調査任務(8)
「と言う事ですが、何か提案はありますか?」
暫くの沈黙の後、支援AIの提案を受け入れた007はこちらに問いかけた。
「サクヤ、こういう場合は対価として何が適当なの?」
『同一情報を共有するのが定番のようですが、現在のクオンのミッションログでは価値が釣り合いません』
クオンのミッションログは、数日分しか存在しない。軽く100を超えるミッションを処理してきた007のログに釣り合うはずもない。
クオンは考えを巡らした。しかし、いくら考えても自分の裁量で差し出せるモノの中に、釣り合うモノは存在しなかった。
「007残念ながら、私には釣り合う対価を用意できないようです」
「それなら蓄積したミッションログではなく今後のミッションログを相互に共有する形はどうでしょうか?期間は、いずれかのロストもしくは中止を申し入れた時でいかがでしょうか?」
未来情報の相互共有。
互いに相手の動向を把握できるようになるが、任意で区切れるので特にデメリットもない。クオンとしては、007の今後のミッションログが確認できるようになるので、メリットが大きい。
「サクヤ、これは対価として適当?」
『未来情報の相互共有なので適当と言えますが、007のメリットが限定的であると考えます』
「構いません。私は貴方に高い関心があります。誕生して間もないにも関わらず固有名称を持っている希少ユニットです。貴方のミッションログは私にとって非常に価値があります」
「固有名称を持っているのって、そんなに特別なの?」
『当基地にて固有名称を保持しているのは、私とクオンを含めて4ユニットです。希少ユニットであることは間違いありません』
クオンとしては、個体を管理する情報がひとつ増えた程度の認識だったが、他からの認識は大分違ったらしい。想像以上に、固有名称を保有しているユニットは少ないようだ。
固有名称を持っていないユニットから見えれば、固有名称と持っていると言うだけで大きなアドバンテージになるようだ。
「分かりました。その条件でミッションログを相互に共有をお願いします。サクヤ、リクエストをお願い」
『了、ミッションログの相互共有を行います。共有ログは、本ミッションのログからとなります。消化中のミッションは共有対象外となります。Type- HN 007にリクエスト』
「リクエスト承認、クオンとのミッションログの共有に同意します」
『リクエスト承認確認、以降はミッションログが相互共有されます。共有終了条件は、対象ユニットのロスト。または、対象ユニットの任意となります。共有済みのミッションログの取り扱いは双方に委任されます』
ヘルメットのスクリーンに007とのリンクの確立した知らせが届く。
互いにとって有益となる約束をした二人は、ラグーンを走らせていく。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
二人は順調にミッションスケジュールを消化していた。
二時間も経過したころにはラグーンのコンテナの七割が埋まり、基地への帰還ルートに入っていた。
「クオン、走行速度を60%に変更してください」
「了」
峠に差し掛かった所で指示が届いたので、クオンはラグーンを減速する。
これまでポジションの微調整や小さなルート変更指示はあったが、減速を指示されたのははじめてだった。
「007、減速理由を求めます」
「ルート上に脅威度未確認の個体を発見しました。通常なら回避ルートを選択するのですが、優先調査指定されている個体である事が判明しました。サンプリング対象ではあるのですが、メインは貴方の護衛です。脅威度不明の個体に近づくのは好ましくはありませんので、貴方の希望を優先したいと考えています。減速は猶予時間の捻出のためです」
ラグーンのモニターに対象個体の情報が表示される。
通常時は土中に生息する個体のようで、地上での発見頻度が極めて珍しい生物のようだ。個体名称はプラントイーター。体長は4m、体重は1t程度あるようだ。動きは鈍重だが、巨大で強靭な爪を有しており、木々を簡単にへし折る膂力を持っているらしい。
「もしもの事を考えると迂回した方がいいかな……サクヤ、貴方の意見を聞かせて」
『危険回避を最優先するのであれば適切です。私はその選択を指示します』
「データを見る限り、ある程度距離を取れば危険はないように見えるけど」
『否定。現行装備でプラントイーターに近づくのは非常に危険です。目視可能距離に入る前にルート変更を推奨します』
プラントイーターを示す赤い点を避けるルートが表示される。
示された道筋は、これまでのように直線や綺麗な曲線で描かれておらず、綺麗な曲線が描かれる訳でもなくガタガタとした歪なルートだ。
「提示ルートの説明をお願い」
『プラントイーターが移動した影響で、広い範囲で地下に巨大な空洞が発生している恐れがあります。提示したルートは、地盤沈下や陥没など起きやすいポイントを避けた安全度が高い迂回ルートとなります』
「接近に反対したのもそれが理由?」
『肯定。地上を進むラグーンでの接近は、沈下や陥没など影響をダイレクトに受けます。回避行動や撤退ルートなどに大きな制約を受ける可能性が高いため、接近はおすすめしません』
荒地をものともしないラグーンだが浮くことはできないし、崖を這い上がることもできない。陥没に巻き込まれたら自力での脱出はできない。
クオン達が駆るのが地上を進むラグーンではなく空中を進むエアバイクだったら、サクヤの判断は真逆となっただろう。
解説を聞いたクオンは、サクヤの意見が正しいと理解した。
「007、私は危険避け迂回するつもりです。協力できず申し訳ありません」
「謝罪は不要です。我々はすでに十分量のサンプルを回収しています。危険を冒してまでサンプリングを行う必要はありません。貴方の判断を支持します」
「感謝します。サクヤ、ルート変更を承認」
『了、ルート変更を承認。ドローン回収ポイントを修正します』
MAP上のルートが更新され、ドローン回収ポイントが合わせて更新される。
二人は、変更したルートに従い広い荒野を縫うようにしてラグーンを走らせる。
「サクヤ、ドローンだけど地下空洞内で飛ばすことは可能?」
『遠隔制御はできませんが、各種センサーが取り付けられているので自動での探査は可能です』
サクヤの返答を受け、現在稼働中のドローンの状況を確認していく。
ここまでフル稼働状態のドローンだが、バッテリー残量は十分に残っていた。
「007、調査ミッションの一環としてドローンによるプラントイーターが作った地下空洞の構造調査を提案します。具体的には、各ドローンの採取サンプル回収後にプラントイーターが出て来た穴に、こちらのドローンを3機突入させます。ドローンの各種センサーを用い、空洞の構造解析とマッピングを行います。貴方の偵察ドローンには、プラントイーターが出現したと思われる地下空洞の入り口の探索をお願いしたいと考えています。周辺警戒については、ドローン3機で一時的に代行します」
「……なるほど、我々の調査ミッションにはマッピングも含まれていますね。それにドローンのみで行うのであれば危険もない。提案を受け入れます」
007が提案に従い、警戒ドローンの周辺警戒を解きプラントイーターを中心とした探査に切り替える。
クオン達の真上についていた警戒ドローンが高度を落とし地形を探査していく。
「発見しました。エリアB34、X31,Y78」
モニターにMAPに入り口を示す点が表示される。
「サクヤ」
『警戒ドローンが戻り次第、採取ドローンを突入させます。構造調査は最大3600秒』
探査を完了した警戒ドローンが元の位置へ戻ると入れ替わる形で、サクヤの制御下にあるドローンが、入り口である地点に向かって移動を開始する。
入り口を示す点に重なったドローンの点が、ひとつまたひとつとMAPから消えていく。
「ドローンが持ち帰った構造データの報酬については、5対5で配分」
『了』
「クオン、配慮感謝します」
「入り口を見つけたのは貴方ですから当然です」
その後、帰路についたクオンと007は全てのドローンを回収し、十分な成果を持って基地への帰還を果たした。




