ラグナアント掃討作戦(2)
「それにしても今頃、巣の存在に気づくなんて……。基地建設前に周辺環境の調査を徹底している筈よね」
準備を終え出発時刻まで睡眠を取ったクオンは、ポッドから出て格納庫でラグーンを受領していた。
戦闘用のアシストスーツに身を包み、背中にはバックパックを背負っていた。
腕にアサルトライフル、腰にはコンバットナイフ、足にはレーザーガン。ショルダーには、予備のエネルギーパックとフル装備状態。
『地盤調査をしたのは基地の直下のみとなっています。加えて、周辺には巣穴は確認されていなかったようです』
どうやら巣穴の入り口ができたのは最近らしい。
と言っても基地の周辺には、警戒網が張り巡らされているはずなのだ。今の今まで変化に気づけなかった時点で駄目出しするには十分過ぎる理由だ。
「入り口が確認できなかったとしてもセンサー類の数値に予兆はあったはずよ。地上に変化を及ぼすまで放置していたのであれば怠慢と言わざるを得ないわ」
『貴重な意見として承ります』
「そう是非そうして」
目の前で停車したラグーンのモニターを操作し、クオンはラグーンのパラメータを確認する。これまでの走行データを元に最適化されているとは言え必要な行程だ。
今回は戦闘がメインなので念入りにチェックする。
『受領したラグーンのコンテナ内に、S-01装備及びグレネードが格納されています』
「了」
受領したラグーン。それは調査ミッションで使用したラグーンと同じの筈だが、形状は戦闘用にカスタマイズされていた。
前輪を挟む形でコイルガンがセットされており、流線形の美しいラグーンのフォルムを大きく崩していた。後部にはグレネードの発射装置がセットされており、中には焼夷弾や弛緩ガス弾が装填されていた。後部座席の後ろには当然のように装備用のコンテナが鎮座している。
クオンがコンテナの開放指示を出すとコンテナのハッチが開き中身が露わになる。
中にはハンドグレネード、S-01と刻印されたブレードとナイフ。加えてエネルギー兵器用の弾倉とグレネード弾、更には医療キットや携帯食が格納されていた。
各種装備に抜けが無い事を確認したクオンは手にもっていたアサルトライフルを空きスペースに格納しラグーンに跨った。
「B01からのコールは?」
『ありません。報告では装備の受領中のようです』
部隊単位でのミッションでは、指揮ユニットの号令を持って開始される。
今回の場合、基地から作戦ポイントへの移動についてはB01の指揮下で行われる。ポイント到達後の作戦開始については、更に上位の指揮ユニットの号令となっている。
『B部隊については特に装備点数が多いため、受領に時間が掛かっています』
「基地戦力が総出の作戦だし当然ね。私も受領に結構時間が掛かったし、直前で装備変更もしたからなおさらね」
受領までに掛かった時間を思い出しため息を吐く。そして、周囲に視線を向ける。
視線の先には装備を受領し発進待機をしているユニットと装備の受領待ちのユニットで溢れ返っていた。いずれも今回の作戦に参加するスレイブだ。見える範囲でも数は百を超えている。
一定間隔で整然と並ぶ車両&スレイブの列はそれだけで完璧な秩序を感じさせる。クオンはラグーンを動かし、待機エリアの車列に並ぶ。
B01からの号令を待つ間、他部隊の号令が掛かったユニットが次々に発進していく。
いずれのユニットももたつく事無くスムーズに列を抜け、ゲートの先へと消えていく。抜けた車列には、後続ユニットが納まり空間を埋めていく。
「B02、お前もこの格納庫だったのか?」
空いた隣の車列に納まった体格の言いユニットがクオンに声を掛ける。
ヘルメット越しの声なので少し聞こえ難いが男性ユニットのようだ。
聞き覚えのある声と体躯からそれが同じ部隊のユニットである事を見て取った。
「その声はB09?データリンク前なのによく私がB02と分かりましたね」
データリンクをしていなければ装備が統一されている以上、みんな同じ見える筈だ。多くのユニットがひしめいている個人を特定するのは非常に困難だ。
「そりゃあ、お前は他と比べて身体が取り分け小さいからな。仮想空間でも目立っていたしすぐに特定できたよ」
言われて見ればその通りだ。
クオンはスレイブユニットには珍しい未成熟個体だ。成人個体だらけの中にそんなのがいれば周囲から浮いて見えるのは当然である。
「B09、貴方から見て今回の作戦についてどう考えていますか?」
「巣の発見が遅れたことか?思うところがない訳じゃないが仕方ないだろう。手遅れになる前に気づけて幸運だったと思うようにしよう。それよりも俺としては下位ユニットにも関わらず指揮ユニットとしてアサインされているお前の方が気になる」
「上位ユニットの貴方としては不満があると?」
「いや、AIの下した判断に不満なんてないよ。下位ユニットであってもAI達が認めたのであれば、お前は指揮ユニットとして相応しい。実際、模擬戦での指揮は中々のものだった」
クオンの言葉に小さく首を振るB09。
「貴方にそう評価されているのは光栄ですが、気になると言うのは?」
「いや、長期でミッションを熟しているのに、指揮権が与えられない俺と誕生したばかりのお前に指揮権が与えられない理由が分からなくてな」
その疑問を聞いてクオンは黙り込んだ。
クオンは正確な答えを知っている。しかし、その疑問にこたえることは許されていない。
『クオン、答えを教えてはいけませんよ』
「承知しているわ。散々、禁止事項を聞かされたもの」
サクヤから釘を刺されたクオンは、どのように返答するかを思案する。
どう伝えるのがB09の為になり、なおかつ禁止事項に抵触せずヒントに与えることができるのか?
クオンは頭の中で口にする言葉を必死に検討する。
「B09、その問いに対する答えを私は知っています。しかし、禁止事項に抵触するため答えられません。禁止事項に抵触する理由は、その答えに辿り着くことこそが指揮ユニットの資格を得る条件だからです。貴方が指揮ユニットを目指すのであれば、まずその答えに行き着かなければなりません」
明確なヒントにはならない。しかし、明確な答えがあることを示す言葉。
クオンが選んだのは、そんな言葉だった。
「なら俺も答えに辿り着かないといかんな。すぐに答えに辿り着いて追い越してやるよ」
「期待しています」
『B01よりコールがありました。「ポイントA7に集結」』
二人の話を中断する形でサクヤが集結ポイントを報告する。
「了、B09まずは本ミッションを完遂しましょう」
「承知した。次席指揮官殿」
クオンのラグーンが車列から飛び出す。それに続きB09のラグーンが追従する形で走り出す。
2機のラグーンは、ゲートを超え集結ポイントへと向かって走り出した。




