基地内任務(1)
「ああ、生き返る」
調査ミッションを終え、基地への帰還を果たしたクオンは居住ポッドへと入っていた。
給水ボトルを通じ口内に侵入した水は、9時間に及ぶ調査活動を終えたクオンの身体の乾きを癒していく。
ちなみに基地に戻ったクオンと007は、採取したサンプルをコンテナごと回収された後、ラグーンごと丸洗いされた。
それも1回で終わらなかった。
ラグーンについては最初の一回だけだったが、クオンと007は区画を超える度に洗浄され徹底的に汚れを除去された。居住区画に戻るまでに三回もの洗浄処置を受けていた。
どうやら外を出るときは不要だが、中に入る際は徹底されるらしい。
道理で、どこを歩いても綺麗なわけである。
『気温上昇を検知。ポッド内の空気を冷却します』
スクリーンの向こうに映るサクヤが空調を操作し、ポッド内の空気を冷やしていく。
空調から流れ出る冷気が肌を撫で、クオンの身体から熱を奪っていく。
だらしなくシートに凭れ掛かり、心地よい冷気に身を任せるクオン。
「気持ちいい~、もう少し風を強くして」
『了、空調出力をアップします』
リクエストに応じ、ポッド内の空気の流れが速くなる。
それだけでミッションで蓄積された疲労感が抜けていく気がした。身体の熱と共にクオンの中の疲労が抜けていくそんな感覚だ。
喉を潤す水とのあいまって、クオンはなんとも言えぬ幸福感を感じていた。
「ミッション評価と報酬は?」
『ミッション評価「A」、報酬SP107。内訳、ミッション報酬SP72に加え、評価報酬SP21、007からのミッション報酬取得分SP24。重要情報提供分については評価中です』
「評価による報酬は+30%で正しい?端数は切り捨てかな……」
サクヤが告げた情報を元に、評価値に対する報酬量を計算する。
『肯定。評価Cで100%の報酬が支払われます。Bで+10%、Aで+30%の報酬は加算されます。評価C未満の場合は、減算されます』
「今回の評価が『A』なのは、地下空洞のマッピングが評価されたお陰?」
『肯定。調査成果物として高い評価を獲得しています』
地下へと向かわせた3機のドローンは、各種センサーを用いて地下空間の広域マッピングに成功していた。サクヤがデータを統合分析した結果、巨大な迷路の存在が明らかになった。
迷路の中には、プラントイーターのコロニーなど確認されており、その規模の大きさはAIであるサクヤの予想を遥かに超えていた。
その貴重なデータを持ち帰ったことで、ミッション評価は最高評価である「A」を獲得したのだった。
『ちなみに007も評価「A」を獲得しています』
007が消化した調査ミッションのログが、スクリーンに表示される。
ミッションログの共有が早速役立っているらしい。見たところ、007が請け負った調査ミッションは、クオンの請け負ったミッションより報酬が少ない。
「ランクが高くても報酬が多い訳ではないのね」
『否定。007は、サブミッションとして調査ミッションを消化しています。サブミッションで貴方と同程度の報酬を獲得しているのであれば、ランクに見合った報酬を得ています』
「ちなみに、007の護衛ミッションの報酬は?」
『成功報酬として、SP120を獲得しています』
つまり、両方ミッションを合わせればクオンよりおよそ1.5倍の報酬を得ている事になる。メインミッションのSP報酬の数値を比べるだけでも、かなりの差がある。
クオンは己の認識の誤りを自覚した。
「007とのランク差は、5だったよね?」
『肯定』
「ランクを上げるには、どの程度のミッションを処理する必要があるの?」
『該当情報の取得に必要な権限が不足しています』
予想していた言葉が返って来たことで、クオンはシートに崩れ落ちる。
「ランクを上げる方法を公開した方が、モチベーションに繋がると思うけど」
『貴重な意見として承ります』
愚痴に対し、なんの慰めにもならない言葉を返すサクヤ。
「上位ランクになると得られる権利って何があるの?」
『代表的なモノだと下位ユニットへの指揮権。特定情報へのアクセス権、ミッションの優先権、SP交換の際の項目拡張です』
軽く説明されただけでもランクによる恩恵は計り知れない。クオンが考えていた以上に、得られるメリットは大きかった。
「ランクを上げなきゃ、欲しいと思えるものも手に入らない」
『その通りです。特に貴方の長期目標である「自由意志による生存の権利&活動時間の獲得」を叶えるには、ランクアップは必須要件です』
「なら、コツコツ頑張りますかね」
何事も一足飛びに目標が果たされることはない。
特にクオンは何の権利も持たないスレイブユニットだ。理由もなく幸運が降って沸いてくることはない。しかも、評価するのは数多のAIと同じ立場のスレイブユニットだ。
徹底したルール順守の元、評価される。
『次の任務の受託するためには、およそ3時間インターバルが必要です』
「栄養補給や睡眠は?」
『栄養面については先の補給で72時間の活動が保障されています。睡眠については、10時間前に行っているので不要です』
「インターバルの時間って何すればいいの?」
『ユニットの裁量に任されます。ミッションの受託が制限されているだけで、通常の活動時間との差異はありません。メンタルケアや技能習得などの学習に充てるなど全て自由です。支援AIの立場からのアドバイスとしては、技能習得や学習を推奨します』
支援AIであるサクヤは、クオンの価値を高める為に存在する。だから提案は理に叶っている。当然、クオンに否は無い。
「技能習得や学習に時間を使うのは賛成だけど、何を選んだらいい?」
『基地施設内のミッション処理に役立つ技能習得&学習を推奨します』
「理由は?」
『基地外と基地内とでは、生存率に大きな開きがあります。短期目標の生存を第一とするのであれば基地内ミッションを処理するのが望ましいと判断』
基地内のミッションの情報が表示される。
いくつもミッション項目が存在しているが、殆どがグレーアウト状態だ。スクロールさせて有効なミッションを確認していく。
結論としては、現状でクオンが受託できるのは基地警備だけらしい。
「選択肢がない」
当然だが、いずれもミッションの拘束時間の割に報酬SPが少ない。警備という特性上、高い評価も期待できそうにない。
『技能を保持していないので当然です』
「つまり、グレーアウトされているミッションを受託できるよう技能を身に付けろと」
『肯定。貴方の希少価値を高める為も有用です』
己の希少性を高める。
それはクオンが上位者に切り捨てられない為に必要な事だ。ただ、数多ある技能の中で何を習得すればそれに繋がるのか?クオンには見当がつかなかった。
「サクヤ、貴方の裁量で有用な技能をピックアップ。リスト化して」
『了、技能をピックアップします』
この後、出力されたリストからクオンは幾つかの有用な技能を見出し、技能習得のための行動を開始したのだった。




