バディとアライメント(1)
『クオン、ポイントαに移動』
「了、ポイントαに移動します」
岩影に身を潜めていたクオンは、インカム越しに聞こえる命令に従い正面の窪地に向けて移動を開始する。身をかがめ足音を殺しつつ目標地点へと向かう。
数秒駆けたところで窪地に到着したクオンは、身を伏せて窪地の先を伺った。
目に映るのは4m超えるずんぐりとした巨躯に長い爪を備えた短い四肢。それに加え、細長い顔に小さな目を持っていた。
「プラントイーター」そう名付けられたその生物は、なぎ倒した木を牙で砕きそのまま呑み込んでいた。30mほどの距離に迫ったクオンは気づいていない。
「プラントイーターってモグラだったのね。プラントイーターと言うよりツリーイーターって感じだけど」
『草花も食すようなのでプラントイーターと言う呼称はまとを得ています。恐らくラグナモールの近縁種でしょう。そちらの方は80cmほどの体躯のようです』
「こっちは桁違いの大きさね」
座り込んで木をバリバリと食べているプラントイーターだが、その状態であってもクオンの背を優に超えている。
「この距離でこっちに気づきもしないってことは、事前情報通り目は殆ど見えてないみたいね」
事前の取り決め通り、立ち上がって身を晒して見る。
軽くジャンプなどをしたりして、注意を引こうとしてみるがプラントイーターは気にした様子はない。
『代わりに嗅覚と聴覚が発達しているようですが、警戒はしていないようです』
「あれだけ大きいと天敵も少ないだろうし警戒心が薄いんでしょ。こちらは仕事が楽に済みそうだから助かる。007、はじめてよろしいか?」
『既に準備を完了しています。任意のタイミングではじめてください』
「了」
クオンは手に抱えた巨大なライフルを構えるとプラントイーターに向けて三回発砲した。
ライフルから発砲音と共に射出された麻酔弾は、正確にプラントイーターの胸部捉え突き刺さった。
突き刺さった麻酔弾から薬が一気に注入される。
突然の痛みに唸ったプラントイーターだったが、数秒もしない内に身体をふら付かせそのまま地面に倒れ伏した。
「目標の沈黙を確認」
『こちらでも確認しました。周辺に接近する脅威なし、こちらは警戒を続けますので回収を進めてください』
「了、サクヤ。待機中のトレーラーを」
『現在誘導中、到着まで80』
プラントイーターへの警戒を少しだけ緩め5mほどの距離まで近づく。そのまま周りをグルっと一回りし、プラントイーターの様子を確認する。
そうしている内にトレーラーが、プラントイーターに横付けされる。
トレーラーと呼んでいるが、実態は屋根の存在しない自走式の荷台である。特徴として集荷用のクレーンとアームが取りつけられている。
「007、射線の確保はどうか?」
『問題なし、積み込みを始めてください』
「了」
リモート端末を操作し、積み込み装置を起動する。
車体を支える為のアンカーが四方の地面に打ち込まれる。
「サクヤ、積み込み開始」
『了、積み込み作業を開始します』
作業用の子機がトラクターのから発進しプラントイーターに拘束具を装着していく。
各部位に装着されるとクレーンが動き出し、プラントイーターの真上に移動する。
『アームを作動』
サクヤの声と共に、クレーンの四対のアームが開きプラントイーターの身体に覆いかぶさる。
『マグネット起動』
クレーンのアームにセットされたマグネット機能が作動し、胴と四肢に装着した拘束具が引き寄せれクレーンの各所に固定される。ゆっくりとアームが閉じ、プラントイーターの身体をガッチリ掴む。
ゆっくりとクレーンが動き出し、プラントイーターの身体を持ち上げていく。予想通り相当量の重さがあるようでトレーラーが傾く。しかし、傾きは小さな傾きに留まりそれ以上大きくなることは無かった。
クレーンがトレーラーの真上まで移動すると静かにプラントイーターが下ろされていく。完全に荷台に乗ったところで、クレーンの動作は止まる。
『積み込み完了、これより基地に向けて発進します』
「007、私は予定通りトレーラーに同乗します」
報告を受けて、クオンが007に通信を入れる。
『了、警戒を解きそちらに合流します。予定合流ポイントはΔ』
クオンがトレーラーに乗り込み、手すりに摑まるとトレーラーが自動で動き始める。
ヘルメットのスクリーンに警戒中のドローンの情報が表示される。
「特に異変はなし」
『現在、ミッション工程の83%を消化。後は基地への帰投のみです』
「何事もなく終わりそうね。まさか見つけたプラントイーターを自分たちで捕獲するとは思ってなかったけど……」
肩の力を抜きつつ振り返って、眠りにつくプラントイーターの様子を確認する。
このプラントイーターは先の調査中にクオン達が捕捉した個体だった。比較的基地の近くで発見された珍しい個体だったため、捕獲ミッションが発行されたのだ。
同個体を補足したクオンと007にミッションの優先割り当てが行われた為、共同ミッションの形で請け負ったのだ。
「こう言うのって、別のユニットが処理する案件だと思うんだけど」
『複数ユニットで行動していた点と周辺地形を実地で認知している点が考慮されたようです』
「なるほど、非常に合理的。ミッションひとつとっても後々に影響してくるなんて」
『クオン、それは必然ですよ。スレイブユニットは、身に付けた技能と過去の実績によって評価されます。貴方がスレイブユニットである限り、この原則から抜け出すことはできません』
「貴方が、基地内ミッションも熟せと言う理由がよく分かったわ」
『認識が改善されたようで何よりです』
そうこうやり取りしている内に、トレーラーが合流ポイントを通過する。
追走する形で007の駆るラグーンが合流し、並走ポジションについた。
「007、警戒感謝します」
『それが私の役割なので感謝は不要です。結果的に貴方に殆どの作業を任せてしまう形になってしまいました』
「私の希望ですから気づかいは不要です」
007の謝罪にも似た言葉に、クオンが首を振る。
実のところ、この捕獲ミッションではAIによって設定された役割は逆。
経験が薄いクオンが警戒。経験豊富で高い戦闘力と対応能力が保障された007が接近し捕獲を試みると言うのが、AIがはじき出した答えだった。
それに対しクオンが役割の交代を申し出たのだ。
理由は実績の蓄積のためだ。バックアップが十全にある内に、危険度の高い役割を熟すことでユニットとしての価値を高めようとしたのだ。
幸いにして007は同系統のミッションをかなり熟しているため、ここで更に実績を積んでもあまり意味はなかった。だから二つ返事で、クオンの申し出を受けてくれた。
『私としては、手早く目標を沈黙させた貴方の手腕は高く評価しています』
「ん?麻酔弾を撃ち込んだだけですが……」
『経験上、警戒をし過ぎて必要以上に時間をかけるユニットが多いです。我々、スレイブユニットにとって活動時間は貴重ですので、短時間での目標達成は助かります』
「ああ、なるほど」
スレイブユニットは常に活動時間に縛られている。
活動時間が無くなれば休眠処理に入り、必要とされるタイミングまで眠らされる。それこそ目覚めるのは十年、二十年先になることも珍しくない。ユニットの体感時間はゼロに等しいとは言え、いつ目を覚ますか分からない状態に追い込まれるのは楽しいことではない。
『クオン、良ければ私とのバディ申請を検討してください』
「バディ申請?」
初めて聞く言葉にクオンが首を傾げた。




