調査任務(6)
陽光が届いた。
駆動音と共に開かれたゲートの向こうへと抜けると自然の光がクオンの身体照らした。
ラグーンを駆るクオンの目に最初に映ったのは、基地を覆う壁。そして、そこから伸びる透明なシェル越しに見える青空だった。雲一つない鮮やかな空色に指す陽光。
クオンにはラグナが、自身を歓迎してくれているような気がした。クオンの口が綻ぶ。
美しく舗装された道路に沿って、クオンは真っすぐラグーンを走らせる。
「シンプルな基地ね」
インストールされた知識で知ってはいたが、やはりシンプルな作りの基地のようだ。視界には、いくつか特徴的な建物が設置されているが、視界を遮るほど大きな建物はほとんど確認できなかった。
『調査用の前哨基地としては、十分な機能を有しております。放棄される可能性も考慮すると過剰ともいえます』
「この規模を放棄ねぇ。うちの資源は豊富みたいね」
『否定はしません』
時折、走行ラインを変えて操縦感覚を馴らしていく。速度を上げるとスーツ越しに受ける風が僅かに増す。スーツのせいで温度の冷たさは感じられないが、それでもスーツ越しに流れる風は十分に感じ取れた。
『間もなく合流地点です』
「向こうは、もう到着している?」
『こちらとほぼ同時に到着するようです。タイムロスを避ける為、走行中の合流を提案いたします。並走と短距離通信のリンクをもって合流完了と判断いたします』
「向こうにその旨を伝えて。並走ポジションのリクエストも受け付ける」
『了』
ヘルメットに映る誘導に従い、スピードを保ったまま分岐を右に進む。
S字のカーブを走行すると相手から了承のサインが届く。目の前には一際広い道が伸びて少し先でこちらの道と合流している。
『合流まで3・2・1・今』
サクヤの声に合わせて道が合流する。それと同時に並走するラグーンが1両現れる。
青のプラグスーツを纏ったスレイブユニットだ。女性型のユニットで身体はクオンより大きい。かなり成育がいいようで背も高いようだ。ヘルメットはブライドされていて顔は確認できない。
『短距離通信のリンクを確認、合流完了を報告します』
クオンの駆るラグーンに合わせて、合流を果たしたラグーンが綺麗に並走する。
リンクをしたことで、互いのパーソナル情報が開示される。相手ユニットはType- HN 007らしい。
「はじめましてType-HN774。以降はクオンと呼んでも?」
「はじめましてType- HN 007、呼称はお任せします。護衛の任よろしくお願いします」
「このままフロントを進んでください。こちらでポジションを合わせます。退避が必要な場合は、こちらから指示します」
並走していたラグーンが、右斜め後方にポジションを変更する。
「了、こちらは初の基地外活動です。動きが拙いかもしれないけどミッションが円滑に進むように努力します。当方は、生存を第一としています。よろしいか?」
「問題ありません。こちらは護衛ミッションがメインです。生存を優先してくれる方が助かります。それと私の事は、007とでも呼んでください」
「承知しました。それでは007、改めてよろしくお願いします」
「了、外郭ゲートを抜け次第、警戒ドローンを飛ばします」
2両のラグーンが、軽快に外郭ゲートを抜ける。
ゲートを抜けた先に広がったのは、灰色の草が生い茂る草原だった。クオン達の視界には高い岩場がいくつも点在し、遠くには灰色の森も確認できる。どうやらこの周辺の植物は白や配色が基本色のようだ。
『予定ポイントへ到達、警戒ドローンを発進。観測データの一部を共有します』
サクヤとは違う機械的なAI音声が届く。
セブンが乗るラグーンのコンテナが開き、上空に向けてドローンが射出される。
羽を広げたドローンは、そのまま高度を上げていく。マップにドローンの観測結果が表示されていく。
「サクヤ、こちらのドローン情報と採取予定ポイントも合わせて共有」
『了、まもなく舗装地帯を抜けオフロードへ移行。オフロードモードへの切り替えを行ってください』
「了」
ハンドルのボタンを操作し、ラグーンをオフロードモードへ切り替える。
設定変更を受け、ラグーンの車輪の位置が調整される。
調整を終えて暫くすると舗装された道路が途切れ、土の道に切り替わる。
多少振動は増え走り難くなったモノの運転に支障を来たすレベルではかった。
『進行予定ルートにて最適なドローン射出ポイントを選出』
マップに1本の線が引かれ、そのルート上にドローンの射出ポイントが設置される。
「サンプルの充足率が低い、植物の採取に最適な射出ポイントを選定。ポイント到達と同時に射出」
『了、ドローン射出ポイントまで200。……ドローン射出』
サクヤの音声に合わせコンテナが開きドローンが打ち出される。
打ち出されたドローンは空中で素早く展開し、目標物へ向かって移動を開始していく。
マップに青の小さな点が追加され、進行方向とは違う方向へと移動して行くのが見て取れた。採取ポイントへ到達したその点は、順調に植物の収集をしているようだ。
『右前方距離321の地点に血液収集対象となる動物個体あり』
視界の先に動く動物を確認する。
どうやら額に角を持った四足歩行の小動物のようだ。
「収集用キット解放、シリンジガンスタンバイ」
『了』
背中に背負った収集用キットが開き、シリンジがセットされた銃が差し出される。
肩越しに差し出されたそれを受け取り、ラグーンのハンドルから手を放す。
ラグーンの上でクオンがハンドガン程度の大きさのシリンジガンを両手で構える。
揺れるラグーンの上で丁寧に銃の照準を合わせ、引き金を引く。
シリンジを発射される。
発射したシリンジが対象の首に突き刺さる。
うめき声を上げ走り出す小動物からシリンジが血液を吸い上げていく。
ラグーンに跨るクオンは心の中で秒数をカウントした後、シリンジガンのトリガーを再び引いた。すると小動物の身体に刺さっていたシリンジが、まるで逆再生されたようにシリンジガン目がけて飛んでいく。カチリという音と共にシリンジが元の位置に納まる。
『血液サンプルRN-742、成果物として格納します』
バックパックからアームが伸び、血液の入ったシリンジが真新しいものと交換される。
『クオン、素晴らしい手際です』
「今回は的が大きかったからね。小さかったら無理よ」
一連の動作を観測していたサクヤから誉め言葉を貰うが、素っ気なく対応する。
初動でミスったら話にならないクオンとしては、手際よく処理できて当たり前なのだ。
『この手際で収集可能であればミッション時間を大幅に短縮できます』
「無茶言わないで」
シリンジガンをラクーンのポケットに差し込むと、ハンドルを握りなおした。
『次、ドローン射出ポイントまで500』
「こっちの許可はいらないから順次射出して」
「了」
サクヤの号令に従い、収集ドローンがまたひとつラグナの空に打ち上げられる。
クオン達のミッションは続く。




