調査任務(7)
調査ミッションは順調に推移した。
サクヤが引いた効率的なルートに沿ってラグーンを走らせ、各ポイントでドローンを射出、高所の土や植物を収集していく。回収ポイントでドローンからサンプルを回収していく。偵察ドローンが収集した地上では、インジェクターガンを利用し様々なサンプルを入手していく。動物の血液に留まらず水や植物、鉱物などのサンプルを収集していく。
『コンテナの充足率70%を突破。ミッションは順調に推移』
「順調ね。007、こちらのタスクは順調に消化中、周辺の状況はどうか?」
「警戒範囲内に脅威は認めず。そろそろ、こちらのドローン射出ポイント。事前の取り決め通りドローンの貸与を要請」
岩場から2輌のラグーンが勢いよく飛び、慣性と重力に従い弧を描いて土の上に着地する。
クオンと007は、ポジションを一切崩さす荒野を走行する。
「サクヤ、待機中のドローンコンテナの制御を007に共有」
『了。ドローンコンテナの制御回線をオープン。コントロールを譲渡します』
007のラグーンのモニター表示が切り替わりドローンのコントロールが可能となる。
「制御回線の接続を確認。自動射出設定、120秒後に射出」
流れるようにセブンの指が動き、手早く設定が適用される。
ラグーンの視覚入力によるモニター操作ではなく、ハンドルについて小型端末から制御しているようだ。クオンの設定速度よりも格段に速いのが見て取れる。
「了。稼働中のドローンも帰還次第、コントロールを譲渡。最大ドローン4機まで貸与」
『了。サンプルを回収次第、順次ドローン制御を譲渡』
ラグーンのモニターに譲渡するドローンと帰還予測時間が表示される。
「クオン、感謝します」
「取り決めを守っているに過ぎませんので感謝は不要です。それよりも007、質問があります」
「なんでしょうか?」
その言葉と同時にドローンコンテナが開き、2機のドローンが射出される。
「基地外活動には慣れているのですか?」
「基準をどこに置くかにもよりますが、基地外活動は通算で100ほど消化しています」
「経験者から見て、現状で私の行動に何か不備などはありますか?」
完璧なスケジューリングでミッションを熟していたので、クオンとしては不備などないと思っている。しかし、ここまでのミッション中に上手くできていなかった点があった。
それは、007とのコミュニケーションである。
折角の共同ミッションなのに、互いに必要な声がけ以外の会話が存在しないのだ。だから少しでもコミュニケーションを取りたかった。
正直、クオンとしてはもっと早く会話をしたかった。だが、ドローンの設定やらサンプルの回収などに気を取られて、声がけのタイミングを失っていた。007は恐らく必要性すら感じていない。
「……今のところ理想的と評価できます。敢えて指摘するのであれば、過剰タスクと言ったところでしょうか」
「過剰タスク……詳しく説明を聞いても?」
「貴方のタスク処理は高効率ですが遊びがありません。端的に言うと効率を突き詰めているせいで余裕がないと評価できます。現在のミッションスケジュールは不足の事態に陥るとリカバリーが困難です」
予想していなかった007からの指摘にクオンは思わず頷いた。
彼女の指摘通り不足の事態が発生した場合、過密スケジュールであるため多少の遅延でも全体に大きな修正が生じる。例えばドローンを1機でも喪失したら、全体スケジュールのかなりの部分を修正しなければならない。
「気づきませんでした。貴重な意見感謝します」
「クオン、貴方のスケジュールは支援AIが作成したモノをそのまま採用したのでは?」
「その通りだけど……どうして分かったか聞いても?」
「経験の浅いユニットにありがちな行動です。経験を積んだユニットは自己判断で補正を掛けます」
「なるほど」
見透かされたように言い当てられ、クオンは少し恥ずかしくなった。
理想的な行程で推移していることに喜んでいた自分が滑稽に思えたのだ。
流石と言うか、経験豊富な007はたった一度のミッションに同行しただけでクオンの状況を的確に言い当てたのだ。
『007の意見は、重要情報として共有します。貴重な意見ありがとうございます。データを分析後に貴重な情報を提供したとして両名に報酬が付与されます』
「私も貰えるの?」
『肯定。007から情報を引き出したのはクオンです。当然、評価の対象となります』
静かに二人のやり取りを聞いていたサクヤが問いに答える。
「なら、この情報も評価の対象になるかもしれませんね。前半三割は、現在のスケジュール肯定のままで問題ありません。最初から余裕を持たせるなら85%~90%でしょう。中盤は70%程度にし、後半は40~50%程度に抑えるのが適当と言うのが私の感覚値です」
『素晴らしい情報です。クオン、007のミッションログ取得を提案します』
007の口から語られた情報を評価すると共に、クオンに提案をする。
「構わないけど007の重要情報でしょ。私が入手できるモノなの?」
自分より経験を積んでいる007のミッションログは、クオンにとって有益だ。ログを解析し、フィードバックするだけで恩恵は計り知れない。
はっきり言って一級品の情報だ。クオンとしては喉から手が出るほど欲しい情報だろう。
『007の許可があれば可能です』
「構いま―――」
『警告。Type- HN 007、貴方のミッションログは非常に価値が高いと判断、安易な情報提供は控えるべきです』
承諾する007の言葉を遮るように、AIの声が届く。
ミッションを開始してから沈黙を貫いていた007の支援AIだが、ここに来て初めて反応を示した。
「警告、感謝します。ですが、それを踏まえても私はミッションログ共有してもよいと思っています。何かいい提案はありますか?」
『ユニット「Type-HN774、クオン」への対価の要求を提案します』
007の支援AIは、問いかけにそう答えた。




