指揮訓練(3)
『Type-HN774の戦闘不能を確認。待機エリアにアバターを移動します』
灰色の無骨な壁で構成されたドーム内に音声が流れるとクオンの身体がに再構成された。
意識を取り戻したクオンは、ドーム内に見渡すとため息を吐いた。
「第2部隊は全滅ってことね」
クオンの視界に映るのは、9名のスレイブユニットだった。
いずれもヒューマノイドタイプで男女混合。どのユニットもクオンと同じプラグスーツを纏っていた。クオンと同じ第2部隊に所属するユニットだ。
今は空中に表示されるスクリーンの映像にて戦闘を観戦していた。
ぼーっと眺めるだけの者もいれば戦略マップを食い入るように見つめる者もいる。それぞれ思い思いに時間を消化している。
「サクヤ、何が起こったの?」
『ボットのスナイピングによる頭部&脊椎への被弾。移動を止めた所で精密射撃を受けました』
「ボット?センサーに反応は無かった筈だけど」
近くにボッドやドローンがいたのであれば優先して片付けている。
『ステルス性の高いスパイダーボットを天井付近に設置していたようです。完全静止状態だったため、センサーに反応しなかった模様。静止した瞬間を狙い撃たれました。他のユニットのログを確認したところ、部隊の半数が同種のボットにより戦闘不能にされています』
「つまり完全にこちらの作戦負けってこと?」
『完全かどうかは不明ですが、作戦目標を達成できていない点&ユニットの損耗が著しい点を鑑みると、戦術の面で大きな開きがあった事は確かです』
用意されたソファーに凭れるとクオンの前にスクリーンが表示される。
今回のミッションをMAPに再現したモノのようだ。敵のユニットが赤、味方ユニットが青で表示されている。ボットやドローンについては、同色の小さな点で表示されていた。
防衛側の敵性スレイブユニットは3人、攻撃側は10人だ。
圧倒的に攻撃側が有利に見えるがそうではない。
防御側は施設内の装置を自由に使用できると言うアドバンテージを持っている。攻撃側が利用する為には、なんらかの方法で奪取するしかない。
クオンが攻撃側での参加だった。
射撃の腕と身軽な点を考慮され斥候としての役割を与えられていた。
「本隊がやられた原因は?」
『ステルスボッド&迎撃装置による包囲攻撃を受け壊滅』
スクリーンの情報が切り替わり、敵のユニットの行動が表示される。
一度、施設外に出た後、攻撃部隊の本隊の背面にポジションを取る。本隊に察知されずに背面を取った時点でほぼ勝負はついている。施設内の装置を敢えて潰させて施設内に本隊を誘導し退路を封鎖。後は、誘い出した本隊の目となる斥候を潰し、本隊の動きを制限する。
危険を回避しようとする攻撃側の本隊のルート上に、戦闘ユニットとボッドを配置し背面のボッドと共に包囲殲滅。包囲攻撃を受けた本隊は、まともな抵抗もできないまま壊滅。
撤退すら許さない一方的な殲滅劇。
こちらは最初から最後まで、防御側の手の平で転がされていたらしい。
『攻撃側は戦術評価D、ユニット評価平均D+』
「これだけ一方的に殲滅されたらそうなるよね」
『防御側は戦術評価B+、ユニット評価平均C+』
「戦術評価B+?Aじゃなくて?」
迎撃を成功しただけでなく攻撃側を殲滅したのだ戦術としては非の打ちどころがない。A評価が当然のように思える。
『施設内の破壊が規定を超えたため、マイナス評価を受けた模様です』
「重要施設の破壊報告は記憶にないよ」
『トラップとして仕掛けたプラズマグレネードを処理した際に、ゲートに想定以上のダメージを与えたようです。具体的には電源装置に深刻な破損が発生した模様です』
時間稼ぎ程度にしかならない即席トラップだったが、思った以上に効果があったようだ。
「ん?追撃受けたけどアレは?」
『ゲート開閉中に炸裂した為、通過はできた模様』
「もう少し早めるべきだった?いや、ユニットを巻き込むつもりだったから、もう少し時間を取った方がよかったかな」
『ゲートへのダメージを考慮し、クオンのユニット評価はCとなった模様』
「う~ん、意図とは違った戦果でプラス評価を貰うのは複雑かな」
スクリーンに表示される己の評価値を確認しすぐに目を反らす。
正直な話、クオンは居心地が悪かった。
同部隊の他のユニットが軒並みDもしくはD+の中、クオンだけ幸運に恵まれてC評価を獲得している。同じ空間にいるスレイブユニットの中で、ひとりだけC評価なのだ。
正直、居た堪れない。心なしか周囲から見られている気もする。
「B02、いくつか質問がある。よろしいか?」
スクリーン情報を眺めていたスレイブユニットが声を掛けて来た。
すらりと長い体躯に、黒のプラグスーツから見える褐色の肌と短く切り揃えた白い髪との対比が特徴的な女性だ。
今回の作戦では部隊指揮を取っており、B01の呼称で呼ばれている。
「B01、質問を受け付けます」
「R-06ゲートの確保に時間を取られていた理由を」
