指揮訓練(1)
捕獲ミッションを無事終えたクオンは順調にミッションを消化していた。
サクヤの助言に従いミッションを基地内外問わずバランスよく受注し、ミッション間のインターバルでは新しい技能を身に付けたり、訓練をして地道に技能の習熟度を上げていった。
時折、サクヤと共に007のミッションログを覗きミッションの処理手順を確認する。そして、現在の技能水準に合わせて作戦行動を修正して実践した。
上手く行った場合はその後の作戦行動に組み入れ、逆に上手く行かなかった場合は除外して、知識として担保するのみに留めた。
007とのアライメント登録の影響は、ミッションログの解析に大いに役立った。ログに不明点や疑問点が発生した際は、基地ネットワークを利用して007にコンタクトを取り、答え合わせを行えるようになった。
当然、情報を貰うだけは終わらない。
ログを元に自分なりの作戦行動を提案し仮想空間にてシミュレートを行う。そのデータログを提供し対価とした。
生のデータの価値には届かないが、答えの対価としては十分。
007としは、既に処理したミッションの一部始終を教えるだけで、有益なデータを得られるので損はない。
『クオン、只今をもって720時間の活動時間を消化しました。活動を継続するためには、活動時間の取得が必要です』
「了、新たに720時間の活動時間の取得を申請」
『リクエスト承認、SP720で720時間の活動時間を取得しました』
居住ポッド内にサクヤの声が響き渡る。
リクエストの承認に伴い、スクリーンに映るデジタルカウントがリセットされる。
同時にクオンの所持SPが変動する。
SP1921、これがクオンの所持するSPだった。活動開始時に持っていたのがSP1200なので、十分な成果と言える。
それに得たものはSPだけではない。消費したSPはクオン自身の技能や権利となって着実に蓄積されている。
「まずは活動期間を振り返りかな。サクヤ、消化したミッション数と取得SPについて教えて」
『消化ミッション42件。内訳、基地内24件、基地外18件。平均獲得SP62、総取得SP2604、総消費SP1882』
「消化ミッション42件かぁ。1件当たり17時間、想定以上にミッション消化に時間がかかってかな」
『ミッション消化に有する時間は平均より少ないです。インターバルの3時間も含めても問題は見受けられません。基地内ミッションの殆どが時間拘束型であるため、優秀な結果であると言えます』
スクリーンの表示が切り替わり、基地内ミッションに費やした時間が表示される。
短い時間のモノもあるが、大半のミッション時間が20時間で固定されていた。要は成果物ではなく時間拘束型のミッションだったのだ。
内容は、基地の警戒警備&見回りである。
クオンとしては、あまりやりたくないミッションであった。
だが、悲しきは底辺スレイブとしての地位。満足な技能を身に付けていないクオンにできるミッションがそれ以外存在しなかったのだ。
追加で技能を身に付ける事も考えたが、無暗に技能を身に付けるのは為にならないと判断し見送ったのだ。
『データを元に返答するなら貴方は極めて順調に活動をしています』
「相当数のミッションを怪我無く処理、必要な技能習得を完了。その後の習熟も順調に推移。見送っていたアクセスレベルの上昇も済ませ、短期の活動成果としては十分」
『その自己分析は極めて正しいです。何か気になる点があるのですか?』
スクリーン上のサクヤのアバターが首を傾げる。
「なんか足りてない気がする」
シートに凭れ掛かり、ポッドの天井を眺めながら思いを吐露する。
気になっているのは消化ミッションではなく技能の方だ。
現状、クオンが習熟を進めている技能は基本戦闘と解体の技術のふたつ。
どちらもスレイブとしては必須技能に近く最優先で習熟を進めている。それとは別に各種兵器の操作技能の習得を進めている。
不足はないはずだ。しかし、何かが足りない。
言い表せない予感に、クオンは頭を悩ませる。
頭を抱えジタバタとシートの上を転げ周った後、スクリーンに映る技能とミッション履歴を見てハッとする。
「習得技能の全てが個人で完結する技能のみなんだ」
『機密情報の開示条件を満たしました。クオンのリストに新たな技能を追加します』
どうやら習得可能な技能を意図的に隠されていたらしい。
見た覚えのない技能リストが追加されていく。
追加されたのはたった三つ。
既にリストに存在する技能に対して本当に僅かだったが、今までリスト内にあったモノとは明らかに別種の技能だ。
「班の管理に関する技能か」
10人までの少数ユニットの集まり、アイスレイブの概念では「班」と呼称されている。
その班の運営に関わる技能が追加されていた。
追加されたのは基本となる「運用知識」「人員管理」「物資管理」の三つ。基本中の基本ではあるが他の技能とは、一線を画す技能だ。
「SPの値バグってない?」
『そのような事実は認められません』
リストに増えた項目をじっと見つめるクオンが零した言葉、それをクオンが即座に否定する。
現状、個人で完結する技能インストールは3桁もあれば事足りる。本当に専門性が高そうな技能のみが4桁の壁を突破していた。今回、追加された項目は要求されるSPの値は、軽々とその値を超えている。
「基本の運用知識だけでインストールにSP2500って」
結論、凄まじく高い。
クオンの稼ぎは1期間辺りSP2600だ。大本となる前提知識を抑えるだけで、その稼ぎの全てを注ぎ込む必要がある。他の知識を抑えること前提なので、SPは更に必要となる。
幸いにして「人員管理」「物資管理」については「運用知識」ほど要求SPは高くないがそれでもSP 1500が必要となる。
判明しているだけでSP5500。今のクオンには、とてもじゃないが手が出ない。
だが、身に付けないという選択肢はない。
管理する側と管理される側、両者の間には隔絶した差がある。
クオンが生存を勝ち取るためには、一刻でも早く管理する側に回らなければならない。
「サクヤ、短期目標に『運用知識』の習得を追加。それと今回追加された技能については優先取得技能としてマークして」
新たに見つけた獲得しなければならない技能。
それを身に付けるためのプロセスをクオンは地道に歩み始めた。




