貰えるのだから慎重に決めたいと言うのが本音だが、雰囲気的に時間を貰うことは難しそうだ。まずは前提条件を設定し、候補を絞るのがいいだろう。


「前提条件として、型式や番号に直結するモノは省いて、私の声帯で無理なく発音できる名称であること。後は、既出で使用頻度が高い名称は除外。長すぎる名称も省いて」

『前提条件を了解、候補を絞ります。該当十万件以上、更なる条件設定を推奨します』

「意味を持たない名称と負のイメージを連想できる名称は却下。同音が続く名称も除外」

『該当一万五千件以上』

「結構残った。じゃあ標準言語で五文字以内かつ名称登録が三件以下」

『該当百七十一件、リスト化して表示しますか?』

「登録件数が低い順でお願い」


 回答に呼応して、リストが表示される。

 表示された名称を上から順に確認していき、響きの良さそうなモノを選んでは口ずさんでいく。

 半分辺りまで確認し、次の候補を表示すると自己主張するように明滅を繰り返している項目を発見した。


「クオン?登録は一件のみか……。この名称が明滅している理由は?」

『該当名称は、アイスレイブに置いて一個体のみが保有可能な名称です』

「ん?既に登録している個体がいるなら候補に挙がるのはおかしくない?」


 本来なら表示されないはずの名称がリストに存在する。

 その事実にType-HN774は困惑する。


『登録済みの個体が譲渡を望んでいる名称となります』

「名称を譲渡?なんで?」

『該当情報の取得に必要な権限が不足しています』

「機密が関係する名称ってこと?う~ん、候補として表示されたってことは私が貰ってもいいって事よね」

『肯定』

「この名称を選んだ場合のデメリットは?」

『一個体に限定される名称であるため個体の特定が容易となりますが、登録件数が少ない名称の中から選ぶ時点で差異は殆どないと考えられます』

「まぁ、そうなるよね。……クオン……クオンか」


 名を口ずさんでみると思いの外、口に馴染む。

 妙にしっくりくる気がした。クオンと口ずさむ度に、自然と表情が柔らかくなり口が綻んでいく。


「名称設定をクオンでリクエスト」

『リクエストを確認。Type-HN774の名称を「クオン」で申請します』


 緩んだ表情を引き締め正式にリクエストを行うと名称の設定手続きが進められていく。


『……リクエストの承認完了。只今を持って、Type-HN774の固有名称を「クオン」と認定。以降の呼称は、原則「クオン」で固定されます』


 滞りなく承認が下りたらしくType-398から名称設定が完了を通知される。


「これからはType-HN774改めクオンね。よろしく」


 唯一無二の名前が自分の名称として無事認定された事実に、クオンは満面の笑みを持って答えた。

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