「主な理由は装備のミスマッチ。装置の類を直接沈黙させるしか方法がなかった。EMPグレネードは持って行っていれば、効率よくダウンさせられたと認識しています」
「EMPグレネードよりプラズマグレネードを選択した理由は?」
「アサルトライフルで処理できないユニットとの遭遇戦対策として、プラズマグレネードを優先しました」
B01の取った作戦は、侵入経路となるゲートの同時偵察。
防御側がゲート間で網を張っていると仮定し、複数のゲートを索敵。その後、一番手薄な場所に本隊を投入してゲートを確保する想定だった。
斥候として索敵を担当となったクオンは高確率で複数の敵ユニットと対峙すると予想し、素早く範囲制圧できる武装としてプラズマグレネードを選択していた。
「EPMは突破力に欠けます。プラズマグレネードなら不測の事態に陥った際の汎用性が高いと判断しました」
「EMPは用途が限られているから会敵する可能性が高いのならプラズマグレネードを優先するのも納得できるが、併用は考慮しなかったのだろうか?」
「正確にはEMPも1発携帯していたのですが、到達までの過程で消費してしまいました。時間短縮のつもりで使用したのですが温存すべきだったと反省しています」
クオンの返答を受け、B01が思案する。
「B02、次席指揮官の貴方から見て今回の作戦をどう評価する?」
「戦術としては問題ないと判断します。ただ、攻撃側であることを意識し過ぎて、防御が疎かになってしまったと認識しています。攻撃ユニットをメインにし過ぎたと思います。偵察ユニットや索敵装置の数を増やしていたら包囲される事は防げたでしょう。ただ、これは終わった後だから言える事です。貴方の編成は、攻撃的ではありますが施設攻略に最適であったと考えています」
「そうか」
B01は短く言葉を漏らした。
浮かない顔をしている。どうやら何か悩みがあるらしい。
「B01、貴方の対戦成績は確認しています。36戦21勝を記録しており優秀であると判断できます。何か問題でもあるのですか?」
評価として36戦21勝は、お世辞抜きにかなり優秀な成績だ。成績が悪いならともかく、良好な結果が出ているのに思い悩む理由が分からない。
そもそも経験の浅いクオンに意見を求めるのがおかしい。戦術については支援AIにして貰えばいいのだ。
「これまで勝てた筈の相手に負ける事が多くなっている。今回のように裏をかかれることが多く戦術面で完敗することが多いのだ」
役に立てるかどうかは分からないが、自分のためにも協力する方がいいだろう。
「B01に過去の作戦ログの提供をリクエスト」
「B02のリクエストを承認する」
クオンのリクエストに間を置かずに承認するB01。
迷うそぶりすら見せず承認したところを見るに、どうやら本当に悩んでいるらしい。
「サクヤ、今回の対戦指揮官との過去の対戦ログを全て表示」
空中に投影されたスクリーン情報が6つほど増える。
クオンは記録の古いログから順に目を通していく。そして、あっさりと結論に至った。
「B01、貴方はコマンダーに高いレベルで分析されています」
「分析?戦術分析はこちらもしているが?」
「戦術だけではありません。戦術アップデートの癖を見抜かれているのだと思われます」
「アップデートの癖?」
訳が分からないというB01に対し、クオンは自身の目の前の対戦ログをB01にも見えるよう角度を調整する。
「初戦と二戦目は、互いに標準的な編成で貴方が勝っています。ですが、三戦目から明らかに編成に偏りが出始めています。敗北した五戦目以降は偏りが顕著です」
「それは承知している。だからこそ編成と戦術を見直しているのだ」
「その癖を見抜かれています。五戦目、ステルスユニットの編成によって大打撃を受けて敗北しています。そこで貴方は編成を見直し索敵ユニットを増やして対策。対して敵は重防御ユニットで編成を固める戦術を取った。打撃力が欠いたせいで拠点を抜けず敗北」
そして今回だ。
突破力の掛けた前回の反省を生かし、今度は索敵ユニットを減らし攻撃ユニットを増やした。
B01は、今度こそ抜けると思っていた筈。しかし、その目論見はあっさりと潰された。
本隊の攻撃編成を見抜いたかのように薄くなった索敵の間隙をつき、勝利を攫って行ってしまった。
「なるほど、アップデートの癖とはそう言う意味か。私が敗因を分析し改善をしているのに対し、向こうはそれを見越して対策を取っていると」
「でなければ五戦目以降の一方的な負けは説明がつきません」
「今回の敗北原因は完全に私だな。参加したユニットには、すまないことをした」
肩を落とし項垂れるB01。
「B02、的確な助言を感謝する。これで次はしっかりとした戦いになりそうだ」
「私は貴方の部隊員であり次席指揮官ですから感謝は不要です。部隊員達には、謝罪ではなく戦果を持ってこたえましょう」
「承知した」
クオンが敬礼に対し、B01は表情を和らげてそれに応じた。




