基地内任務(2)
「サクヤ、次の解体物の搬入をお願い」
『了』
インターバルと言う名の学習時間を消化したクオンは、解体施設でスクラップと化した各種機器の解体作業に当たっていた。
「まさか、解体ミッションとはね」
正面の扉が開き、宙吊りとなったラグーンが定位置へ運ばれる。
サクヤに技能習得で進められたのは、まさかの解体用の技能だった。内容は型落ちラグーン解体ミッションである。
それにあたり、クオンはラグーンの解体に必要な各種工具の使用法と解体方法を新たに知識として身についていた。
『解体技能は、各種整備ミッションを行うための必須技能となります。将来、どこへ派遣されようとも役立つ技能となっています。ラグーンの機構は、様々な規格に通ずるモノがあるのでうってつけです』
「つぶしがきくのは間違いなさそうだけど……」
吊るされた型落ちラグーンの下に潜り込み、パーツを専用の工具で抜き取ったクオンは、そのパーツを床に並べた箱のひとつに放り込む。それが済んだら片手でクルクルとボルトを外し、重要機構を取り外していく。
「効率化する訳にはいかないの?」
『多くの機器の解体をするとなると大規模な専用施設が必要となりますので、施設規模が足りていません。変形や損傷などを考慮する必要もありますので、解体の第一次行程についてはスレイブユニットに委ねるのが効率的であると判断されています』
今度は、自分の身体程大きい装甲をパージし、稼働中のレーンに乗せる。
レーンに乗せられた装甲はゆっくりと移動し、大きな四角の空間へ飲み込まれていく。
クオンの体重と同じ重量の装甲であってもアシストスーツを着用しているので、楽々持ち上げられる。
「小型の解体ユニットとか使えた方が良くない?」
『解体を行う事で知識保管にも繋がるので現状が最適とされています。現状でも補助ユニットによって効率化は図られています』
サクヤの言葉を証明するように、解体中のラグーンの元に小型の整備ユニットがやってきて、電子機器やエネルギーパックを回収していく。
解体の危険度の高いパーツや重要な物質が含まれるパーツは、こうして整備ユニットが回収を担当してくれるのだ。
クオンに任されているのは、解体の第一工程のみだ。
「まあ、そうなんだけどっ」
キッチリとはめ込まれているエンジンを力任せに引き抜く。パキンッと言う小さな金属の破断音が室内に響き、足元に小さなパーツが転がる。
『A-259ビスの破損を確認。28番の行程を飛ばした影響と判断』
しまったと顔を顰めるクオンに、サクヤが的確に原因を報告する。
本来なら先にエンジンとフレームを止めているビスを緩める必要があったのだ。
『破損パーツの回収を要請、タイムロスが発生しますので注意してください』
「ああ~、またやっちゃった」
地面に転がった破断したビス拾い上げたクオンは、手の中のそれを見つめて眉を顰める。
綺麗に真っ二つになったビスを箱の中に放り込む。
『手順に問題はありませんが、小さな工程を飛ばすミスが多いようです』
「パーツイメージと作業行程が結びついているからね。小さいパーツは力任せに外せてしまうせいで、ミスをしやすいのよ」
『解体時は構いませんが整備時のミスに繋がるので、今のうちに修正するのがいいでしょう』
「分かっているけどね。簡単に改善できるならミスは発生しないわけで……」
会話を楽しみつつ、いくつかのパーツを剥がしていく。
15分もしない内にラグーンから主要部品が取り除かれフレームがむき出しになる。いわゆるスケルトン状態だ。
『クオン、廃棄理由は分かりますか?』
「型落ち以外に理由があるのね」
『肯定』
クオンは取り外したパーツの状態を思い浮かべた。
取り外し回収したパーツに問題はない。摩耗しているもののタイヤやサスペンションなどにも問題ない。
ぐるりとラグーンの周囲を回り慎重に調べるが、パッと見でおかしな点はない。
しかし、問いかけがあった以上、明確な廃棄理由が存在しているのは間違いない。
最大のヒントは、このタイミングで問い掛けられたと言う点だ。十中八九、ここまでに得られた情報で、廃棄理由が特定できるはずだ。
「悩んでいる時間が勿体ないから作業を進めながら考えるわ」
『構いません。分かった時点で答えてください』
覚えた手順に沿ってフレームからパーツを外していく。
フロントフォークに取り掛かったところで微妙な違和感に気づく。
正面から見た際のタイヤの軸線がおかしいのだ。ハンドルを真っすぐにしても後輪に対して軸線が真っすぐにならない。
「メインフレームの変形によるタイヤの軸線の不一致で正しい?」
『変形理由は答えられますか?』
「う~ん、装甲に特に損傷はなかったから経年劣化による変形でもおかしくなさそうだけど、それにしては歪みが大きいような……。転倒したくらいでフレームが歪むわけが無い、かなり高い位置から強引に着地でもしたかな?」
『正解です。その機体は、調査任務中に滑落した機体です。仕様を超えた高所から落下し着地したことで、フレームに大きなゆがみが生じました。基地帰還の際のダメージチェックにて発覚したため、廃棄が決定しました』
若干言葉を濁しながら答えるとサクヤが正解を伝えた。
「ん?ひょっとして私がミッションで使ったラグーンだったりする?」
クオンは、先の調査中に何度もラグーンで高所から着地をした事実を思い出した。
『否定、同一の型式ではありますが別ユニットです。15m程度の高低差であれば問題ありません。クオンの走行は仕様の範囲内です』
「仕様を超えてラグーンが使用された原因は分かる?」
『調査中に予期せぬ滑落に巻き込まれた模様。高低差49.17m』
「基地に帰還したってことは、スレイブは無事なのよね。50m弱も落下してよく無事だったわね」
頑丈な作りのラグーンと言え、その高さから落下したらドライバーも含めてただでは済まない筈だ
『緊急用のフロートシステムを使い、落下の衝撃を和らげたようです』
「よくフロートが間に合ったわね」
『支援AIによる自動制御とドライバーの姿勢制御技術の賜物です』
「優秀なユニットみたいね。はい、これで解体完了」
最後のパーツをフレームから取り除いたクオンは、最終確認をした上でパネルを操作して完了処理を実行する。
『優秀なユニットであるかどうかは分かりません。しかし、咄嗟の判断での姿勢制御技術に置いては非凡であるのは間違いありません』
処理の実行と共に吊るされたフレームが運ばれていく。
『解体時間は21分32秒、+53秒のタイムロスです。集中力を欠いた結果と思われます』
「う~ん、考え事をしたせいで少しロスあったみたいね。質問を挟んだサクヤのせいよ」
辛口評価にクオンが不貞腐れる。
『否定、この結果は貴方の選択と行動結果です』
「明らかに集中力を乱すような質問したでしょうが……」
『その質問に対して答えるかどうかも含め、判断は全て貴方に委ねられています。当機のせいではありません。結果に不満があるのであれば貴方自身の行動や言動を見直すことをお勧めします』
クオンの文句に対し返って来た言葉は、どこまでも冷静なAIからの厳しい評価だった。




