調査任務(4)
クオンがポッドから出るとそこには、宇宙の基地と変らない白い壁に灰色のフロアタイルの広い部屋だった。休眠ポッドが一定間隔で並べられているのも同じだ。
『ナビゲーションに従い移動を開始してください』
床に誘導ラインが引かれ誘導が開始される。
部屋の外まで続いており従えばまず迷う事はない。
「了解、基地の外でもサクヤがサポートしてくれるの?」
『肯定、特別な理由がない限り私がサポートを担当します』
「それは助かるかな。サポートよろしく」
インカムから返答を受け取ると周囲を見渡し、部屋の状況を確認する。
人影はない。しかし、並べられた休眠ポッドが光を放ち存在を主張している。
ポッドが放つ光は青や赤、黄の光。光が出ていないのは稼働していないポッドだろう。
傾向として青と黄のポッドが多いようだ。
『青は活動中、黄が休眠中、赤は治療中のユニットのポッドです』
浮かんだ疑問を見透かしたように、サクヤから説明が入る。
「別に聞いてないけど」
『興味を持っている様子だったので、不要なようであれば以降は控えます』
不満そうにするクオンにインカム越しに声が返って来る。
「必要に応じて説明を入れて欲しいかな。何度も説明する必要はないけど知っていた方がいい知識があれば順次教えて、記憶定着に役立つなら問題形式でも構わない」
『了。では、早速ですが質問です』
「はい、どうぞ」
誘導ラインに従いクオンが歩みを進める。
『現在の行動目標を応えてください』
「今向かっているのは第8ターミナルの武器保管区画。そこで防具と携帯武器を受領後、同ターミナルの格納庫へ。オートモービルと装備一式を受領し、A地区の4番ゲートへ移動。護衛ユニットと合流後、調査任務へ」
『不整合なし。大変結構です』
誉め言葉を受け取ったクオンは何だかむず痒い気持ちになった。
「えっと、なんか教練みたいね」
『事実、教練の一環です』
「褒めるのもその一環?」
『肯定。褒め言葉には、対象の意欲を高め自己肯定感を向上させる効果が期待できます』
「さようで」
どこまでも合理的なサクヤに、クオンがお座なりな受け答えをする。
『実際、クオンのバイタルに明確な変化を確認しました。個体差はありますが、クオンには有効であると判断します』
「説明を受けたせいで、色々台無しになったような気がする」
『否定、感情体験は将来的な精神の安定に繋がります。どのような感情であっても無駄にはなりません』
「体験しない方がいい感情もありそうだけど」
実際問題として、組織に対して反感を覚えてしまったら本末転倒になるだろう
『体験している事に意味があるのです。現実環境での体験に問題があるなら、仮想現実にて体験すればいいのです。先の戦闘訓練と同じです』
「ああ、なるほど」
説明に深く納得してしまうクオン。
組織に反感を抱きそうな体験は、仮想現実で済ます。そうすればどんなに不快な経験だったとしても仮想空間での出来事として処理が可能だ。訓練として銘打てば組織への反感なども大きく緩和される。訓練に反感を持っても、組織への反抗心などは浮かばない。
実際、先のクオンの戦闘訓練については、酷いカリキュラムだと思いはしても組織への反感などは皆無と言っていい。散々、殺し合いをさせられたにも関わらずだ。
そう考えると仮想空間を上手く使っていると言えるだろう。
『武器保管区画に到着しました。装備を受領してください』
インカムの声と共に両開きのゲートが開放される。
ゲートの先には長い廊下が伸びているだけだった。変化と言えば天井がやけに高く、廊下の幅もこれまでの倍以上の幅がある。
「これが保管区画?広めの廊下に見えるけど」
『武器保管区画で間違いありません。装備を受領してください』
「と言われても肝心の装備は、どこにあるの?」
戸惑いつつ廊下を進むクオン。
スピードを変えず真っすぐ歩みを進めると、壁の一部が突き出て防護服とヘルメットが出現した。サンプル収集用キット&専用バックパックもある。
「これを受領しろってことね。着用もここでやっていいの?」
『肯定、この場にて着用を行ってください』
サクヤの指示に従い、インストールされた知識を元にプラグスーツの上から追加のプラグスーツを装着していく。特に躓くことなく装着を完了するとクオンは各部の可動域を確認していく。
『可動域に違和感があれば申告してください』
「特に無いかな」
身体のあちこちを動かし確かめるが、どこにも異常は見受けられない。むしろ、違和感が無さ過ぎて心配になるほどだ。
『パーソナルデータとして装備情報を保存。以降の装備に反映します』
クオンの防護服の装着完了と同時にヘルメットのロックが外れる。
視野角の広いヘルメットを手に取り髪に気を付けながらそれを被る。ヘルメットの一部が収縮し、防護服の気密が確保される。
『気密&防護フィルタの状況を確認します。深呼吸を行ってください』
呼吸を促す言葉に従い、その場で数回深呼吸を行う。
『気密&フィルタは正常に稼働。緊急時を除き内部エアは使用されません。フィルタの稼働保障時間は1200』
「調査予定時間を考えるとミッションを100件処理しても余裕がありそうね」
『フィルタは返却時に交換されますので心配無用です』
「了解、残りの装備は?」
『こちらです』
サクヤの言葉に合わせて側面の壁から棚がせり出す。今度は横長のボックスだ。
ボックスの中には、レーザーガンとコンバットナイフ。そして、それらを納めるためのホルスターが格納されていた。
レーザーガンとコンバットナイフについては、戦闘訓練で使用したモノと全く同じ型だ。
腰にホルスターを装着し、レーザーガンとナイフを収納する。続けて後回しにしていたバックパックと収集キットを背中にセットする。
『装備の受領を完了。格納庫へ移動してください』
全ての棚が壁の中に収納され、正面のゲートが開く。
誘導に従いゲートを抜けると背後のゲートが閉鎖され、クオンは中に閉じ込められる。
すぐに変化が現れ、駆動音と共に正面のゲートが開かれる。
『以降のナビゲーションは、音声とスクリーン情報で行います』
「了解」
ゲートを抜けた先に存在していたのは、数多のスレイブユニットと兵器が犇めく巨大な格納庫だった。




