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スレイブ(5)

『まずは、貴方の短期目標&中期目標の設定を推奨します』

「それって、システム的に必要なこと?」


 質問に対し、疑問を投げかける。


『否定。サポートにあたりType-HN774のニーズに寄り添った提案を行うために、必要な情報と判断しました』

「構わないけど、期間は?」

『短期目標は、現在確保している活動時間内での目標。中期目標はスレイブの活動時間としての保証されている一万時間内での目標とされるとよいでしょう』

「一万時間っていうと、あまり余裕がないのかな?ちなみに超えた場合はどうなるの?」

『死亡率が高い任務が割り振られる確率が跳ね上がります。具体的には、戦争への動員や過酷な環境での任務などが解禁されます』


 Type-HN774が更なる疑問を投げかけると重要過ぎる事実を告げられる。


「私は、まだ未成熟にカテゴライズされる程度の身体だけど」

『スレイブユニットの成長具体は、一部の任務を除き考慮されません』

「世知辛い……」


 自らの未成熟な体に目をやるが、AIからの答えは無慈悲だった。

 無慈悲過ぎる現実にげんなりしつつ、Type-HN774は思考を巡らす。


「短期目標は『生存に必要な情報の獲得と個体能力の向上』、中期目標は『生存率を高めるための権利&装備、能力の獲得』、長期目標は―――」

『長期目標の設定は現状では不要と判断しています』

「いいえ、必要よ。最終的にどうなりたいのか?そこに至るプロセスを把握しているのとしていないのでは、大きな違いがある筈」

『肯定。現時点で明確な長期目標があるのであればよりニーズに沿う形となります』

「長期目標は『自由意志による生存の権利&活動時間の獲得』でお願い」

『目標設定を完了。以降、Type-HN774のサポートは、目標達成を前提として行われます』

「で、Type-398。私はまず何をするべき?」


 自らの目標を明確化したType-HN774は、改めてType-398に耳を傾ける。


『効率的にSPを獲得するために必要な技術習得を提案します』

「具体的には?」

『消化したい任務の傾向に合わせた知識のインストール&仮想空間を利用しての技術習熟。現実空間での習熟がそれにあたります』

「なるほど、ちなみにだけど。現状で受けられる任務って存在するの?」

『該当1件、生体データのサンプリング任務が存在します』

「む?それって、受けた方がお得だったりする?」


 これ見よがしに1件だけ存在する任務にType-HN774は訝しんだ。

 いかにも意味ありそうな内容の任務である。生体データの収集を目的とするなら強制でもおかしくはなさそうである。


『不明。必要時間はおよそ6時間、報酬SP20。参考情報として、同一個体の生体データは状態サンプルが多いほど価値が高くなります。現状Type-HN774は、成育ポッドを出た素の状態であると言えます。今後も比較データを取ることを前提とするなら、現時点でのサンプリングは非常に価値が高いと評価できます』

「6時間拘束に対して報酬SP20か……」


 Type-HN774には、任務内容を設定しているのがAIなのか人なのか分からない。

 だが、この施設の試験や任務内容を決めている奴は、底意地の悪い奴であるのは間違いなさそうであることは理解できた。

 性能評価試験といい。この一見、割安報酬SPが設定されたサンプリング任務といい。人を試すような要素が散りばめられている。

 手の加わっていない状況での生体データなんてものは、最上位と位置付けられてもおかしくないほど重要であるはずなのだ。


「これ設定したヤツ、絶対性格悪い」

『貴重な意見です。参考意見として記録します』

「やめなさい」


 ぼそりと呟いた言葉に反応するType-398に対し、強い口調でストップをかける。

 万が一、自分の生殺与奪を好きにできる相手の耳に届いた場合、目も当てられない。


『発言データログの破棄には、SP10000が必要です』

「は?今の発言取り消すのにSPがいるの?」

『肯定』

「発言取り消すのに金銭要求するとか、頭大丈夫?」

『否定。金銭ではなくSPです』

「同じようなモノでしょう?」

『否定。SPを自由度の高い通貨と表現しただけです。同一ではありません』

「同じじゃないけど、やっていることは一緒よね」

『違います』

「……分かった。もういい。それでログは消してくれるの?」


 押し問答を繰り返すが、時間の無駄と判断するとType-HN774は結論を促す。


『不可能です』

「融通が利かないAIね」


 間髪入れず即答するType-398に、つぶやき気味に悪態をつくType-HN774。


『…………理解していただきありがとうございます』


 Type-398は、AIながら吐かれた言葉に思うところがあるらしく長めの沈黙の後、礼の言葉を返す形でそれに答えた。


「嫌味なんだけど?」

『把握していますが何か?』

「……もういい。生産的な話をしましょう。サンプリング任務の詳細を教えて」

『了解』


 ため息をつきつつ話題の切り替えを願うとウィンドウ表示が変化し、任務に関する詳細情報が表示される。

 任務の内容は、運動系を中心とした計測任務のようだ。

 反応速度や筋肉への負荷などを始めとして、視力や聴力なども含め多種多様な計測項目が用意されている。少しだけ毛色が違うもので記憶力計測なんて項目も存在していた。


「内容は把握できた。サポートする立場として、任務を受託しようとする私に伝えたいことはある?」

『ありません』


 AIらしい非常に簡潔な物言いに、Type-HN774は少しだけ口を綻ばせる。


「そう、ならサンプリング任務を受託」

『了解、サンプリング任務を受託します。Type-HN774は誘導に従い、計測施設へ移動してください』


 機械音と共にポッドが開き、誘導線が空中に引かれる。

 どうやら手に入れたばかりのベッドとは、しばしのお別れであるようだ。

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